第百三十五節 夜だね~……
やがて辺りが闇に包まれて深夜を過ぎた頃に、私達は行動を始めた。
「さすがに今は見張りの人数が減っているはずだ。このまま港に入り込むぜ」
加瀬朗さんの舵に合わせて兄弟がロープを引く。
そのまま船は静かに港へと進んで行った。
クラブハウスの灯りは見えるのだが、私には何がどこにあるのか良く見えない。
加瀬朗さんが舵を切ると船首がクラブハウスへと向いた。
兄弟が帆をたたむと、船は減速しながら接触することなく狭い隙間に入った。
どうやら、三人にはシッカリと見えていたようだ。
本当に、この人達は凄い。
加瀬朗さんがロープを投げるのを合図に兄弟が動いた。
採光さんが船に板をかけている間に、昏衣斗さんが港に飛び移り加瀬朗さんが投げたロープを拾って船を縛り付ける。
その作業は、あっという間に終わってしまった。
そして、加瀬朗さんが言った。
「今日は、俺達もクラブハウスだな。じゃ行くか」
そう言いながら、いきなり木製の船舵を取り外してキャビンの中に持って行った。
え? そんな簡単に取れるんだ……
私達が加瀬朗さんと共に荷物を持って来て甲板に出ると、
採光さんがキャビンの扉を降ろし始めた。
まるでシャッターのような感じでスルスルと閉まっていく。
本当に、この船は良く出来ているな……
カギを閉め終わると、笑顔で振り向いた。
「これでOKです」
なるほど、これなら必然と盗難防止にもなるな。
私達は、感心しながら船を降りた。
加瀬朗さんが会員証を出して部屋を取る。
フロントから纏めて貰ったカギを私達に渡す時に加瀬朗さんは言った。
「ひとまずこれで仕事は終わりって事になるが、その話は明日だ! 今日はユックリ寝ようぜ」
私達は笑顔で頷いて、カギを受け取った。
安と二人で部屋に入ると、何気に聞いてきた。
「明日は、どうするんでやす?」
「まずは、ノア婆さんの所に行ってからチハラに向かう感じだな」
何故かそれに、安は何か言いたげな表情を浮かべている。
試しに聞いてみた。
「どうした?」
それに、切欠を掴んだように答えた。
「いや、奴等の所に行ってみやせんか?」
「奴等って、あのチビブタの一派か?」
「そうでやす」
そうでやすって……
「でも、会いたくなかったんだろ?」
私が問うと、安は少し考えてから答えた。
「前はそうでやしたが、今は大事な情報源でやす。使えるものを使わない手はありやせん」
そう言いながら、安は不敵な笑みを浮かべている。
こいつ……本当にイイ性格してやがるな。
「それじゃ、ノア婆さんの所に行ってから覗きに行って見るか」
私の言葉に、安は満面の笑みを浮かべて頷いた。
さて、ここは面白みの無い部屋だが漠然と寝るには都合が良い。
僅かに聞こえる波の音も、眠気を誘う事だろう。
おもむろにベッドに横になると、安も隣のベッドに潜り込んで行った。
「では、寝るとするか?」
「そうでやすね。旦那、おやすみなさいでやす」
私は笑みを浮かべて、ロウソクの明かりを消した。
そして、次の朝……
あまりの眩しさに目が覚めた。
直に日が当たっている訳ではないが、カーテンを引いて居なかったのでヤタラと眩しい。
どうやら今日も快晴のようだ。
手を翳しながら何気に隣を見ると、安も目覚めたらしい。
荷物を持って下に降りて行くと、すでに皆は無骨で大きなテーブルを囲んでいた。
階段の途中で私達に気付いて手を振っている。
私も振り返しながら近づいて行った。
とりあえず荷物を置いて座ると、加瀬朗さんが言った。
「兄ちゃん達には、本当に世話になった。ありがとうよ」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
おもわず恐縮して頭を下げると、加瀬朗さんは笑みを浮かべて言った。
「まぁ、こんな状況じゃ誰も海には出ねぇだろうからよ! 俺達も、しばらくはこの辺りで静かにしとくわ! だが、もし船が必要ならいつでも言ってくれよ!」
「はい。その時は、宜しくお願い致します」
それに私は笑顔で頷いた。
荷物を持って、皆でクラブハウスの前まで移動する。
私達は、加瀬朗さん達と向かい合った。
「じゃ、気ぃつけて行けよな」
三人は、海の男らしいイカシタ笑顔で親指を立てている。
「本当に、ありがとうございました」
私達は硬い握手を交わし、
加瀬朗さんと兄弟の笑顔に見送られて港を後にした。




