第百八十八節 では、聞いてみますかね~……
蓮の攻撃も済んだ所で、私は聞いてみた。
「瞬間移動について研究されていると聞きました。教えて頂けませんか?」
「え~? これは、企業秘密だからね~。ちょっと、教えられないかな~」
そう来るか、ならば……
「もし松太香子さんに会ったら、ちゃんと宣伝しておきますけど?」
その瞬間、綿理間将は目を全開で丸くした。
「え? うん、何でも教えちゃう! この僕に、いくらでも聞いてね! えっと……瞬間移動だっけ?」
それを聞いてから、私は皆に視線を送りながら言った。
「教えてくれるそうだ」
その様子に、遥子達はクスクスと笑いを堪えながら頷いていた。
綿理間将は、遥子達に喜んで教えてくれている。
私も、とりあえず横で聞いていた。
その話によれば、瞬間移動はやはり魔法の一種らしい。
実際の所、詳しい所に関してはほとんど意味不明だ。
だが説明を聞く限り、一度行った事がある場所にしか移動できないようだ。
さすがに、知らない所には行けないと言う事である。
そして、まだ研究途中らしく移動距離にも制限があると言う。
隣の国辺りまでは楽に行けるそうだが、海を渡るような長距離は辞めた方が良いそうだ。
実用と言う意味では微妙に不便ではあるが、異次元に放り込まれるよりはマシだろう。
たった一人で、欠陥魔法をそこまでにしただけでも凄いと思う。
その時、ノア婆さんが怒鳴った。
「いい加減に、そこから降りんか!」
「わっ! ビックリした! え? あ……これは、すみません」
どうやら、真後ろに居たノア婆さんの存在に気付いていなかったらしい。
綿理間将は、言われるままにスゴスゴとテーブルから降りた。
私もとりあえず椅子から立ち上がると、綿理間将が伺うように聞いて来た。
「あの……そちらの方は?」
どうやら、ノア婆さんを気にしているようだ。
まぁ、いきなり怒られたら気にもなるよな。
「こちらは、この館の主で濃茶ノアさんです」
「え? 濃茶ノアだって?」
目を丸くして驚く綿理間将を横目に、ノア婆さんは不敵な笑みを見せた。
「久しぶりじゃのぅ?」
あれ? 知り合いなの?
すると綿理間将は思いだしたように、ハッ! っとしながらノア婆さんを指差した。
「え~! う……うそ~! なんで、そんな梅干みたいになっちゃったの~?」
「梅干はないじゃろうて! それが、元彼女に言う言葉か! この馬鹿者めが! そんなじゃから、いつまで経ってもチャラチャラしたままなのじゃよ!」
はい? マジで?
「あの? どう言う事でしょう?」
私が問いかけると、綿理間将は人差し指を立てて答える。
「あっ、それはね。まだ僕が……」
「黙れぃ!!」
「ひっ!」
ノア婆さんの一喝で、完全にビビリまくっている。
「まったく、勝手にペラペラしゃべりおってからに! 少しは気を使わんか! この愚か者めが!」
恐れおののく綿理間将を見ながら、ノア婆さんはふと笑みを浮かべる。
「なにせ、遠い昔の事じゃてな……コレと言った話では無いが、そやつも昔はこんなでは無かったのじゃよ」
その時、綿理間将はノア婆さんにビッと指を差した。
「あっ! 今、僕の話をしようとしてるね? それは、ズルイんじゃない?」
「どうせ、ワシの居ない所でコッソリと言うつもりじゃろうが!」
綿理間将は、そのまま固まってる。
どうやら図星だったようだ。
「昔は、美しい銀色の長い髪をなびかせておってな。勇者殿が纏っているような白銀の鎧と相まって、それは精悍な姿じゃったよ」
そうなんだ……なんか聖猫マッシグラみたいだな。
ふと綿理間将に視線を向けると、恥ずかしそうにそっぽを向いている。
「あの銀髪は、魔力の源のはずじゃったが……お主、まだあの一件を?」
「あぁ、そうだよ……悪い?」
「まぁ、お主らしいと言えばらしいか……じゃが、あれは決してお主のせいなどでは」
その時、ノア婆さんの言葉を静止するように綿理間将は大きな声を上げた。
「イイんだ! あれは、僕が悪かったんだよ。これは、僕が永遠に背負わなければならない十字架さ。放っておいてくれ……」
ノア婆さんは大きく息を付きながら、呟いた。
「そうか……」
なんかこの状況で、何があったんですか? なんて絶対に聞けないよな……
まぁ、このチャラい人がこれだけ真剣な表情を浮かべているのだ。
少なくとも、只事で無かった事くらいは予測できる。
どのくらい経っただろうか?
誰もその話に触れる事が出来ないまま、ただ時間だけが流れていた。
その沈黙を破るように、ノア婆さんが声を上げた。
「勇太殿達には、世話になったのじゃ! お主も、サービスせい!」
「なんでさ!」
ふてくされたように答えた綿理間将に、ノア婆さんは眉を顰める。
「ん? ワシの言う事が、聞けぬと申すか?」
その様子にビビリながらも、口を尖らせて答えた。
「だってさ……これでも、一応商売だしさ……」
その時、ノア婆さんは数珠を高々と上げて怒鳴った。
「タタリを起してくれようか~!」
「いや~! やめて~!」
恐れおののく綿理間将の姿に、皆の表情はいつしか笑顔に変わっていた。




