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第十九節 大丈夫だろうか……

 伊代の回復をひとしきり喜ぶと、私達はひとまず落ち着いた。

とりあえず向かい合うように椅子に腰掛けて改めて見てみる。

赤い髪が緩いウェーブを描くロングに、少しキツイ大きな目をした伊代。

そして焦げ茶の髪を肩に掛かるくらいで切り揃えている、切れ長の目が印象的な翔子。

そして日本人形のようなオカッパの髪型に、愛嬌のある丸い目をした蓮。

だが、特徴だけでは言い表せないほどに整いきった顔立ちは何回見ても不思議だ。

いずれにしてもヨウジョ国の出身だけあって、3人ともご多分に漏れず美少女である。


 私は、聞いてみたい事があった。

「ところで、ここに来るまでの間に他の冒険者は見たか?」

その問いに、三人は揃って首を振ると蓮が言った。

「いえ、ここまで半年かけて来ましたが冒険者は見ていません」

「はい? 半年?」

私達は目を丸くして、お互いを見た。

「半年も、いったい何してたの?」


 これまでの事情を聞くと、何だか可哀想になってきた。

遥子に視線を向けて囁いた。

「言って……良いのかな?」

遥子は何も言わずに、気まずそうな顔で首をかしげている。

「だよな~……」

「あの?」

翔子が首を傾げて、私に声をかけた。

「どうか、しました?」

う~ん、激しく言い難い……

何だか知らんが、罪悪感までが……

遥子は無責任に、肘で私を突付いている。

私は頭を掻きながら、伺いを立てるように言った。

「いや、それが……私達は、ここまで2週間で来ちゃったんだけど……」

「はぁ?」

三人は、目を丸くして驚いた。

固まっている……完全に固まっている……

あ……蓮は、すでに泣き出してしまいそうな表情だ。

こいつ等って……いったい……


 ちなみに、ヨウジョ三人組はコジュウ塔には行っていない。

そこに塔がある事は知っていたが、その内容を知る事は無かった。

コジュウ塔に関する書など、見たことも無いと言い放った。

となると、それまで広まっていたはずの書は何処へ行ってしまったのだろうか?

全く、謎めいた話だ。


 だとすると、ヨウジョ国の冒険者は弱いのか?

いや、それは否だ。

蓮は回復魔法を使えて、翔子は魔物を焼き殺している。

そして伊代が剣で攻撃すれば、十分なフォーメーションが完成する。

それなりには強いのだろうが、どうしても不安は拭えなかった。

これからは、どんな危険が待ち受けているか判らない。

少なくとも、この美少女達が死ぬところなど見たくも無い。

この先、一緒に居て大丈夫なのだろうか?


 一応、帰るように諭してはみたのだが、当然の如く魔の大陸を目指すと聞かない。

まぁ、そうだよな~……

試しに、聞くだけは聞いてみよう……

「死ぬかもしれないんだぞ?」

「それは覚悟の上です」

ならば、仕方ないか……

少なくとも、この三人だけで魔の大陸に行かせるよりは一緒の方がマシだろう……


 私は一つ、疑問に思っている事を聞いてみた。

「ところで、友人の麗佳は何処に住んでいるんだ?」

その言葉に、三人はドンヨリと暗い顔で俯いている。

軽く溜め息をついてから続けた。

「まだ、死んだと決まった訳では無かろう? まずは、確認が必要じゃないのか?」

その言葉で、花が咲いたように表情が明るくなった。

全く、こいつ等は……


 私達は伊代の友人、麗佳の家に向かっていた。

街を抜けると、木が多くなってきた。

所々に密集した森を切り裂くように道が続いている。

30分ほど歩いて行くと、その木々の隙間から家が見えてきた。

「あそこです」

伊代の後を付いていくと、その全貌が見えた。

玄関先にウッドデッキが組んであって、白い椅子が置いてある。

まるで、アメリカ映画に出てきそうな家だ。


 ひとまず、門まで辿り着くと様子を伺う。

家の中に、人影は見当たらない。

「ずいぶんと静かだな……」

それに、何か嫌な雰囲気だ……

まずは私一人で、玄関先まで行ってみる。

「誰か居るか?」

ノックハンドルを叩きながら呼んで見るが、何の反応も無い。

試しにノブを回してみると、あっさりと開いた。

二重になっている玄関を開けると、その場で、静かに中を見渡す。

ずいぶんと荒らされているな……

さて……どうしたもんだか……

ん?

今の気配は何だ?

私は人差し指を立ててから、手の平を下に向けて合図した。

皆は、その場に留まっている。

遥子と翔子を指差して手招きをする。

二人は忍び足で近くまで来た。私は、二人の耳元で囁く。

(攻撃魔法の準備をしてくれ……火はダメだぞ……)

二人は、それに頷いた。

静かに詠唱が始まる。

私は音を立てないように白い椅子を持って玄関の横まで来ると、二人を見た。

準備が終わり、こちらを見て頷く。

その時、一気に家の中へ椅子を投げ込んだ。

それに向かって、3体の魔物が一斉に飛び掛かる。

「今だ……」

冷たく言い放つと、奴等はこちらに振り返り唖然としている。

だが、時すでに遅し……

地に足を付ける間も無く、綺麗な白い閃光に包まれていった。


 私達は、玄関の前で呆然と立ち尽くしていた。

何故か玄関の中に、美しい景色が広がっている。

「どうするよ、これ……」

その威力は思いのほか強力で、壁はおろか向こうの木々まで吹き飛ばしてしまった。

「いや~、思いっきり手加減したんだけどな~……」

二人は、首を傾げながら頭を掻いている。

こいつ等、大量破壊兵器かよ……

こうなれば、もう自棄である……

「まぁ、やっちまったもんは仕方が無い……麗佳を探そう」

開き直って、捜索を開始した。


 居ないな……

いくら探しても、誰も見つからない。

生死を問わず、何も発見できないのは妙だ。

だが、もう他に探す場所は無い。

いったい、何処へ行ってしまったのだ?

