第二百二節 今日はユックリしますかね~……
その時、採光さんが呼びに来た。
「お待たせしました、全て準備は完了です」
それに頭を下げあって、採光さんは奥の方へ声を掛けた。
「そっちは、どうだ?」
昏衣斗さんは真っ暗な部屋からヒョコっと顔を出す。
「あぁ! 今終わるよ!」
二人は笑みを浮かべあって納得しあっているようだ。
「おまたせ~」
小走りに昏衣斗さんが出てくると、採光さんが頷きながら私に視線を向けて言った。
「では、クラブハウスへ行きましょう」
船の戸締りを済ませて、私達はクラブハウスへと向かった。
加瀬朗さんが部屋を取って、カギを私に投げながら言った。
「今日は、もうヤル事はねぇ! 兄ちゃん達も、どこも行かねぇんだろ?」
2つ飛んできたカギを、何とか受け取って答える。
「えぇ、同じく何もありません」
「だったら、早く休もうや! 明日から大変だぜ~?」
怪しい笑みを見せながら私を指差している。
「んじゃ俺は、その辺で一杯引っ掛けて来るからよ! じゃな!」
加瀬朗さんは軽く手を上げて、意気揚々と出て行ってしまった。
採光さんと昏衣斗さんは、呆れたような表情を浮かべながら言った。
「なんか最近イイ所見つけたらしくて、毎晩行ってるみたいなんですよね~。まぁ、唯一の楽しみなんでしょうから見逃してやってください」
申し訳なさそうにしている二人に、笑みを浮かべながら答えた。
「お二人は、行かないんですか?」
すると二人揃って、目を丸くした。
「いやいや、とんでもない! 一緒に行ったりなんかしたら、もう大変なんですって!」
「でも、一人じゃ寂しがりませんか?」
「またまた! あの強烈な絡みを知らないから、そんな事が言えるんですよ! 勘弁してくださいよ~! 船の上じゃ、絶対に飲ませちゃダメですからね!」
そのあまりの恐れ方に、おもわず私達は噴出してしまった。
ひとしきり笑い終えて、二人と別れた私達はそれぞれの部屋に入った。
前と番号は違う物の、造りは一緒で相変わらず特徴のないデザインだ。
私はベッドに座りながら、安に聞いてみた。
「そう言えば、伊代とはどうなんだ?」
「どうって言いやすと?」
そう来るか……
「いや、良く一緒に行動するだろ?」
ひとまず聞いてみると、安は目を輝かせて話し始めた。
「そうでやすね、伊代さんは素晴らしい剣士でやす。あっしが居て欲しいと思う所に必ず来てくれやす。瞬時に状況を読む力は、物凄いでやすよ。安心して背中を任せられるでやす」
確かに剣士としては素晴らしい。だがな~……
「それだけか?」
更に聞いてみると、安は何やら不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
「え? 他に何かありやすか?」
おもわず私は、安に手の平を向けて言った。
「いや……何でも無い。気にしないでくれ」
どうやらコイツ……重度の天然らしいな。
だが、現時点でこれ以上突っ込むのは明らかに良くない。
今この二人のコンビネーションは、飛び抜けた完成度だ。
私も、戦力として当てにしている部分が確かにある。
ここで下手に意識してギクシャクされたら、それこそ死に繋がりかねない。
伊代には申し訳ないが、この問題は
もう少し時間をかけて行った方が良いのだろうな~……
まぁ遥子もフォローはしてくれるはずだし、こういう繊細な問題は女性のが得意だろう。
下手に、私が引っ掻き回すのは良くない。
まずは流れに任せるとするか。