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第百七十六節 なんだかね~……

「失礼します」

神戸さんがノックしながら呼びかけると、中から声が聞こえた。

「おう! 入れ!」

ドアを開けて中に入って行く神戸さんに付いて行くと、

一番奥にベッドがあってなかなか広い部屋だ。

その横でロッキングチェアのような椅子に座って

本を読みながらくつろいでいる所を見ると、どうやらここは健三さんの寝室のようだ。


 部屋を一通り見渡してみる。

左横にはガラス面の多い洒落たデザインのキャビネットが並べて置いてあって

中に酒のビンが綺麗に並んでいる。

ベッドの手前には応接セットのような低めのソファーとテーブルが置いてある。

黒い革のようで高級感はあるのだが、

どこかの事務所に置いてあるような地味なデザインだ。


 所々に置いてある、鷲や獅子を模した置物が渋い雰囲気を醸し出している。

右を見れば剣や槍などの武器が壁に掛けてあって

なかなか男らしい雰囲気を醸し出しているのだが、それほど戦闘的なイメージは感じない。

全体的に黒を基調にしてあるせいか、かなり落ち着いた感じだ。


 私達が側に行くと、健三さんは本をベッドの上に軽く投げるように置きながら

申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「わざわざ来て貰ってワリィな~。まぁ、その辺りに座ってくれ」

ソファーに手を差し出しているので、素直にそこに座った。


 すると、健三さんは大きく溜め息をついて話し始めた。

「それでよ、来て貰ったのはだな……う~ん、なんつったらイイかな~?」

何やら視線を外して、困った様子で頭を掻いている。

そして、しばらく考えてから私達に視線を戻した。

「要はよ、出るんだよ……」

そう言いながら、両手をブラブラさせている。

それって、まさか……

「もしや、オバケです?」

私が問うと、何度も強く頷いた。

おいおい、それを、私達にどうしろと……

とりあえず聞いてみた。

「そのオバケを退治しろと言う事ですか?」

「やっぱ、無理か?」

何とも情けない表情を浮かべる健三さんに言った。

「いや……あるにはありますが、まずは何が出るのか解らない事には何とも言えません。その辺りを、聞かせて頂けますか?」



「あれは、半年くらい前だったか?」

その問いに神戸さんが静かに頷く。

「最初は、変な音がするくらいだったんだよ。それが段々と物が飛ぶようになったり派手になってきてな。それで俺が寝てる時に出て来やがったんだ!」

「何が出たんです?」

「それが長~い黒髪でよ、白い服を着た女が俺の上に乗ってるんだよ! さすがにビビっちまってよ!」

なるほど……特徴は確かにオバケだな。

「その女が、最近は毎日出て来やがるんだ。頼むよ、何とかしてくれよ!」

興奮している健三さんに言った。

「ちょっと待ってください」

私は遥子に視線を向ける。

「もし霊なら、ヤツハ・カムラでやったのが使えるよな?」

素直に頷いたので、また健三さんに視線を戻す。

「では、今日はここで張り込ませて頂きますが宜しいですか?」

「あぁ……頼むぜ」


 その時、遥子が健三さんに言った。

「あの短剣ってありますか?」

「ん? あれか?」

指差しているのは、壁に掛かった脇差ほどの長さがある剣だ。

「いえ、もっと短いのを8本欲しいのですが」

「あぁ、そしたら投げナイフの事だな? ちょっと待ってろな」

そう言いながらガラス張りの棚の所まで歩いて行くと、

扉を開けて30センチほどある木の箱を取り出した。

それを私達の前で開けると、中に短いナイフが綺麗に並んでいた。

「はい、これなら大丈夫です。お借りできますか?」

「あぁ、好きに使ってくれよ」

おもわず、遥子を見た。

「それって、ノア婆さんがやってた術だろ? 出来るのか?」

「えぇ、あんた達が居ない時に教えて貰ってたのよ。実際にやってる所も見たし、もう完璧ね」

「ん? あの謎の呪文、覚えちゃったのか?」

遥子達は素直に頷いている。

「なるほど、それは凄いな」












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