伊代に尋ねた。

「何か、心当たりは無いか?」

しばらく考えてから、はっ! として顔を上げた。

「そういえば、手紙に……確か、外からしか入れない地下があるはずです」

では、行ってみよう。もはや、そこしか考えられない。


 その入り口には、厳重に鍵が掛かっていた。

それを魔法で強引に破壊すると、地下への階段があった。

鍵が掛かっているなら中に敵は居ないと考えて良さそうだが、

念の為に、警戒しつつ降りて行く……


 暗い……

これでは、何も見えないな……

そう考えていると、後ろでボッと音が響いて明るくなった。

ん? 何だ?

私達が振り返ると、松明のような物を持って蓮は微笑んだ。

「これは商人の方に売りつけられた物の一つで、ハッカマンと言う商品だそうです。

意外な所で役に立つんですね」

また微妙な名前が……


 奥が照らされると、何かが見えた。

「誰かいるのか?」

何か唸りにも似た、微かな声が聞こえた。

私達が近づくと、伊代が真っ先に気付いた。

「麗佳!」

間髪居れずに、駆け寄る伊代を制止した。

「ちょっと待て……」

この暗い中、僅かなシルエットで気付くのは大した物だが、まずは確認だ。

私は、ハッカマンを借りて麗佳を照らす。

「大丈夫だ、魔物じゃない。縄を外そう」

その言葉で、皆が駆け寄った。

「麗佳、大丈夫?」

口の縄が外れると同時に声が響いた。

「奥に家族が!」

その瞬間、私は走った。

目の前に立ち塞がる扉を強引に蹴破ると、その先に二人が縛られていた。

そこに、皆が駆け寄って縄を外した。

「大丈夫! 無事よ!」

遥子に言葉に、私は大きく息を吐いた。


 皆、血色は悪くない……

怪我も無いようなので、胸を撫で下ろした。

伊代の問いかけに笑顔を見せている所を見ると、さほどの消耗では無さそうだ。

拘束されていた時間は比較的に短かったのだろう、ひとまず安心だ。


 それにしても、旦那はずいぶんと老けているな……

これが、オジ三国の純血種族か……

浅黒い肌に濃い顎鬚が印象的だが、

どう頑張っても見ても40代以下にはちょっと……

まるで親子にしか見えないのだが……でも、二人は夫婦なんだよな……

しかし麗佳は、あぁ見えて立派に大人だ……

まぁヨウジョ三人組に比べれば、遥かにお姉さんには見えるのだが……う~ん……

まぁ、人の家庭の事情など考えても仕方が無い。

「とりあえず、一階へ行こう」

皆で肩を貸しながら、ゆっくりと階段を登って行った。


 私達が階段を登り終えて玄関まで来ると、

「あらま!」

麗佳は一声だけ発すると、目の前に広がる美しい景色を見つめたまま固まっている。

そりゃ驚くわな……

「あの……」

私が遠慮気味に声をかけると、

「きっと魔物の仕業ね! 絶対に許せないわ!」

あちゃ~、激しく怒ってるよ……

だが、この流れは黙っていれば……もしや……

何も話を切り出さない私に、皆が冷ややかなる視線を送り続けている……

はい……どうせ、指示した私が悪ぅございますよ……

麗佳に、小さな声で呟いた。

「いや……それは、私達にも責任が……」

振り返ったそれは、まるで般若の面を思わせた。

だが、すぐに何とも言えない感じの表情に変わって行った。

「そうですか……これほどまでに、戦いは壮絶を極めたのですね……」

「いや……それが、大した敵では無く……私達が暴走した結果が……」

私が言い返すと、目の前に手の平が差し出された。

「いいえ、もう判っております! あの恐ろしい魔物との戦いに見事に勝利し、私達は助けられたのです! このくらいの被害はあっても当然!」

いや……何か重大な勘違いを……

「私達の命が助かったのです、感謝してもしきれません。幸い夫の従兄弟に大工がおりますので、このくらいすぐに修復できます。どうか、お気になさらないで下さい」

そう言われてしまうと……いいのか? これで、解決でいいのか?

皆に視線を送ると、仕方ない……と言う顔で頷いている。

何だか、私だけ割り食ってないか?


 さすがに罪悪感を拭いきれずに、壁の応急処置を手伝っていた。

だが、この選択は大正解だったようだ。

私と一緒に修復作業をする旦那さんから、面白い話を聞けた。

彼は、やはりオジ三国の純血種でキギョウ戦士族の血筋だそうだ。

ここは、元を正せばキギョウ戦士族の領地になると言う。確かに純血が居て当然である。

三国は基本的に三角に近い形で領地が分かれているそうだが、

マスオ族の領地が二つを切り分けるように飛び出した形になっている。

三国を横断しようとすると、キギョウ戦士族の領地からマスオ族の領地に一度入ってチョイワル族の領地へ行くそうだ。


 ちなみに、この国では冒険者など基本的に好かれていないそうなので、

港を目指すならば商人に化けた方が良いだろうとアドバイスをくれた。

貿易が栄えたオジ三国には、シンキロードと呼ばれる通商路がある。

これを使えば、一本道でパンツェッタ港まで行けるそうだ。

だが、商人は基本的に馬車に荷物を積んで移動するのが普通らしい。

警備も相当に厳しいと言う通商路を、五人でぞろぞろと歩いていれば、

無駄に怪しまれるのは必至だろう。

どうやら、すぐにでも馬車を買う羽目になりそうだ……




















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