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第二百七節 寝ておきますか~……

 食事を終えて、しばらく談笑した後に加瀬朗さんが立ち上がる。

「さて、ぼちぼち行くか!」

それに続いて採光さんも立ち上がった。


 しばらくすると、採光さんが大きな声を上げた。

「おぉ! キタ~!」

キタ~って……

そしてそのまま、こちらに走ってくる。

「どうしました?」

おもわず声を掛けると、甲板を指差す。

「掛かりました! 手伝ってください!」

皆で採光さんに付いて行くと、必死に仕掛けを上げている。

「すみません! 網をお願いします!」

私が網を海面に差し出すと、底から大きな何かが上がってくるのが見えた。

「来ましたよ~、イイですか~?」

私は静かに頷く。

やがて水面に上がってきた魚に合わせて、網を海に入れた。

そのまま引き上げようとするが、あまりに重いのでまともに上げられそうに無い。

私は魚の入った網を、縦にしてそのまま強引に引き上げた。


 甲板に上がった魚は、かなりグロテスクだ。

だが、雰囲気からしてアンコウの一種だろう。

大きく息をついていると、採光さんが言った。

「来ましたよ~! これがアンコールワットです!」

いや、それ別物だから!


 採光さんと昏衣斗さんが魚をキッチンで捌いている間に、

私達はテーブルの片付けを終わらせて甲板にでた。

後方に向かって綺麗に残る波紋からすると、すでに船はかなりの速度が出ているようだ。

モーターボートのように派手な波紋ではないが、実際こっちの方が美を感じる。

速さを追求すれば確かにエンジンとスクリューに分があるのだろうが、

この独特の味わいは帆船ならではの物だ。


 現代の日本においても、ヨットを愛する人々は意外に多い。

マリーナにはクルーザーに混ざってヨットが停泊しているのだが、

そのあまりの数に驚くほどだ。

良く釣りに行った時に見ていたが、当時はこのご時世にヨットの何が良いのかと

不思議に思っていたものだ。

だが、乗ってみて初めて解る事もある。

自然の風を目一杯に受けて進んで行くその姿は、間違いなく美しい。

やはり、帆船はロマンだ。

今、その気持ちがようやく少し理解できた気がする。


 その時、私達に気付いた加瀬朗さんが言った。

「今日も、兄ちゃんが見張りだろ? 今のうちに寝といた方がイイぞ?」

なるほど、確かにそれの方が楽だな。

「はい、では少し休ませてもらいます」

その答えに、加瀬朗さんは笑みを浮かべてまた正面に視線を移した。


「では、先に寝てくるよ。もし起きなかったら宜しく」

私が軽く手を上げると、遥子が冷たい視線を向けながら言った。

「あんまり起きないと、撃つからね……」

「おいおい、勘弁してくれよ。それ、普通に死ぬから……」

そんな会話に、皆は笑みを浮かべていた。



 とりあえず寝室に移動すると、ロウソクの灯りは付いていないが

少し薄暗い感じで状況が確認できる。

光源を探してみると上の方が明るいので、どうやら天井に近い部分に

小さな窓があるらしい。

光を上手くクッションさせて、直射日光が入ってこないように工夫してあるようだ。

ひとまず装備を外してベッドに横になってみると、絶妙な暗さが保たれている。

これなら寝るには丁度良い。


 正直な所まだ眠くは無いが、仮眠だけでもずいぶん違うはずだ。

それに、あまり寝呆けていると危険だしな……


 皆の前では気楽に行こうと言ってみたが、やはり心配は尽きないものだ。

やはり、何も対策が講じられないのは大問題だ。

出たトコ勝負と良く言うが、個人的にはあまり好きな戦略では無い。

有無も言わせない圧倒的戦力があれば話は別だが、海賊と言うからには

当然ながら頭数は多いだろう。

白兵戦を前提として考えるなら、私達はたったの3人。

誰がどう考えても、圧倒的に不利である。

相手に近づく事は、極力避けなければなるまい。


 だが、距離さえ取れば有利な事柄がある。

まず、この船の速さは相当に期待できる。

そして遥子達の魔法だ。

もはや、そこに掛けるしか手は無い。

しかし、奴等は海賊。

例え白旗を揚げたとしても、安心は出来ない。

何しろ、今回の相手は商船を狙う卑劣な賊なのだ。

海賊がカッコ良いのは、アニメや映画の中だけの話。

奴等は、正々堂々など全く似合わない人種である。

相手を油断させて背中から斬りかかって来る事など、当たり前に想定しておくべきだろう。

私は基本的に、あの手の輩は嫌いだ。

しかし奴等と同じステージに上がるのならば、こちらも卑怯な手段で立ち向かわなければ

到底勝ち目など見えてこない。

なるべく人間を手にかけたくは無いのが本音だが、私達が生き残る為には

心を鬼にしなければならないのだ。

まったく……嫌な戦いになりそうだ……












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