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第百十節 こいつ等って何?

 遥子達は占い師と作戦の打ち合わせをするそうなので、

その間に私は安と伊代を連れて町外れにあると言う店に向かった。

結界に必要な材料は一点だ、何やらハーブのような植物を粉にした物らしい。

小さなビンで売っているらしいので、手持ちで十分だろう。



 私達が古いイギリス風の洒落た建物に囲まれた街中を歩いていると、

金切り声にも似た激しくウザイ声が響いた。

「おう安じゃねぇか! 今まで、どこに行ってたんだよ! 探したぜ~?」

そちらに視線を向けると、10人ほどの柄の悪い集団が寄って来た。

先頭に、サングラスをかけた小さいブタが立っている。

しっかり服まで着てやがるぞ。それも背広だし、さらに縦縞なのが妙に笑える。

ずいぶんと飼い慣らされているものだ……


「あぁ……あんた等でやすか」

安は、そいつ等に冷たい視線を送っている。

どうも出会いたくなかったような雰囲気だ……


 その時、さっきのウザイ声で小さなブタがしゃべった。

「そろそろ、イイ返事は貰えるんだよな?」

おい! それペットじゃないのかよ!

まさか、そのチビブタがボス? それって……コイツ等、終わってないか?


 大きく溜め息をついた安は、露骨に嫌そうな表情を浮かべながら言った。

「だから、あんた等の仲間になんてならないって言ってるでやすよ」

それにチビブタは怒ったようで、キーキー言いながら怒鳴りつけてくる。

「テメェ……俺達に、そんな口の利き方してタダで済むと思ってるのか?」

それに、不敵な笑みを浮かべた。

「上等でやすね……だったら、この場で片を付けてもイイでやすよ?」

奴等に凄みを利かせている安に、私は声を掛けてみた。

「助太刀は居るか?」

安はこちらに視線を向けながら、笑みを浮かべて答える。

「いえ……これは、あっしの問題でやす。旦那達は、そこで見ていて下せい」

そう言いながら突然に振り返ると、安は後ろへと歩いて行ってしまった。

それを見た奴が、また怒鳴った。

「テメェ! 逃げるんじゃねぇぞ!」

横目に視線を投げると、安は低い声で言った。

「貴様等ごとき三下相手に、誰が逃げるんでやすか?」

「なんだと! テメェ!」

怒りを露にしているチビブタに向かって更に続けた。

「死にたくなければ、少し待つでやすよ……」

安は、後ろに目立たない感じで積んである木材の山を漁り始めた。

手頃なサイズの丸木が積んである所を見ると、薪に使う物のようだ。


 ふと横を見ると、伊代が目をキラキラと輝かせながら安を見ている。

なんかメッチャ期待してませんか?

だが、安の腕なら何の問題も無いだろう。

どうやら、ここは私の出番は無さそうだな。

やがて安は、薪の山の中から2本の木の棒を選んだ。

「これがイイでやすね」

安は短剣ほどの長さがある木の棒を叩き合せながら奴等の前まで戻ってくると、

おもむろに構えながら言った。

「さて……始めやすか」

「テメェ……なめやがって! お前等! とっとと、やっちまえ!」

奴等は一斉に飛び掛ったが、もう安はそこに居ない。

僅かの間を置くと、チビブタを残して一斉に崩れ落ちた。

地面に倒れたまま唸り声を上げている所を見ると、死んではいないようだ。

「なっ……どうなってやがる!」

その状況に驚きながらも、チビブタは必死に安の姿を探している。

そして背後から渾身の一撃が放たれた。

「キー……」

チビブタは、そのまま崩れ落ちた。

それを見届けると、安は呆れたような表情を浮かべてこちらに歩いてきた。


 その時チビブタが突然に立ち上がり、ナイフを抜きながら安に突進して来た。

「ちくしょう! 死ね~!」

私がおもわず剣に手を掛けると、伊代が先に飛び出した。

甲高い金属音が響いた瞬間に、チビブタの動きが止まった。

その首筋には、伊代の剣が張り付いている。

「卑怯者は……死、あるのみ」

その首を跳ね飛ばそうとした伊代の腕を、おもわず掴んだ。

「まぁ、待て……」

伊代は物凄い形相で私を睨みつけたが、すぐに剣を引いた。

それに頷きながら、チビブタに視線を向けた。

「貴様の出方次第では、命は無い。さぁ? どうする?」

チビブタは唖然としながらしゃがみ込むと、震えた声で言った。

「き……貴様等……いったい、何者だ」

「私達か?」

奴等に、薄笑いを浮かべた。

「私達は、ヨウジョ・ジャパンだ!」

「あぁ? なんだそりゃ! ふざけた事、言いやがって!」

その時一人の部下が、安にやられた痛みを堪えながら必死に駆け寄ってきた。

「ボス……」

そいつは、妙に焦りながら話を続けた。

「ボス! それって、あの津世伊蔵十字団を瞬間的に倒しちまった奴等じゃ?」

部下の言葉に、チビブタは驚いた。

「何? そりゃ本当なのか?」

「えぇ、ヨウジョ・ジャパンなんて珍しい名前は他に無いっすよ!」

それに、他の奴等も驚き始めた。

「もしかして……あの勇者一行とか言われている奴等の事かよ」

「おい……そりゃ、マジやべぇぞ」

「し……死にたくねぇよ~」

何かを悟ったようにチビブタの顔色が青ざめてくると、徐々に後ずさりを始めた。

「お……おう安! 今回は、この方の顔に免じて見逃してやるよ!」

そんな捨て台詞を吐くチビブタに、私は剣を引き抜きながら言った。

「ん? 安だと? 何か言い方を間違って無いか? 出方次第ではと言った筈だが?」

奴の目の前に剣先を向けると、チビブタの顔が引きつった。

「あっ……古茂野出コモノデ様でございました、大変申し訳ございません」

私は、更に冷たい視線を投げる。

「言い残す事は、それだけか?」

それに、はっ! としたように奴等は一斉に土下座を始めた。

「申し訳御座いません! どうか命だけは勘弁してください!」

必死に頭を地に付けている奴等に言った。

「どうやら、反省の色が無いようだな」

それに慌てて首を上げると、サングラスが外れかけるほど思い切り左右に振る。

「そ……そんな事は御座いません! 本当です! 何でもします! 何でも致しますから!」

ほう……何でもねぇ。

「では、さっそくお前等にやって欲しい事がある」

「な……なんでございましょう?」

不安そうな表情を浮かべるチビブタに言った。

「近いうちに、人間に化けた魔物がこの街に集まるらしい。その日時と場所を調べて来い」

「えっ! そんな……無茶な……」

「無理なら、この場で死んでもらうまでだが?」

剣を振り上げると、目を丸くしながら答えた。

「わ……わかりました! 必ずや、お調べ致します! どうか、少しだけお時間を!」

奴等は、そのまま頭を地に付けて怯えたように震えている。

ふと視線を横に送ると、安と伊代は笑顔で私に頷いた。












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