第十二節 冒険者の視線 蓮の場合
私は、ヨウジョ国から魔の大陸を目指している。
名前は、知瑠土蓮
攻撃は剣が主だけど、多少の治癒魔法くらいならできるわ。
良く白魔法使いとか言われるけど、本当を言えば魔法はそれほど得意ではないの。
ようやく、オジ三国に到着したわ。
半年の時をかけて、やっとこの街まで辿り着いたの。
オバ帝国の横断は、本当に大変だった……
少し進むたびに変なのに絡まれるし、ジドウソ・ウダンって妙な集団に捕まりそうになるし。
要刺怨組って、危ない組織にも付き纏われたわ。
一時は、ホゴダン・タイって人にしつこく追い回されて大変だったの。
オバ傘下の国々も酷かった。
カカア殿下の許可は下りているのに、
ミドリノ・オバ傘下管理局の人達が全然通してくれないの。
「危ないから、横断しちゃダメよ」って理由になって無いわ。
本当に、頭にきちゃう。
綿理間将って言う旅の商人の方と出会わなかったら、
絶対にここまで来られなかったわ。
必要ない物も色々と買わされたけど、それは仕方ないわ。
私の隣に居るのは、黒魔法使いの西堂伍翔子。
妙に大げさな名前は、王宮に仕える貴族だからなの。
翔子の家系は魔法使いだから攻撃魔法を使わせたら本当に凄いの。
特に火の魔法を使わせたら絶品よ。
普段は黒いローブを着込んでるからあんまり顔が見えなくて皆は怖いとか不気味とか言ってたけど、絶対にそんな事は無いわ!
ちょっとボーイッシュな雰囲気で切れ長の目が凄く印象的な素敵な女の子なの。
本当に、勝手な事言わないで欲しいわよね。
私の家系は冒険者だから身分は随分と違ったけど、翔子とはとても仲が良かったわ。
冒険者になる事を決めた時も、翔子は何も言わずに付いてきてくれた。
当初からの仲間であって、幼馴染でもあるの。
仲間はもう一人、音子和面伊代って女の子が居るのだけど、
久々に旧友に会いに行くと言うので町に付いてからは別行動をしているわ。
目が大きくて赤いクセ毛が印象的な、とても可愛い子よ。
でも伊代は騎士の家系だから、剣を使わせたら物凄く強いの。
剣術大会に出ると、いつも優勝してたわ。
え? 私?
私は……
そんな事はイイの!
ここまで三人で来たのだけれど、今は翔子と二人。
この町の様子を伺いながら、必要な買い物も済ませる予定なの。
その時、翔子が私に声をかけた。
「ちょっと道具を買ってくるよ。何件か回るから、ここで待ち合わせしよう」
そう言うと翔子は遠くの人込みに紛れて行った。
このオジ三国は初めて来たけど、本当に不思議。
どこも平らな石が敷かれているの。
これが石畳って言うのかしら?
私の居た街は地面が土ばっかりだから雨の日はグチャグチャになって本当に大変なの。
でも、これなら安心よね。
建物も凄いわ。私の住んでた木の家とは別物ね。
なんか全部石で作ってあるみたい。
ん? 遠くに噴水が見えるわ。あっ、虹が出てる。ここから見ても綺麗だわ~……
……
あっ……私の街に、そう言うのが無い訳じゃないのよ。
でも、こんな風に作ってあるのはお城だけなのよね。
お城には石で囲った綺麗な噴水もあるんだけど、
私達みたいな冒険者の家系は普段は入れないの。
翔子はいつも見てたみたいだけど、私はお祭りの時くらいしか見れなかったわ。
しばらく街を見て回ってから待ち合わせ場所に戻って来てみたけれど、
まだ翔子は居ないみたい。
それからも待ってみたけど、なかなか帰ってこない。
あれから、どのくらい時間が経ったのかしら? まだかな?
また暇つぶしに何処かに行ってみようかと思って居ると、翔子が見えた。
私が手を振って呼ぶと、翔子は近づいて来ながら話しかけてきた。
「さっそくで悪いけど、行きたいところがある。さぁ行こう」
私は、首を傾げながら聞いてみる。
「え? 何処に行くの?」
「この先に行かなければいけない所があるんだ。すぐだよ」
そう言うとすぐに歩いて行ってしまったので仕方なく付いて来たが、もう森の入り口だ。
こんな所に?
翔子は森へと入っていく。
「ねぇ、ちょっと。本当にこの先に行く訳?」
「あぁ、そうだ……」
何か、おかしい気がする。
「ねぇ、やめようよ。この森、なんか嫌な雰囲気だよ」
すると翔子は、いきなり私の腕を掴んで引っ張り始めた。
「いいから来るんだ!」
え? なんで? こんな翔子は今まで見た事が無い。絶対に変よ……
「ちょっと……貴方、誰?」
私が抵抗すると、翔子の声色が急に変わった。
「くそ……黙って付いてくれば良いものを……」
え?
さらに驚いた。
翔子の足元で、何かが動き始めている。
何? いったい何?
振り返った翔子の顔は、もはや元の形を止めていなかった。
それに思わず、悲鳴を上げてしまう。
まるで跳ね上げられるような強い衝撃に襲われると、何かが撒き付いて来る。
「何これ! 気持ち悪い!」
「気持ち悪いだと? ふざけるな!」
突然怒ったと思うと、数え切れない程の触手に体中を縛り上げられた。
「貴様等、いつも馬鹿にしやがって! 殺してやる!」
「うぅ……苦しい……」
その力は激しく、もう声も出ない。意識も遠ざかり始めた。
このままじゃ……殺される……
もうダメかと思ったその時、突然に化け物が奇声を上げた。
何とか目を開けると、化け物が燃え上がっている。
何が……起きたの?
しかし、私には何が起きているか考える余裕も無い。
そのまま意識が消えていった……
痛い……誰かが頬を叩いている……
何?
声が聞こえる……
「大丈夫か!」
私は僅かに目を開けると、安心したような表情で呟いた。
「良かった、どうなるかと思った……」
あ、翔子だ……
そうか、助けてくれたんだ……
ぼんやり考えていると、霧に掛かっていたような意識がようやくはっきりしてきた。
「あ、ありがとう」
「怪我は無いか?」
手足を動かしてみると、痛みは無い。
「うん、大丈夫みたい」
私は、ゆっくりと立ち上がった。
その時、翔子が目をそらした。
どうしたんだろう?
「何? どうしたの?」
翔子は目をそらしたまま、私に指を向ける。
そこに視線を向けてみると……
「キャーーー!!」
そこには、私の小さな胸が見事に肌蹴ていた。
荷物の中から上着を出して着替えていると、翔子が話し始めた。
「あの化け物は、いったい何なんだ?」
「良く解らないけど、翔子だったの」
「え?」
理解できないようで、不思議そうな顔をしている。確かに、説明が難しい。
私は出来る限り、解りやすいように説明した。
「化けていたのか……私に……」
それに頷くと、翔子は眉を顰めた。
「それって、この街に魔物が紛れているという事だよな?」
確かにそうだ。そう聞くと、あれ以外にも居て当たり前に思えてくる。
「なら伊代は? 大丈夫なのか?」
「嘘……そんな……」
私達は、伊代の向かった先へと急いだ。




