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第百六十八節 オバ帝国の視線 部下の場合

 今、とても悩んでいます。

私の名前は、網目錦アミメ・ニシキ

カカア様の側近として仕えて、もう10年になりました。

今ではカカア様も私を信頼してくださっておりますが、

最初の頃は誰にもそのお心を開いてはくれませんでした。


 あの頃のカカア様には、信頼できる者など一人も居りませんでした。

まぁ、今でも欲に塗れた者達などは数え切れないほど居ますが

その中で孤独に苦しんでいる姿は見るに耐えないものでした。


 そんなを状況を毎日のように目にしていれば、

何とかしてあげたくなるのが人情と言うものです。

私も確かに、何でも相談して頂けるような側近を目指して頑張って来たのは事実です。

ですが、当時はこれほど様々な無理難題を課せられるとは考えてはおりませんでした。

もしや、あの頃のが楽だったのかもしれないなんて考えてしまう私も居て……

いえいえ! そんな事を考えてはいけないのです。

これは、私が何とかしなければならない事。

私が選んだ道なのです。

この私が、カカア様を守って差し上げるのです!


 はぁ……

それにしても、勇者を作るって……

どうしたら、あんな発想になるのかしら?

まったく……世の中そう言うもんじゃ無いですわよね~?

言われるままに捏造しちゃったら、また私の責任になっちゃうじゃありませんか。

そう思いません?

あら……私ったら、誰に言ってるのかしら。


 でも、本当に困りましたわ。

このオバを代表して勇者を旅立たせるならば、相当のツワモノでなければなりません。

もし途中で死んでしまったりしたら、目も当てられませんもの。

しかし、それに適した人材なんて……

まずは、騎士団の様子でも見てみようかしら……



 騎士達の稽古場へ歩いて行くと、威勢の良い声が聞こえて参りました。

どうやら木剣で訓練しているようですが、

真剣さながらのピリピリした空気が伝わって来ます。

我が騎士団の優秀さに見惚れていると、団長が声を掛けて参りました。

「今日は、どうなさいました? 何か御用がありましたら、何なりと申し付けて下さい」

「いえ、ちょっと見に来ただけです……ところで、あの若い子は?」

私が指差したのは茶色の髪に青い目をした、なかなか精悍な顔付きの女性。

年は、16歳くらいだろうか?

団長は、私が指差したその子を確認すると、不意に笑みを浮かべた。

「あぁ……あれは去年入った新入りで、鷺戸夕菜サギト・ユウナと申します。女性が騎士団を希望するのは、珍しいですからね。最初はどんなものか判らなかったのですが、なかなか筋が良くてメキメキと頭角を現していますよ。今では、ああして男性と一緒に訓練に励んでいます」

なるほど……あの子なら、見栄えも良いわね……勇者候補に決定ですわ。


 その時、もう一人女性が目に入って来ましたわ。

私は、団長に聞いてみました。

「まだ、女性が居るようですね?」

「気付かれましたか。あれは『波出荷幾代ハデニ・イクヨ』と申しまして、この騎士団に来てもう5年目になります。かなり、腕は良いんですけどね~……昇進を勧めてはいるのですが、どうも興味が無いようで全く聞かないんですよ」

「と、申しますと?」

「えぇ……『私は最前線以外に興味は無い』などと申しておりまして……」

「それは、面白い子ですわね」

団長は、それに呆れた表情を浮かべながら言いましたわ。

「いえ……あそこまで頑なだと、我々も困りますよ」

ならば、あの子が戦士候補ね……これで、二人は確保できましたわ。


 その時、団長が騎士に向かって大きな声で怒鳴りましたわ。

「こら、そこ! 腰が入っておらんぞ!」

私が驚いていると、団長は苦笑いで頭を下げてきました。

「これは、脅かしてしまったようで申し訳御座いません。また、何かあれば声を掛けて下さい」

そう言いながら、団長は騎士達の所へ戻って行きました。



 さて……そうなると、後は魔法使いが必要ね……

さっそく、探しに行かなくてはですわ。












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