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第二十節 馬車ね~……

 ヨウジョ4人の激しく長い別れを済ますと一度街に戻って、

一通りの用事を済ませてから本題に入った。

さて、問題の馬車だ……

少なくとも、安くは無いはず……

さて、どうしたもんだか……


 旦那さんに教えて貰った、馬車を売っていると言う店に来てみて驚いた。

値段が書いた札を張って、ずらりと並べてある。

これじゃ、どう見ても中古車屋だ……

だが、看板には

『道端レーシング』と書いてある。

どうして、レース?

何屋だよ、ここ……


 とりあえず値段を見てみると、思っていたほど高くは無い。

その値段はまちまちで、50万もあれば350万あって理解に苦しむ。

79万8千とか、半端な数字は辞めて頂きたい物だ……

そして、単位はエンだ。

ヨウジョ国を超えたら、すぐにでもドル圏内になるだろうと思っていたが、

それは私の勘違いだった。

簡単に言えばエンとドルが逆転した感じで、エンが国際的に幅を利かせているらしい。

必死にドルへの換金方法を尋ねる私に、教子が不思議そうな顔を浮かべていたのも

今では素直に頷ける。

全く、先入観とは恐ろしい物である。

そして語源に関しても同様で、日本語がどこでも通用する。

これだけでも、相当に助かっている。

恐れていた事態にならなくて、本当に良かった。


 さて、問題の馬車だが、この価格帯なら買えない事は無いだろう。

私達だけでも、ヨウジョ国からの冒険者援助金を

2人分で1千万貰っているので、ある意味余裕だ。

まぁ、まだ肝心の馬も買わなければいけないので、まだ何とも言えないが……

まだ先も長いであろう現状では、少なくとも無駄な出費だけは抑えたい所だ。


 とりあえず見て回っていると、ツナギのような服を着た

人の良さそうなオッサンが寄って来た。

「何、探してるんだい?」

馬車に決まってるだろ……

まぁ、そんな突っ込みはやめておいてオッサンに聞いてみる。

「これって、中古ですか?」

「あぁ、ウチのは程度がイイよ!」

また、ありふれた台詞を……

こんな事を言う奴がほど、信用できないものだ……

だが、選ぶ基準が全く判らない。

試しに聞いてみる。

「選ぶポイントって、どこなんです?」

オッサンは、それに問い返してきた。

「ん? 馬車は初めてかい?」

私が頷くと、オッサンは目を輝かせて話し始めた。

「まず大切なのは、この軸だ。ここが逝っちまったら、もう終わりだ。

後は、木の状態だな。こんな風にヒビ割れてるのは数週間でアウトだ!」

いや、バラしてどうする……お宅の商品だろ……それ……

だが、このオッサンは意外に使えそうだ。続けて質問してみた。

「そうすると、お勧めってどんな感じです?」

もはや、任せておけと言わんばかりの表情だ。

「俺がお勧めするのはコイツだ! この流れるようなライン!

たまらんね~! く~!」

大丈夫か? このオッサン……

「そして、この幌を見よ! どんな雨でも、へっちゃらだぜ!」

確かに、それはありがたいが……

「何故、これを勧めたか判るかい?」

いや、判らん……

私は素直に首を振った。

「だろっ! あの値段ばっかり高い奴は、もっぱらお偉いさんが使うもんさ! それに比べて、この追求された機能美! 競争したって、あんなのには絶対に負けないぜ!」

あんなのって……

「兄ちゃん気に入った! 今なら、完全保障サービス付きだ! まぁ、コイツなら絶対に壊れないけどな! もってけ泥棒!」

泥棒って……

だが、悪くない条件だ。

それに、値段も安い。この中で60万は、確かに破格だ。

隣にあるボロボロの50万より、遥かにお得に見える。

「じゃ、これ下さい」

あっさりと商談が成立した。


 さっきから、女性陣が文句を言っている。

どうやら、そのオッサンの言うお偉いさんが使う馬車の装飾がカワイイとかで、

そちらに目が行っていたようだ。

だが、機能美もまた究極の美である。

この女性達は、そこにロマンを感じる事は無いらしい……

嘆かわしいものだ……


 私達はオッサンの紹介で、馬を売っていると言う所に来ている。

どうみても、牧場だな……

あまりに広いので、どこに行けば良いのか悩むほどである。

ようやく人を見つけたので、近づいて行った。

 先ほどの店を出発する時、そのオッサンに

雷陀亜書大ライダアショ・ダイって奴を、指名しなきゃダメだぜ!」と言われたので、

その人を呼んだ。




「あの……雷陀亜書大さんですか?」

「あぁ、いかにも雷陀亜書大だが? いや~はっはっは」

黒い革ジャンに、赤いマフラーを首に巻いている。

センス的には如何なものか思うが、妙に強そうな雰囲気がある。

低音ボイスが妙に渋い、笑顔の素敵なオッサンだ。

道端レーシングで紹介された旨を伝えると、突然に視線が鋭くなった。

「なに? おやっさんが?」

何故に両手を水平に広げて、首を左右へと揺らしているのかは不明だ……



「まぁ、来たまえ」

案内された場所には、広大な土地が広がっていた。

大さんは、おもむろに腰に手を当てる。

「どうだ? 自然は最高だろぅ。まず、空気が美味い!

