第百七十五節 それじゃ、戻りますかね~……その2
とりあえず桃も運び終わって馬車の側で休憩がてらに雑談していると、
神戸さんが呼びに来た。
「準備が出来ました。どうぞ食堂の方へ」
とりあえず神戸さんに付いて行くと、食堂に皆集まっていた。
「おう! こっち来いや!」
声の方を見ると、健三さんが手招きしている。
近くまで行くとイカシタ笑みを見せながら言った。
「なんか聞いた所によると、ずいぶんと貴重なモンらしいじゃねぇか。なんか気ぃ使って貰ったみたいでワリィな~」
私は笑みを浮かべながら答えた。
「いえいえ、気になさらないで下さい。喜んで頂ければそれでイイんです」
その言葉に健三さんも笑みを浮かべながら頷いている。
そう言っている間に、桃が綺麗にカットされて運ばれて来た。
「おぉ、来た来た! ほら、せっかくだから、こっちで一緒に食おうぜ!」
それに頷いて私達が側に座ると、まずは健三さんが桃を一切れ口に入れる。
何故か、そのまま固まった。
なんだ? まさか不味かったか?
心配になって様子を伺っていると、呟くように言った。
「こりゃ~確かに、幻って言うだけの事があらぁな……」
え? そうなの?
私も、とりあえず一切れ口に入れてみる。
そして同じように驚いた。
これは、メチャ美味いじゃありませんか……
桃で、ここまで味の差を感じた事は無い。
ただ甘いだけでは無く、水分のバランスが絶妙だ。
更に、何とも言えない歯ごたえがより美味さを演出している。
いや、ここまでとは凄いとは思わなかった。
私に続いて桃を口にした人々も、同じような反応で驚いていた。
ひとしきり桃を堪能して、しばらくすると健三さんが聞いてきた。
「お前等、あれだろ? 今日は、もうイイ時間だから出発は明日だろ?」
「そうですね、もう一日お世話になります」
すると、健三さんは言った。
「あぁ、それは構わなねぇんだがよ。ちょっと夜になったら、俺の所に来てくれねぇか?」
その表情は、かなり真剣だ。
「何か、ありました?」
おもわず聞いてみると、少し考えるように視線を外してから言った。
「いや……ちょっとな……まぁ、その話は後でするからよ! 頼むぜ!」
「わかりました。後ほどお伺いします」
そのまま食堂で健三さんとや神戸さんと雑談していると、
いつしか日も暮れて来て夕食が運ばれて来た。
「やべっ! もうメシの時間かよ! 神戸に頼まれた書類、まだ出来てねぇや!」
それに神戸さんが驚いた。
「え? あれは、必ず今日中にと申したではありませんか!」
「あぁ、ワリィ! メシ食ったら、やっつけちまうわ!」
申し訳なさそうに頭を掻いている健三さんに、半ば呆れた笑みを浮かべて神戸さんが言う。
「本当に、お願いしますよ?」
そんなやりとりを、私達は笑顔で眺めていた。
そして、その夜……
夜が更けるのを待ってから、健三さんの所に向かって歩いていると
神戸さんが前から歩いてきた。
「あっ、これはどうも。今、そちらにお迎えに行く所でした」
試しに聞いてみる。
「あの……何か、あったんですか?」
その問いに、神戸さんは難しい表情を浮かべながら言う。
「いや……それは、私からは何とも……どうか、ご本人から伺ってください」
そう言うと、健三さんの部屋に向かって歩き出した。
何か、難しい問題なのだろうか?
私達が何とかできる問題なら良いんだが……




