第二百節 あの頃は……
荷物を担いで歩いている時に、ふと思いだした。
あれから、もう二年か~……
それは遥子の買い物に付き合わされて、両手に持ちきれない位に大量の紙袋を
ぶら下げて歩いていた時の事――
――
「ねぇ? もう少し、付き合ってくれない?」
「え? まだ買うのか?」
「いいから、黙って付き合いなさいよ!」
「はい……」
遥子の後ろをスゴスゴと付いて行くと、何故かゲームショップに入って行った。
ん? ゲーム? 何で?
良く解らないまま付いて行くと、遥子は財布から何かを取り出して
レジの店員に差し出した。
すると、店員が笑顔で答える。
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」
しばらくすると、店員が戻って来た。
「お待たせ致しました。こちらになります」
ん? あれは!
「5800円になります」
遥子は支払いを済ませると、そのままゲームショップを出て行った。
私は満タンの荷物を手に、スゴスゴと付いて行くしかない。
何故か黙ったまま帰路についてしまったので、私も何やら話しかける雰囲気ではない。
結局の所、遥子の家まで来てしまった。
門の前で立ち尽くしていると、遥子が冷たい視線を送りながら怒鳴った。
「みっともないから、早く入って来なさいよ!」
「はい……」
家に入って行くと、遥子は黙ったまま二階へと上がって行く。
確かに遥子の部屋は二階だ、別に不思議な事では無い。
私も付いて行くが、大量の紙袋が進行を妨げる。
片手を上に上げながら何とか階段を上がって部屋に入ると、
すでに遥子はベッドに座ってくつろいでいた。
遥子の部屋は一般的な六畳間にカーペットが敷いてある、ごく普通の造りだ。
机やベッドは以前から使っている物で、最近増えたのは物と言えば
服を入れるクローゼットくらいだろう。
そこに視線を送ると、また服が増えている。
来る度に、凄い勢いで増殖して行く光景はさすがに不気味ですらある……
何か、培養でもしているんじゃないのか?
部屋の雰囲気は、私の部屋と違って綺麗に片付いていて居心地は良い。
まぁコレと言って珍しい物が置いてある訳でもなく、ごく普通の部屋である。
バランス良く赤系が使われていたりヌイグルミが置かれていたりして
簡単に表現するなら、いわゆる女の子らしい部屋だ。
「あ~、疲れた。荷物は、その辺りに置いてね」
言われるままに荷物を置いて、部屋を後にしようとすると遥子が怒鳴った。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
ん? 何か、やらかしたか?
不思議に思って振り向くと、何やら不敵な笑みを浮かべて手招きをしている。
恐る恐る近づくと、さっきのゲームソフトを差し出してきた。
「今日、あんたの誕生日でしょ? ほら!」
ん? そうか……今日は、私の誕生日だったか……忘れてたな。
「それって、プレゼントなの?」
何気に聞くと、怒ったように言った。
「別に、そう言うつもりじゃないわよ! いいから黙って受け取りなさいよ!」
遥子から受け取ったゲームは、確かにアレだ。
あまりの人気に生産数が全く追いつかず、予約は不可能だと言われた
あの超レアなゲームである。
「これ……どうやって予約できたんだ?」
おもわず聞いてみると、遥子は不敵な笑みを見せた。
「いくらでも手はあるって事よ……」
いやいや、手はあるって……
あらゆる店を回っても、入荷する見込みは全く無いって話だったんだぞ?
行きつけの店でさえ、
「いくら何でも無理だ! あんなもん、入る訳が無いだろ!」と言われた程である。
それを、どうやって……
ゲームのケースを見ながら悩んでいると、遥子が怒鳴った。
「何? いらない訳?」
「いやいや、そうじゃないけど……あの……ありがとう」
私が頭を下げながら受け取ると、遥子はゲームを指差して笑みを浮かべた。
「それに比べれば、この程度の労働なんて安いもんでしょ?」
確かに、このレアなゲームが手に入るならこの程度の荷物はお安い御用だ。
「本当に、イイの?」
少し心配になったので聞いてみると、遥子は呆れたように笑った。
「あんたが終わったら、あたしがやるからイイのよ!」
そう来るか……
「でも……本当に嬉しいよ。ありがとう」
遥子は、その言葉に照れたような表情を浮かべると怒ったように言った。
「だったら、あたしに尽くしなさいよ!」
おいおい……
そして、それから私のゲーム失踪事件が始まったのは言うまでもない――
――
私は麻袋を担いで歩きながら、ふと笑みを浮かべる。
何だかんだ言っても、アイツって……
けっこう優しいんだよな……