第百七十節 サイオウボだね~……
そして勇太達は……
健三さんの屋敷を出発した私達は、桃を求めてサイオウボに来ている。
馬車は、ひらすらにバントウサンの山道を登って行く。
かなり木々が多い茂っている山道で道も細いが、苦戦するほどの傾斜では無いので助かる。
所々に桃の木があって比較的熟した実がなっている所を見ると、
どうやら桃の季節のようだ。
だが、桃って夏前くらいが時期じゃ無かったか?
しかし、体感的にはそんなに暑くは感じない。
どう言う事なのだろうか?
この世界は、桃がなる季節も違うのだろうか?
試しに聞いてみる。
「今の季節って、何になるんだ?」
答えが返って来ないので後ろを振り向くと、皆が首を傾げている。
あれ? 何故?
その時、安が言った。
「旦那、キセツって何でやす?」
え? その質問は何?
「いやいや、時期によって暑かったり寒かったりするだろ?」
それに、また皆は首を傾げた。
あれれ?
おもわず遥子も、不思議そうな表情を浮かべて言った
「もしかして、夏とか冬とかって無いの?」
皆は、素直に頷いている。
無いのかよ……
と言う事は、まさか?
「あのさ、もしかして雪ってオニャン公国で初めて見たとか?」
「そうでやすね、あんな冷たいのが振って来る所なんて初めてでやす」
いや、普通に答えられても……
更に聞いてみた。
「それじゃ、温度の変化って無いんだ?」
「いや、雨が降ったりすれば少しは寒いでやすが……大体、いつもこのくらいでやすよ?」
何だよ、それ……どっかのゲームじゃないんだから。
だが、そうなると地域によって環境が決まるって事か……
ならば、メッチャ暑いだけの地域ってのも存在すると言う事になるな。
そんな所には、なるべく行きたく無いものだ。
その時、ふと遥子が声を掛けてきた。
「ねぇ? 行って見て、例の桃が無かったらどうするの?」
どうするって言われてもな~。
「そうだな~、実がなるまで待ってる訳にもいかないしな~。もし無かったら諦めるしかないだろうな~」
「そうよね~」
やがて山頂付近に辿り着くと、多い茂る桃の木々に行く手を遮られた。
「これ以上は、馬車じゃ進めないな~。誰か一緒に来るか?」
声を掛けながら後ろを振り向くと、全員が手を上げている。
「おいおい……全員行ってどうするよ」
思わず出た言葉に、遥子が言った。
「だって桃狩りでしょ? 楽しそうじゃない」
私は少し視線を外して考えてから、また後ろに視線を戻して続けた。
「そしたら、私が馬車を見てるよ。何かあったら加瀬朗さんに貰った笛を吹いてくれ」
「わかったわ! あんたの分まで、ガンガン取って来るわよ」
「いや……目的は、1つだけなのだが……」
そう言った私に、遥子は怒ったように言った。
「何言ってるのよ! こんなに桃があるのよ? 食べ放題じゃない!」
まぁ、確かにそうだが……
本当に、女性はフルーツが好きだな。
「それじゃ、何か入れ物を持って行かないと回収できないよな?」
そんな私の言葉に、遥子は不敵な笑みを浮かべた。
「それなら大丈夫よ。カゴとハサミを借りて来てあるわ」
いつの間に……
「ずいぶんと準備イイな~。そしたら、遥子達に任せて大丈夫そうだな」
それに遥子達は笑顔で頷いた。
そして喜び勇んで歩いて行く遥子達を、
私は半ば呆れ顔で見送った。




