表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/359

第十八節 彼女からの視線 遥子の場合、その2

 あたし達は、治癒魔法を試みている。

でも、ただの魔法ではないわ。これは新しい実験よ。

名付けて、ダブル魔法!

う~ん、あたしってネーミングセンス悪いかしら……

そんな事は、どうでもいいの!

今は集中しなきゃ……

あたし達は、伊代のベッドの左右にそれぞれ立っている。

「いい? 行くわよ?」

あたしが言うと、蓮は頷いた。


 あたしの回復魔法はマニ・キュア。

あ……あたしが付けたんじゃないからね! 勘違いしないでよね!

ちゃんと、コジュウ塔の試練で覚えたんだから!

まぁ、そんな話はどうでもいいわ!


 私達は意識を集中すると、それぞれに詠唱を始める。

「貸し物借り物の恵みをこの者に与えし、かしこみかしこみ乞い奉らん。

ほれゆらゆらとふるべ、ほれゆらゆらとふるべ……」

手を左右に振る度に、白い光が溢れ出して来る。

何か祝詞みたいで恥ずかしいんだけど、

こうしなきゃダメって言うんだから仕方が無いの……

どうせなら、もっとカッコ良くして欲しいもんだわ……


 発動のタイミングはしっかり打ち合わせたわ。

準備が出来たらお互いを見る。目が合ったら一緒に頷くの。

その、三回目に発動よ。

え? ラフすぎ? そんな事ないわよ!

良し、準備が出来た。

蓮を見ると、手から光が溢れ始めている。

もうすぐね……

その時、蓮と目が合った。

お互いを見つめ合いながら、静かに頷き始めた。

1……2……3!

伊代の腹部に、目一杯の魔力を注ぎこむ。

その光は蓮のそれを重なり合い、まるでプリズムのように七色に輝き出した。

何かが振動するような重低音が凄い。

空気を波立たせるような威圧感がビリビリと伝わって来る。

まさか、爆発なんてしないわよね……


 光が突然弾ける様に飛び散って、キラキラと舞い降りて来る。

スターダストのような光が静かに消えて行くと、辺りに静寂が戻った。

そのあまりに幻想的な光景に、しばし呆然としてしまった。

その時、伊代が少し唸り声を上げた。

はっ……どうなったの?

慌てて傷口を確認する。

……

どこ?

いくら探しても、傷口が見当たらない。

もしかして、これって……成功?

目の前で起きた事を確信出来ずに居ると、伊代は目を覚ました。

何度か激しい瞬きをして、周囲を確認する。

そして、おもむろに起き上がった。

……

こういう時の沈黙は、本当に重い……

「ねぇ? どうなの?」

その重さに耐え切れなかったのは、あたしだけでは無かったようで

蓮が先に口を開いた。

「うん、どこも痛くない……」

伊代はしきりに、傷があった付近を捜している。

「無い……何も無い……」

伊代は、驚きを隠せない表情をしていた。

これは、とんでもない成功よ……

随分と調べたけれど、これまで完全治癒の魔法は存在していないの。

治癒魔法を使っても、傷口や痛みが残ったりするのは当たり前。

酷い時は、効いているのかもわからない事があるそうだわ。

今、目の前に起きた現実は、この世界の常識を覆したのよ。

「蓮! 伊代! やったわ!」

私達は三人で抱き合って、大いに喜んだ。



 その時、ドアが少し開いた。

「あのぅ……ユリの世界にお邪魔だったかな?」

勇太が、申し訳無さそうに隙間から覗いている。

「えぇ、邪魔よ!」

冷たく言い放つと、二人はギョッとしてあたしを見た。

「あぁ、ごめんね。いつもの会話だから気にしないで……」

何だかあたしの方が、バツが悪くなっちゃったじゃない……




















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