最高じゃないか~。いや~はっはっは」

謎めいた自己完結の後に甲高い指笛を吹くと、一頭の白馬が走ってきた。

「これが私の愛馬、サイクロン号だ」

「はぁ、なるほど……」

とりあえず頷くと、とても低い声で説明を始めた。

「馬って奴はね~、この足が大事なんだよね~。筋肉とのバランスって奴がね~」

その時、背後から呆れたような女性の声が聞こえた。

「また、要らないウンチクを語っている訳?」

おもわず振り向くと、綺麗な人が立っている。

真ん中で分かれたワンレンのようなカットだが、

その細身のスタイルとカウボーイのような服装で

ボーイッシュな雰囲気を醸し出している。

目鼻立ちはとても整っていて、美形と言って間違いは無いだろう。

その時、おもむろに大さんが立ち上がった。

「出たな、祥華ショウカ!」

また両腕を水平に広げている……この人のポーズなのだろうか……

すると大さんが、私達を思いだしたように見ると話し始めた。

「あぁ、君達すまないね~。これは、渥野祥華アクノ・ショウカと言ってね~。

世界征服を狙っているんだね~」

「狙ってないわよ! ただアンタが私に勝てないだけでしょ?」

「なんだとぅ?」

何やら、喧嘩でも始まりそうなので間に割って入る。

「まぁ、落ち着いてください……」


 話によると、どうやら毎年馬車のレースが行われているらしい。

そのメインレースで、3年連続優勝をしているのが祥華さんだそうだ。

そして大さんは、万年2位と言う屈辱を受けているのだと言う。

2位じゃダメなんでしょうか? と言う突っ込みはやめておこう……


 問題は、サイクロン号の足にあると言う。

レースに出場する事自体は問題なく、大さんの管理も行き届いているので

万全の状態だそうだが、

何やら足に故障を抱えているらしく無理な走りは出来ないそうだ。

「サイクロン号の実力は、こんな物ではない!」と悔しそうに拳を握り締めていた。

何か、出来ないだろうか?

いや、深入りするつもりは毛頭無いのだが、関わってしまったからには見ていられない。

私は、遥子に尋ねてみた。

「なぁ? あの回復魔法って、馬に効かないの?」

それに、はっ! としたような顔を浮かべて蓮を見た。

「いけるよね! それ!」


 遥子と蓮は、サイクロン号の横に立っている。

これから、魔法が発動だ。

さて、どうなることやら……

七色の光が綺麗に弾け飛ぶと、二人は大きく息をついた。

「大さん、いかがでしょうか?」

遥子が声をかけると、大さんがサイクロン号を慎重に確認した。

「こ……これは……ちょっと、いいかな……」

大さんが舞うように馬に跨ると、サイクロン号は驚くような速度で走り出した。

「はいやー! はいやー!」

威勢の良い掛け声と共に、馬とは思えない旋回をすると、さらなる急加速をしている。

凄いな……これが、本来のサイクロン号か……

やがて、大さんが戻ってきた。

「ありがとう! いや~、本当にありがとう! 君達には、心から感謝する!」

慢心の笑顔を見せてくれた。

そして、突然に視線が鋭くなり横を見た。

「祥華! 今年こそは負けないぞ!」

「えぇ、受けて立つわ」

祥華さんも、それに答えた。

不敵に笑い続ける二人の間には、何やら黒いオーラが立ち込めていた。



 私達は、厩舎に呼ばれた。

大さんが、神妙な顔付きで座っている。

何か、嫌な予感がするな……

私が声をかけると、大さんは口を開いた。

「君達は、一体何者なんだ?」

そう来たか……

確かに、妥当な質問だな……

まぁ、ここまで来たら言うしかあるまい。

ふと遥子を見ると、私に頷いた。

一つ大きく息をはいて心を落ち着けてから、大さんに視線を戻して話した。

「私達は、魔の大陸を目指す冒険者です。いずれは魔王を倒し、世界に平和を取り戻したいと願っております」

私の言葉に、大さんは唸った。

「そうか……魔王か……私も、風の噂には聞いた事がある。だが、君達を見る限り

どうやら噂ではなく真実のようだ。私も平和を願う者の一人、協力させてくれないか?」

ありがたい申し出だが、そこまで甘えてしまって良いのだろうか?

顔を見合わせて返答に困っていると、大さんは続けた。

「これまでサイクロン号は、どんな治療も効果が無かった。これは私の感謝の気持ちだ。ぜひ受け取ってくれたまえ」

誰かが、馬を二頭引っ張ってきた。

年は大さんと同じくらいだろうか?

顔立ちは大さんほど濃くは無いが、シッカリした目鼻立ちが好印象を醸し出している。

とても優しそうな雰囲気の人だ。

「彼は、部居巣リーブイス・リー。私達が改造……いや、彼の馬を見る目は間違いない。何でも聞いてくれたまえ」

大さんが手を向けると、深くお辞儀をしてから言った。

「この馬は、これまで大切に育て上げた極上の二頭です。どうか大切にしてあげてください」

リーさんは、もう一度深くお辞儀をした。

それに恐縮した私達も、深くお辞儀をするとリーさんが続けた。

「馬車を操った経験は、おありですか?」

私達は顔を見合わせるが、どうやら誰も走らせた経験が無いようだ。

「すみません、教えてください」

リーさんは、笑顔で頷いた。


 ひととおり指南を受けた私達だったが、

どうやら私以外はまともに操作出来なさそうだ……

まぁ、嫌いでは無いから構わないが……


 馬車の操作も何とか板についてきた頃、大さんは私が買った馬車を運んで来てくれた。

「おやっさんの所に、野暮用があってね~。いや~はっはっは」と低い声で笑っていた。


 リーさんに手伝って貰いながら出発の準備を整えていると、

大さんが私の前に立ちはだかった。

「魔王を倒したら、是非ここを訪ねてくれ!」

笑顔で、ガシッ! と肩を掴まれた。

「ありがとうございます。その時は、必ずお伺いします」

私達は、固い握手を交わした。


 そして、無事に馬車を手に入れた私達は

パンツェッタ港を目指して出発した。




















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