第二百一節 買い物ね~……その2
野菜や調味料は皆で手分けして持って、露店街の入り口まで戻って来ると
遥子達の姿が無い。
なんだ? まだ買い物しているのか?
「少し、待ちましょうか?」
採光さんが優しく言ってくれたので、頭を下げる。
「すみません、お願いします」
荷物を下ろして待っていると、遥子達がキャッキャ言いながら戻って来た。
ひとまず聞いてみる。
「何か、面白い物でもあったのか?」
遥子は、私を見ると言った。
「ねぇ! これ見てよ! 可愛いわよ~」
差し出した物を見ると、それは小さな人形だった。
だが、それを見て私もおもわず笑った。
「何だよ、それ! メッチャ似てるじゃん!」
「でしょ~!」
遥子も嬉しそうに言っている。
すかさず視線を横に向けて聞いてみた。
「なぁ? これ、安がモデルなのか?」
それに苦笑いを浮かべながら答えた。
「旦那~、勘弁してくださいよ~」
その時、大きな声がした。
「あの!」
ん?
「それ、どこに売ってたんですか!」
何やら、伊代が真剣な表情で遥子に聞いている。
「ん? 結構、向こうだったわよ?」
遥子が遠くを指差すと、伊代は更に迫った。
「教えてください! お願いします!」
「え? えぇ、別にイイけど……ってチョット! 伊代! どうしたのよ~」
そのまま遥子は、伊代に手を引かれて連行されて行ってしまった。
「いったい、何事でやすか?」
不思議そうに首を傾げている安を、おもわず見る。
コイツって、鈍いのか?
しばらくすると、遥子と伊代が戻って来た。
「おまたせ~」
私はそれに頷いてから、伊代に視線を移す。
すると伊代は小さな人形を両手で大事に持って、嬉しそうに見つめていた。
その時、安が小声で聞いてきた。
「旦那~……何で、あんなのがイイんでやすかね~?」
お前、ホントに鈍いぞ……どんだけ天然?
おもわず遥子に視線を向けると、やはり呆れたように肩をすくめていた。
ひとまず採光さん達に声を掛ける。
「お待たせしました、では行きましょう」
それに頷いて、荷物を背負い始める。
私も麻袋を担いで野菜の箱を抱えた。
埠頭を抜けてクラブハウスが見えてくると、採光さんが言った。
「とりあえず荷物を船に積んでしまいましょう」
「はい、わかりました」
そのまま木で出来た船着場を歩いて行くと、加瀬朗さんの黒い船が見えてきた。
甲板では、加瀬朗さんが一心不乱にロープを撒きつけている。
私達が船に掛かった板を登って甲板に上がると、加瀬朗さんが気付いた。
「おう! 戻ったか! お! 兄ちゃん達も来たな! おっし! 一気に、やっちまおうぜ!」
二人はそれに頷いてキャビンへ入って行く。
キッチンの奥の扉を開けて、真っ暗な中へ行ってしまった。
とりあえず付いて行くと、何気にヒヤっとする。
冷蔵庫とまではいかないが、かなり温度が低いようだ。
「明かりが無くてすみません。とりあえず、その辺りに置いて下さい」
言われるままに荷物を下ろしていると、少し目が慣れてきた。
周りは全面が棚になっていて、食材や調味料が所狭しと置いてある。
どうやら、ここは冷蔵室のようだ。
「それじゃ昏衣斗! あとは頼んだぞ」
「おう! 任してくれ!」
採光さんは、そのまま甲板に出て行こうとしたので聞いてみた。
「あの、何か手伝えますか?」
「う~ん……あとは細かい事ばかりですので大丈夫ですよ。適当にくつろいでいて下さい」
「はい、ありがとうございます」
笑顔で甲板に出て行く採光さんを見届けて、私達はキャビンの椅子に腰掛ける。
皆が一息ついた所で、私はおもむろに腕を組んでアゴに手を当てた。
さて明日から出発だが、かなりスケジュールは詰まっている。
これを極力効率良く済ませなければならないが、どれも情報に乏しい。
まったく、頭が痛い話だ。
その時、遥子が呆れたように言ってきた。
「何? また考え込んでる訳? 今からそんなじゃ、そのうち銅像になっちゃうわよ?」
「いやいや、ロダン作じゃないんだから」
おもわず答えると、遥子は笑みを浮かべながら続けた。
「どのみち行き当たりばったりになるんだから、別に悩む事なんか無いじゃない」
「まぁ、確かにそうだな。気楽に行くか」
それに、皆も素直に頷いた。