第二十一節 情報だよね~……
ここは、パンツェッタ港。
リーさんに教えてもらった、商人ご用達の厩舎に馬車を預けた私達は町に訪れていた。
妙にゴシック調のデザインが目立つのは港町ゆえの事だろう。
横浜や長崎のように、他国の文化が反映されていても可笑しくは無い。
今は百年祭のイベントで、昼間から花火が上がり、港町は人で入り乱れて活気溢れている。
こんな所で、はぐれでもしたら大変だ。
「どうするよ? これじゃ、迷子が出るぞ?」
それに、翔子は怒り始める。
「私は子供じゃない!」
「いや、これじゃ誰でも迷子になるって……
何かの時の為に、待ち合わせ場所を決めないか?」
「それでは、あそこは如何です?」
翔子が指を向けた先には、巨大な建物がある。
何やら、激しく記憶にある形なのだが……
「あれはサクラガ・キレイダと言って、有名な大聖堂です。作者は偉大なる建築家の……」その口元に、手の平を向けて首を振る。
「皆まで言わなくて良い……」
それに、不思議そうに首を傾げる。
「あれを、ご存知なのですか?」
「どうせ、未完成なんだろ?」
「え? 良くご存知で……」
ここまでくれば、予想が付くって……
私達は、船が付いている埠頭で魔の大陸へ行く船を捜していた。
とりあえず、偉そうな服を着た船乗りに聞いてみる。
「魔の大陸まで行く船を捜しているんですが……」
「あぁ、今は無理だよ!」
あっさり言いやがった……
「え? なんで?」
私が問うと、困り顔で言った。
「今は、どうしても無理なんだよ。どの船も、あそこには行かないだろうさ」
「何とか、船を出せる方法は無いのですか?」
遥子が尋ねると、大きく溜め息をついて話しだした。
「あぁ、悪いな。だが国家命令だとかで、本当に出せないんだ。俺達も商売上がったりさ」
両手を半端に宙へ浮かせると、呆れたように繭を上げた。
船乗りの話によれば、
「魔の大陸付近の海域には、一切入ってはならない」などと言う命令が
突然に下ったそうだ。
それを無視すれば、船も資格も没収されてしまうと言う。
そして、その規制が解かれる気配は今の所無い。
「そんな無茶な条件で、わざわざ行く馬鹿は居ないだろうよ」と呆れ顔で言っていた。
これは困った……
船が無ければ、先に進めない。
さて、どうしたもんか……
とにかく、このままではどうにもならないのは確か。
行き当たりばったりでも、動き出さなければ始まらない。
何か策は無いものかと、情報集めを開始した。
私達は、酒場に行ってみる事にした。
やはり、情報と言えば酒場である。
といっても、それはゲームの話なのだが……
だが、人々の交流が多いこの街ならば行って見て損は無いだろう。
見るからにショットバーのような店の看板には、
Berタリアンと書いてある。
おいおい……変なの居ないだろうな……
まぁ、この際どうでも良い。入ってみよう……
店に入ってみると、まずまずの客入りでそれなりに賑わっている。
テーブル席は一杯なのでカウンターに並んで座ってみると、
三人組が揃ってミルクを頼み始めた。
「あ……あたしもミルク……」
どうやら遥子も、ミルク連呼に釣られたようだ……
ミルクねぇ~……
マスターに聞いてみた。
「他に、アルコールの入っていない飲み物ってあるの?」
「お前、頭大丈夫か? ここは酒場だぞ?」
確かにその通りだが、何かムカつくな……
「だが、何故か置いてある! こう言うの好きそうだろ? ほれ!」
あるなら最初から出せよ……
炭酸飲料のような物を飲みながら、話を聞けそうな客を見定めていると、
ざわめく店内の後から、かすれていながらも甲高い妙に目立つ声が聞こえてきた。
「その時でやす! あっしが振りかざした剣が、守護神を一刀両断!」
ん? 守護神だと?
耳を澄まして話を聞いていると、やはりコジュウ塔の事のようだ。
何故、奴が知っている?
これは、話を聞いてみるしかない。何かしらの情報は、必ず持っているはずだ。
私が立ち上がろうとすると、横で椅子が激しく音を立てた。
遥子が、凄い勢いで奴のところに向かっている。
おいおい……どうするつもりだよ……
そして、その一撃は放たれた。
奴は壁に向かって、一直線に吹っ飛んでいる。
大丈夫だろうか?
お? 生きているようだ。直撃の割に、意外にすぐ立ち上がったな……
「何するんでやすか!」
そりゃ怒るわな……
しかし、それを遥かに凌ぐ勢いで遥子が叫んだ。
「全然違うわよ! ほざいてるんじゃないわよ!」
奴が、うろたえている。だが、負けてはいないようだ。
「そう言う姉さんは、行ったんですかい?」
その時、遥子の手の平に光が見えた。
おいおい、実践かよ……ここじゃヤバいって……
私はすぐに駆け寄ると、遥子の前へと出た。
「私と一緒に、攻略してきたぞ?」
「ま……まさか……だって、あそこは勇者でなければ攻略なんて出来ないはずでやす」
自分でバラして、どうするよ……
「だが、良く知っているな。それを、どこで知った?」
「それは、企業秘密でやすよ」
ニヤける奴が何かムカついたので、思わず襟を強引に掴んで締め上げた。
「わかりやした! わかりやしたって……旦那……離してくだせい……」
私が手を離すと、咳き込みながら言った。
「たまたま、見つけたんでやすよ……古文書を……」
「何処でだ?」
「チョイワル族のお城でやす。いっぱいあったので一冊くらい大丈夫かなと……」
「いっぱい?」
「えぇ、そりゃもう同じような内容の本が何百冊もありやした」
やはりチョイワル族は、魔の大陸に一枚噛んでるのか……
私は、人差し指を立てた。
「もう一つ聞くが、魔の大陸へ行ける方法は知らないか?」
「知りやせん……」
私達が見下ろすように冷ややかな視線を投げると、身を引いて目を丸くしながら言った。
「本当に、知らないんでやす! 嘘じゃありやせん、信じてくだせい!」
とりあえず、奴を放置してマスターや他の客にも聞いてみたが、
全く情報は無かった。
「仕方ない、他を当たるか……」
会計を済ませて酒場を出ると、奴が走ってきて私達の前に立ち塞がった。
「なんだ? まだやるのか? 今度は遠慮しないぞ?」
「いえ! 違うんでやす!」
慌てて両手をふると、いきなり土下座をした。
「ぜひ、あっしを仲間にしてくだせい! 絶対に決して損はさせやせん!」
「無理だな……」
即答すると、これ以上ないほど悲しそうに顔を上げた。
「何故でやすか?」
私は、軽く溜め息をつく。
「お前、弱いだろ。普通に死ぬぞ?」
「そんな、殺生なぁ……」
嘆いているが、どうにもならない。それが奴の為だ。
私達は、無視するように歩き始めた。
遠ざかる私達に、奴は叫んだ。
「絶対に、諦めやせんからね~!」