第二百十四節 安の過去……
昏衣斗さんが納得してくれて良かったでやす。
まだ安心は出来やせんが、あと少しで船に着きやすし奴等も居ないみたいでやす。
もう大丈夫でやしょう。
必死に逃げている子供なんて居たら、黙って見てなんか居られないでやす。
あの頃の、あっしがそうでやした。
今も、あの怒鳴り声は耳に残ってやす。
逃げて逃げて、ひたすら逃げて……
そんな日々でやした。
あっしは、孤児って言葉が嫌いでやす。
もちろん犯罪だって、大嫌いでやすよ。
それで両親は殺されたんでやすから……
両親が強盗に殺されてからは、楽園って所で育ちやした。
ようは孤児院でやすね。
小さな所でしたが、なかなか良い所でやしたよ。
そこの園長は、凄く良い人でやした。
でも……人が良過ぎるってのも大問題でやす。
莫大な借金を背負って、楽園は閉鎖になっちゃいやした。
そして、園長はそのまま失踪。
残った職員は何とかしようと色々動いてくれやしたが、どうにもなりやせんでした。
最終的には、その職員達も居なくなりやした。
そりゃそうでやす。いつまでもあっし達と居れば、それこそ共倒れでやすからね。
皆だって、まずは自分が大切なんでやす。
しばらくすると柄の悪い連中が一杯やって来て、あっし達はその家を追い出されやした。皆で歯向かいやしたが、結局は怪我をしただけ……どうする事も出来やせんでした。
結局、奇麗事だけじゃ生きて行く事なんて出来ないんでやすよ。
大きな橋の下に廃材で囲いを作って、そこを家にしやした。
だけど、腹は減りやす。
あっしは盗んででも食べるべきだと提案しやしたが、無駄でやした。
「園長は、そんな事を望んでいない!」なんてカッコ良い事を言ってやしたが、
結局は当の本人だって逃げちゃったじゃないでやすか。
何を認めたく無いのか知りやせんが、真面目過ぎるってのも大問題でやす。
どうにかして働くと言ってあちこち行ってた奴も居やしたが、
子供を使ってくれる所なんてそうそうありやせん。
手も足も出ないとは、あの事でやすよ。
やがて、一人二人と動かなくなっていきやした。
そう言うあっしも、動く気力なんてありやせん。
そして二人目が息を引き取った時に、あっしは決意しやした。
もう、皆が何と言おうと関係ない。奪ってでも生きてやるんだって……
それからは、大変でやした。
二人居なくなったと言っても、まだ七人。
逃げて逃げて、ひたすらに逃げて……
やがて皆は、それぞれの道へ進んで行きやした。
今頃、どうしてるんでやしょうね~?
まぁ皆して学なんて無いでやすからね、そんなに凄い所には入り込めないにしても
せめて幸せに暮らしていて欲しいでやす。
あっ、一人はどうしてるか良く知ってやすよ。
あの時、一緒に居たのがホワイティでやす。
本人は探偵だなんて言ってやすが、やってる事はチンピラでやすからね~……
まったく、何をイキがってるんだか……
いつまで経っても、困った奴でやすよ。
でも……今思えば、全てが悪い事じゃなかったのかもしれないって思いやす。
だって、そのお陰でこうして旦那と巡り会えたんでやすから。
だけど、あっしは過去に感謝なんて絶対に出来やせん。
そんなに、人間できて無いでやすよ……