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第十七節 冒険者からの視線 翔子の場合、その2

 蓮と遥子さんは伊代に治癒魔法を試みると言う事なので、

私は勇太さんと町へ情報収集に行く事にした。

しかし、勇太さんはずいぶんと軽装である。

剣は携えているのだが、これで大丈夫なのだろうか?

私はいつものローブ姿に杖で外へ出ようとすると、いきなり勇太さんに止められた。

なるべく民間人に近い服装にしてくれと言う。

防御面が少し心配ではあるのだが、言われたとおりに着替えた。


 まずは何処へ行くのだろう?

とりあえず、勇太さんの後を付いて行った。


 ここオジ三国が、一つの国になったのは百年前。

今でこそ他の種族が行き来するようになって穏やかな国となっているが、

それまで種族同士の争いが耐えなかったそうだ。

実際、まだ内戦が続いている地域も、一部ではあるが確かに存在する。


 オジ三国になってからはチョイワル族の社交性が良く生かされて

オバ帝国を始めオバ傘下の国々とも仲は良く、海を渡った周辺各国とも交流が深い。

時にはキギョウ戦士族が強引に話を進める事もあれば、

マスオ族が話を上手く納めてくる場合もある。

ある意味、見事なチームワークで成り立っている国家だ。

その急激な経済成長で発展した貿易ルートが活発なので様々な人々が行交い、

今ではとても多くの種族が入り混じって生活している。

今年は建国百年祭なので、特に多くの人が集まっているそうだ。

大きい人や、綺麗な人。そして何か気持ち悪い人までいる。

私の生まれ育ったヨウジョ国では、とても信じられない光景だ。


 しばらく街の中をグルグル回っていたが

歩みを止めた場所は、伊代が待ち合わせていた噴水のある広場だ。

座って噴水を見られるように丸くベンチを配置してある。

あれ?

勇太さんは、何故かそのベンチに座ってしまった。

「どうしたんです?」

その問いに、一息ついて手招きをした。

「まぁ、ひとまず座ろう。先に作戦会議だ」

私は頷くと、隣に座った。


 かなり小さいが、噴水がとても綺麗だ。

冒険を始めてからは、こういう物もゆっくり見ていられなくなってしまった。

見つめていると、とても和む。

その時、腕に何かが当たった。

「おい……」

勇太さんが、小声で突付いて来る。

「なんです?」

私が顔を見ていると、呟くように言った。

「あそこを見てみろ。前に座っているのが魔物だ、判るか?」

そう言いながら、ただ漠然と噴水の方を見ているようだ。

そこに視線を追うように向けると、斜め向かいのベンチで一人の女性が座って本のような物を読んでいる。

他には、誰も見当たらない。

あれが、そうなのだろうか?

いや、あれは普通の女性だろう……どう見ても、魔物には見えない……

「いや……普通のお姉さんにしか見えませんが……」

勇太さんは、また軽く一息つく。

「そうか……そこで問題だ」

私の目の前に、3本の指を立てて続けた。

「これは三択問題。これから、どのような行動を起すかについてだ。1、何故に魔物が見えるのかを解明するべきである。2、この能力を上手く利用して魔の大陸へ進むべきである。3、この町を魔物の脅威から救うべきである。さぁ、どうする?」

いきなり、この人は……

こんな難しい問題を人に突きつけてくるとは……

「それを選択させて、もし間違っていたらどうなるんです?」

私が聞き返すと、キョトンとしながら勇太さんは言う。

「ん? その時は、全て君の責任問題になるに決まっているではないか」

マジっすか……

やはり、そんな重大な問題はとても答えられない。

「選べませんよ……そんなの……」

その返答を聞いて、勇太さんは笑っている。

私は少しムッとした。

「まさか、からかったのですか?」

目の前で、手を小さく横に振りながら勇太さんが笑顔で言った。

「いや、まずは君の意見を聞きたいだけだ。私はこの世界で、まだ大した時間を過ごしていない。つまり私には常識と言う概念が存在しないのだよ。だから一般的な意見を求めているのだ」

常識? いや、それ以前にもう十分に理論的だと思うのだが……

だが、選択肢としては、そのくらいである事は確かだろう。

私はまた聞き返した。

「勇太さんは、どうしたいんです?」

しばらく黙ってから答えた。

「わからん……全く、わからん……」

おいおい……わからないのかよ……

私が先行きに一抹の不安を抱いていると、さらに続けた。

「魔の大陸は、誰も知らない……」

確かに、そうだ。

「つまり、どの選択にもメリットとデメリットが混在している」

ん? デメリット?

私が首を傾げているのを確認してから、また話を続けた。

「では、簡単に説明しよう。何を計りに掛けるべきかが問題なのだ。

1の選択。まず魔物が見える事の解明を優先した場合、大陸への攻略は頓挫してしまう。そしてその間に、もし敵軍が総力を挙げて攻めて来たら、もはや終わりだ。

2の選択。この能力を利用して魔の大陸へ進む選択をした場合、

例えこの町が犠牲になっても、見捨てて先に進むしか出来ない。

そして万が一に私が大陸で死んでしまえば、それは敵陣で丸腰状態と言うこと。

帰還する事も難しいだろう。

3の選択。この町を魔物の脅威から救う選択をした場合、

敵本陣へ私達の存在が伝わり魔の大陸へ行く事はさらに困難を極めるはずだ。

そして敵の大軍に攻め込まれる可能性までが大いに跳ね上がる。

ここまでで、何か間違っているか?」

何も間違っては居ない……いや、むしろ只の冒険者がそこまで考えている時点で凄い……

確かに、我々の常識の範囲では無い人のような気がする。

私が首を振ると、さらに続けた。

「そして、ここは最前線でもある。私達が魔物を殺した事によって、

この町に居る魔物達には、すでにある程度の情報は行き渡っているはずだ。

だが、こうして魔物の前に居ても判らないのは唯一の救いだ。

この様子だと、まだ奴等に面は割れていないようだ。

しかし、冒険者が奴等のターゲットである事には変わり無い。

すでに、のんびりと時間を掛けている余裕は無いだろう」

凄いな……ただ、こうして座っているのも調査だったんだ……

「一体、貴方は何者なんです?」

おもわず口をついた言葉に、勇太さんが答えた。

「私か? 私は何処にでも居る、美の探究者だ」

いや、そんなの居ないし!

う~ん……よけいに、この人が難解になってしまった……




















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