第百三十節 キム・ラタクね~……
家の中に入って行くと、やはり作りは雑だ。
イメージとしては、南国の原住民が住んでいるような佇まいで
壁や屋根にはやたらと隙間が目立っている。
まぁこの島は寒くは無さそうなので、これでも問題無いのだろうか?
だが、所々に置いてある本棚が妙に立派で綺麗なのが相当にアンバランスだ。
他の棚には、数多くの巻物のような物がガサツに積んである。
これでは雨でも降ったら一発で終わりそうなのだが、どれも綺麗な状態で保存されている。
そして、辺りを見回しても何か生活感が感じられない。
この人は、いったい何を食べて生きているのだろうか?
まったく不思議である。
しかし、当のキム・ラタクだが……
守護神や仙人と聞いていたので、もっと重々しい雰囲気の人を想像していたのだが
何だろう? あのヤケに軽い感じは……
見た目も妙に若いし、顔も、相当の美形と言って良いだろう。
そんな色男が、こんな誰も尋ねて来ないような島で一人とは……
本当に変わった存在である。
奥の部屋でおもむろ腰をかけると、私達に言った。
「それじゃ、その辺りに適当に座っちゃって?」
私達がそこに座ると、キム・ラタクは大きく溜め息をついて話し始めた。
「それにしても、退治の方法ねぇ……もしかして、倒す気なんだ?」
私達が揃って頷くと、驚いたように続けた。
「へぇ~……それで、誰が魔法使えんの?」
「あっ、あたしです」
遥子が答えると、黒いローブの中を覗き込むように見た。
「へぇ……カワイイじゃん。それじゃ、ちょっとその辺りでデートでもしてさ」
キム・ラタクに向かって、冷たい視線が一斉に注がれる。
「じょ……冗談に決まってんじゃん……」
キム・ラタクは、ふと溜め息をついた。
「でもな~、教えるっつってもなぁ~。コレってさぁ~、けっこう面倒臭いんだよね~。えっと……アレどこにやったかな~?」
首元を掻くような素振りを見せながら、辺りを見渡している。
「あぁ、あれだ! ちょっと、そこの上にある巻物取って来て!」
何やら本棚を指差しているので、そこまで行ってみると無造作に巻物が置いてある。
これの事だろうか?
その時、またキム・ラタクが指を差したまま声を上げる。
「そそ! その手前の奴。それやるから~、勝手に覚えちゃってよ!」
「コレに、書いてあるんです?」
巻物を手にしながら不安そうに尋ねると、キム・ラタクは口を尖らせながら言った。
「じゃぁ、ちょっと見せてよ……」
私が巻物を渡すとフテくされたように
こちらにチラチラと視線を送りながら、おもむろにそれを広げた。
「そうそう……コレだよ、コレ!」
ざっと全体を確認すると、それを大雑把に巻き直した。
「ここに全部書いてあるから~、勝手に覚えちゃって! はい!」
面倒臭そうに腕を伸ばしながら巻物を渡された。
「で? あと何だっけ?」
惚けた様に聞いて来るので、伺いを立てるように言った。
「魔王についてですが……」
「あっ、そうそう魔王ねぇ……もしかして倒す気なんだ。へぇ~……それで、お前剣術は?」
「それなりには……」
その答えに、いきなり怒り始めた。
「それじゃ勝てる訳ねぇじゃん! 魔王ナメてんじゃねぇよ」
おもわず聞き返してみる。
「そんなに強いんです?」
「わっかんねぇよ!」
おいおい。
「わっかんねぇけど、めっちゃツエェんだよ!」
なんて抽象的な……
キム・ラタクは額に手を当てながら、人差し指を上に向けた。
「それで、あれだ……ライダー流剣術ってのがあるから~。それ探せ」
「ライダー?」
私が聞き返すと、手を妙にヒラヒラさせながら何かを思いだそうとしている。
「あの……ほら、あれだ! あぁ……雷陀亜書家っつったかな。めっちゃツエェのが居るから~。それ探せ」
それって?
「もしかして、雷陀亜書大さんの事ですか?」
何気に問いかけると、キム・ラタクは驚いた表情を浮かべて言った。
「何だよ……知ってんじゃん」
おもわず首を傾げながら聞いてみる。
「いや……剣術の話なんて、一言も聞いていませんが?」
すると、キム・ラタクは人差し指を立てながら言った。
「あぁ……それ、あれだ! なんつったかな……何でも大事な人を助けられなかったとかで辞めちゃったとか聞いたな」
それじゃ、ダメじゃん……
さらに聞いてみた。
「そんな状態で、教えてもらえるんでしょうか?」
間髪入れずに、怒鳴られた。
「そんなの、俺が知る訳ねぇじゃん!」
はぁ、なるほど……
何やら守護神とは、どう言う存在なのか更に謎に思えてきた。
とにかく大さんの所に行ってみて、聞くだけは聞いてみなければ仕方あるまい。




