第百八十二節 正式な依頼ね~……
皆で謁見の間に向かいながら、私は考えを巡らせて見る。
実際、正式な依頼となれば王家が独自に解決に向かって動いているアピールになるだろう。
依頼が成功すれば全く問題は無いのだが、万が一失敗に終わっても
その責任は全面的に私達が被る事になると予測できる。
エラクナさんの話からしても、王家が私達を庇護するような発言などは一切しないだろう。
公の場で言及されたとて、言い逃れが可能と言う訳だ。
いずれにしても私達を雇う形にする事で、王家は全く損をしないと言う寸法って事になる。
まぁ、アレモはそう言う奴では無いと思うが……
もし自然にこの行動を取っているなら、違う意味で天然だよな……
とにかく、お互いの利益を考えれば絶対に失敗は出来ないと言う結論に至る。
ここは、何とかするしかないか……
謁見の間に着くと、アレモが振り返って言った。
「では、父を呼んで参ります。中でお待ちになっていて下さい」
私が頷くと、アレモは元気良く走って行った。
部屋で膝を付いて待っていると、アレモと共に王が来た。
「すまない、待たせたようだな。さぁ、頭を上げてくれ」
私達が頭を上げると、ノリベン王は真剣な表情を浮かべながら言った。
「話は聞いての通りだ。今回の海賊に関する一件、ご尽力頂けるか?」
「はい、そのつもりで参りました。ですが、何時までとは約束できません。もし時間を稼ぐのであれば、私達が戻るまでは明言しない事をお勧めします。そして、もし戻らなければ全てを我々の責任にして頂いて構いません」
それに、ノリベン王は不敵な笑みを浮かべる。
「ほう……我等の策は、全てお見通しと言う訳か……だが、それでも依頼を受けて頂けると言うならばその目的は何だ? 一体、何を狙っている?」
「お父様!」
王は、焦るアレモを静止しながら言った。
「今は、お前が出る幕では無い」
「いや、しかし……」
食い下がるアレモに、王は続けた。
「これは、大人の話し合いだ。お前が、口を出す事では無いのだよ」
アレモは納得し切れていないようだが、王は私達に視線を戻した。
「では、改めて聞こうか? 報酬は何だ?」
私は、その問いに笑みを浮かべた。
「報酬など、一切必要ありません」
王は、驚いた表情を浮かべて聞き返した。
「何だと? どう言う事だ?」
私も、それに続けた。
「少なくとも、王家の立場は判っているつもりです。何が報酬かと問われれば、それは友情です。今回は、アレモ王子が我々を信頼してくれたので動くだけの話なのです。その為ならば、我々は問題解決に向けて全力を尽くすつもりでおります。ですが見ての通り、我々の戦力では海賊に対して真っ向勝負は挑めないでしょう。そして策を練ろうにも、現状では明らかに情報不足です。それを含めて、何時までに解決出来るとは公言できないのです。その辺りは、理解して頂きたい」
それに王は、不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、アレモの為か……本当に、面白い……」
王は、ふとアレモに視線を向けた。
「お前は、良い友人に恵まれたな……羨ましい限りだ」
そして、私達に視線を戻して続けた。
「ならば今回の一件、全て勇者殿に任せよう! 後の事は、この私に任せてくれ!」
そう言うと、王はさっそうと立ち去って行った。
何やらアレモが涙ぐんでいる。
「どうした?」
私が聞くと、アレモは突然に泣き出してしまった。
何だ? 何もしてないよな?
私達が困っていると、謁見の間にピーが入ってきた。
「お待たせしまし……って、アレモ様! どうなされました?」
「いや……謁見が終わったら、突然に泣き出してしまって困っているんだよ」
ピーは、アレモに駆け寄って言った。
「どこか、痛いのですか?」
その問いにアレモは首を振る。
「違うんだ、そうじゃないんだ」
その答えにピーは少し安心したようだが、やはり首を傾げている。
「とりあえず、泣きやむまでどうにもならなそうだな~」
私の言葉に、皆も困ったように頷いた。
ある程度落ち着いてきた頃に聞いてみる。
「いったい、どうしたんだ?」
アレモは、グスグスしながらも話し始めた。
「いえ……そんなに、僕の事を考えてくれているとは思っていなかったのです。それに、お父様に羨ましいなんて言われたのは初めてで……取り乱してしまって、すみません」
申し訳なさそうにしているアレモに、皆もホッとした様子だ。
とりあえず何でも無くて良かった……
謁見の間を後にした私達は、城の入り口に向かう。
その時、遥子が言った。
「あっ、忘れてたわ。コレ、後で食べて」
鞄から桃を出すと、ピーとナッツの目の色が変わる。
「これは……まさか、バントウサンの桃ですか?」
「えぇ。ちょっと行って来たから、お土産よ」
「こんな貴重な物を……ありがとうございます」
う~ん、どうも納得が行かない……私は聞いてみた。
「ってか、何でバントウサンのって解るんだ?」
それに、ピーが答えた。
「あっ、それはこの色です。他の桃と違って、このラインが赤いんですよ」
あぁ、なるほど。
良く見ると、確かに桃の筋に沿って赤いラインがグラデーションのように入っている。
「で、違いはそれだけ?」
ピーとナッツは、素直に頷いている。
いやいや、特徴が少なすぎるだろ!
う~ん、難解だ……
城の入り口も近づいて来たので、私は歩きながらアレモに言った。
「これから問題解決に向けて動き出すが、私達は海賊など相手にした事は無い。もしかしたら、本当に戻って来れなくなるかもしれない。その時は、王の言う通りに動いてくれ」
「そんなの納得できません!」
真剣な眼差しで声を荒げるアレモに、私も大きな声で続ける
「例え納得できなくても、王の言う通りにするんだ!」
「そんな……」
おもわず立ち止まったアレモに、私は向き直って続けた。
「アレモは、これからの王だ。今回のような汚い話なんて、世の中にはいくらでも転がっている。いずれ、嫌になるほど目にするだろう。それに、真っ向から立ち向かえなどとは言わない。どう向き合って行くかはアレモ次第だ。そして、王家を貶めようとする輩も後を絶えないはず。もしかしたら、何者かの策略で窮地に追い込まれる事もあるかもしれない。しかし、そんな土壇場でも背中を預けられる友情ってやつは確かに存在する」
その言葉に、アレモは俯きながら呟いた。
「僕は……僕には、勇太さん達のような仲間なんて……」
「何を言っている。すぐ側に居るじゃないか」
「え?」
目を丸くしたアレモに私は笑みを浮かべて、ピーとナッツに視線を移す。
「あ……」
私の視線につられて、二人を放心したように見ているアレモに話を続けた。
「少なくとも、二人はアレモの事しか考えていない。こんなに素晴らしい仲間は、そうそう居ないぞ? 身分なんてものに囚われていたら、真実は見えて来ないもんさ。それだけは忘れるなよ?」
私が前に拳を突き出すと、アレモもそこに拳を合わせて来た。
「はい! その通りです! ありがとうございます!」




