第百七十二節 彼女からの視線 遥子の場合、その5
さて双子の守護神も大人しくなったので、言ってみたわ。
「私達は、守護神の松太香子にここを聞いて来たの。悪用はしないつもりだけど?」
それに二人とも、え? と言った感じで目を見開いた。
「香子様だって? って事は、もしかして……あんた達が勇者様?」
そしてキョロキョロと全員を見渡してから、
あたしを不思議そうに見て首を傾げながら言ったわ。
「勇者様って、魔法使いなのか?」
「あぁ……本人は、馬車で留守番してるわ。それより、あの桃は頂いて行くわよ」
私が桃を指差すと、守護神は怒ったように声を荒げたわ。
「何? それじゃ、俺達が守ってきた意味が無いじゃないか! フザケタ事を言うのもいい加減に……」
その瞬間、剣を引き抜いた伊代と安を横目にその体勢のまま固まった。
「いえ……喜んで、差し上げますとも。どうぞ、持って行っちゃって下さい……」
皆で桃の前まで来てみると、まるで何かで塗ったみたいに金色に輝いていたわ。
「ここまで金だと、凄いわね……でも、まさか偽物とかじゃ無いわよね?」
あたしが横目に見ると、双子の守護神は動きを揃えてビクっ! とした。
へぇ~……そう言う事なのね。
「もし、あたし達に偽物なんて渡したら大変な事になるわよ?」
「ど……どう言う事だ!」
慌てたように言った守護神に、あたしは続けたわ。
「そりゃ、そうでしょう? もしそうなったら、ここを教えてくれた松太香子の立場が無いじゃない? それだけじゃないわよ? キム・ラタクにだって話を聞いているんだから、あたし達はあの二人に騙されたって事になるわよね? 二人とも怒るわよ~?」
「まさか……二人もの守護神に会う事が出来たのか?」
その言葉に、首を振りながら言ったわ。
「いいえ、二人じゃないわ」
「へ?」
目を丸くしている双子の守護神に、話を続けたわ。
「その前には、ネコミミに会ったし~。コジュウ塔ではヨメイ・ビリーの他にもゴハンマ・ダカイとか沢山居たわ。あとは、これから綿理間将にも会う予定になってるわよ?」
「そ……そんなバカな! そんなに沢山の守護神に会えるなんて……」
何か疑っているようなので、ネコミミカチューシャを取り出して見えるように差し出した。
「ネコミミに、これ貰ったわよ?」
それを見た二人の守護神は、みるみる顔が青ざめて行った。
そして、突然に土下座を始めたわ。
「も……申し訳御座いません! まさか本当に勇者様だったとは! 少しでも疑った、俺達がバカでした! 本物の桃がある場所まで、ご案内致します! どうか平に! 平にご容赦のほどを!」
なんか、予想以上に効いたみたいね。
守護神に案内されて、しばらく歩いて行くとそれはあったわ。
「あれが、本物です」
そう言って指差した桃の木は、さっきのイカサマ臭いのとは違って
オーラのように金色の光が溢れていた。
そうよね~……やっぱり本物ってこうよね~。
あたし達がその光景に感心していると、守護神が言った。
「これこそが、蘇生の力を持つ唯一の桃。御尼供蘇生治です」
どんな名前よ!
桃の木の前まで来ると確かに大きくて立派なんだけど、
やっぱり実は一個しか無いみたい。
「あれを取ると、またすぐに実ったりしないの?」
「いや、それは無いです。また実がなるのは十年後でしょう」
それは、残念ね~。
まぁ、イイわ。
「それにしても、高い所にあるわね~。手を伸ばしても届きそうに無いわ。何か、登れる台とか無いの?」
「いや……あれを取る事なんて全く考えて無かったので、台はちょっと……」
「あっ、そう……それじゃ、どうやって取ったらイイかしら?」
その時、安が言ったわ。
「遥子姉さんの肩に乗せて貰って良ければ、あっしが取るでやすよ」
「ん? 肩車じゃ届かないわよ?」
おもわず首を傾げながら言うと、安は言ったわ。
「いや、肩に立つでやす」
「はい? 何だか良く解らないけど、どうしたらイイの?」
「少し、しゃがんで貰えれば大丈夫でやす」
言われた通りにあたしがしゃがむと、フワッと何かが来た感じがした。
「では、このまま立ってくだせい」
え? もう乗ってたの? ずいぶん軽いわね。
そのまま立ち上がると、安はバランスを保ったまま平然と立っているみたい。
さすがにこの体勢じゃ真上は見れないんだけど、上の方で枝を切る音がしたわ。
「取れたでやすよ」
安はそう言うと、ヒラリと肩から降りた。
何か、この子凄いわね……
それから、他の桃の回収を双子の守護神にも手伝わせてカゴ一杯になったわ。
「あの……もう宜しいでしょうか?」
汗だくで息を切らせながら訴えている。
「そうね、まぁこんなもんよね。お疲れ様」
その言葉に、双子の守護神はホッとしたような表情を浮かべていた。




