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第百三十四節 戻りますか~その3

「ねぇ! ちょっと、いい加減に起きなさいよ!」

ん?

その声に、私はおもわず飛び起きた。

「何だ? また遅刻か?」

「ちょっと、何を寝ぼけてるのよ! とっとと起きなさいよ!」

横を見ると、黒いローブを着た遥子が怒っている。

そうか……今は、違う世界だったか。

どうやら、思いっきり寝てしまったらしい。

まだボ~っとしている。

二度寝はヤバイな……



 まだ頭が起きていないようで、若干フラフラしながら甲板に出ると

皆は笑みを浮かべて迎えてくれた。

「申し訳ない、私も激しく寝てしまったよ。あのベッドはヤバイくらいに寝ちゃうよな」

頭を掻きながら言うと、皆も笑顔で頷いていた。


 ふと聞いてみた。

「そう言えば、どの位まで来たんだ?」

私の問いに、続けるように安が答えた。

「もうバグッタの海域は出やした。あと半日も掛からないで着くそうでやす」

ほう、もうそんなに来ていたのか。

「そうか……ひとまず、何も起きなくて良かった」

それに安も頷いた。


 皆で昼食を済ませ、甲板で海を眺めていると加瀬朗さんが大きな声を上げる。

「見えてきたぜ~! もうちょいだ!」

遠くを見ると、ボンヤリと島の影が見えている。

「兄ちゃん! 後は任せておけ! 荷物を纏めてていいぞ!」

「はい、そうさせて頂きます」

私と安はキャビンに入って、遥子達にも声を掛ける。

「もうすぐ着くらしいから、荷物を纏めておいてイイってさ」

「あら、そう」

そのまま、皆で荷物を纏め始めた。


 キャビンの入り口に荷物を運んでいると、船の動きが急に変わった。

ん? どうした?

急いで甲板に出ると、兄弟が慌しく帆を緩めている。

そして加瀬朗さんは港の方を真剣に眺めていた。

とりあえず声を掛けてみる。

「何かありました?」

その真剣な眼差しのまま答えた。

「あぁ、これじゃ戻れねぇな……夜まで停泊だ」

私は、急いで荷物から望遠鏡を取り出して覗いてみた。

あぁ、なるほど……

港には警備の騎士らしき人間がワラワラと居る。

確かに、これは戻らない方が無難だな。

「なるほど、でもこんな近くで大丈夫です?」

「あぁ、そうだな。ちょっと隠れておいた方がイイな」

そう言いながら、舵を左に切った。


 帆をたたんで、いかりを降ろして停泊させると

皆でキャビンに集まってテーブルを囲んで座った。

加瀬朗さんは大きく息をつきながら言った。

「しかし、奴等は何なんだ? 何故、ここまで港を警戒する?」

それに私は答えた。

「これには、魔の大陸が深く関わっているはずです」

それに驚くように答えた。

「あ? 魔の大陸だ?」

私は頷いて話を続ける。

「えぇ、街に人間に化けた魔物が居るのはご存知ですか?」

「何? 魔物が一緒に暮らしてるのかよ!」

かなり驚いているので、やはり知らないようだ。

「はい、私達はそれを退治しながら旅を続けています。そして、この国の重要人物が魔物に協力している可能性があります。もしくは誰かに化けて、そこに入り込んでいるのかもしれません。勇者に通じる書が大量に城に集められていた事から見てもチョイワル族が相当に怪しいのですが、まだ裏は取れていません」

加瀬朗さんは、何度か頷きながら言った。

「なるほどな……って事はソイツ等を退治しないと、もっとヒデェ事になるって話か」

「そうですね。魔物なら何とか見分けが付きますが、もし人間が協力していたとしたら相当に厄介な問題です」

「だろうな~……もしそんな事になれば、この国も終わりだ」

難しい顔で頷く加瀬朗さんに、私は言った。

「いや、この国は比較的に後まで残るはずですよ」

「ん? 何でだ?」

首を傾げている加瀬朗さんに話を続けた。

「ここは幸いサイバエ国の隣に位置しますので、食の供給が止まる事はありません。そしてサイバエ国からの流通は、世界規模だと聞いています。海の交流を止める事で、即影響が出るのは近隣諸国でしょう。サイバエから食の供給を頼っていた国ほど、すぐに飢えが始まり混乱が起きるはずです。そして何も無くなれば奪うしか手はありません。ですがいきなり海を越えてオジ三国に攻め込めば、オバ帝国も黙っていないでしょう。海上から、この二つの国を落とす事は相当に難しいはずです。そして食の奪還が目的なら、魔弾道のような強力な兵器もそう簡単には使用できない。ならば、陸続きの国の方が攻めやすい事は明らかです。そこで奪い合いが始まれば、当然のように戦争に発展していきます」

それに加瀬朗さんは、何か感心するように大きく息を付いた。

「なるほどね~……確かにそうだな。しかし、兄ちゃん本当にスゲェな」

おもわず私は続ける。

「いや……解ってはいても、なかなか解決できないのは私の力不足に他なりません。何とか早急に解決しなければいけないんですが……」

私が俯くと、加瀬朗さんは笑みを浮かべて声を大きくした。

「何言ってやがる! こちとら、神様じゃねぇんだからよ! そりゃ無理ってもんさ! そう言や次は、どこに行くっつったっけ?」

いきなりの問い掛けに少し驚いたが、すぐに答えた。

「あ……次は、オバ傘下のチハラに向かう予定です」

「ほう……そしたらよ! 試しに、俺の親戚を訪ねてみろよ。ちょっと待ってろな」

突然に席を立ち上がって、壁際の棚から手帳を引っ張り出して見ている。

「おぉ、コレだコレだ」

そう言いながら、メモに書いて私に渡した。

「ほれ! ここに行ってみろよ!」

メモを渡されたので見てみると、住所と一緒に

山奈良間健三ヤマナラマ・ケンゾウ』と書いてあった。

これは、また強烈な名前だな。

私が見ていると、加瀬朗さんはメモを指差す。

「そいつはよ! 向こうじゃ、けっこう偉いんだよ! 役に立つと思うぜ~?」

「ありがとうございます。戻ったら、さっそく行ってみます」

深くお辞儀をすると、加瀬朗さんは笑みを浮かべて頷いていた。












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