第百二節 終わったみたいね~……
私達がポリニャー伯爵の部屋で待っていると、
ダッツとナーヴェが戻ってきた。
「終わりました……」
私は、笑顔で頷いて答える。
「お疲れ様、問題は起きなかったみたいだね?」
「えぇ……生き残った者は全員、騎士団に捕らえられました」
それに、もう一度頷いた。
遥子が不思議そうに聞いてくる。
「ねぇ? いったい何をしたの?」
それに笑みを浮かべた。
「あぁ、それは簡単さ。まずはマキビシで手下を減らして、残りが縄橋を渡って来たら
切り落として更に人数を減らす。
これでほとんどは壊滅状態だろうが、まぁ盗賊ならばイザと言う時の為に
抜け道くらいは用意してあるだろう。
そして運良く生き残った奴等が目指すのは、あの地下倉庫だ。
あそこは中からは開けられない構造になっていたので、
牢屋の代わりに使えるかなと思ってね。
金目の物を持って逃げようと戻った所を、閉じ込めてもらったって訳さ」
「あっ……そう……」
遥子はひとまず納得しているようなので、伯爵に視線を向けた。
「と言う訳で、無事に終わりました」
伯爵は、目を丸くしてキョトンとながら私達を見ている。
もう一度声を掛けると、はっ! っとしながら言った。
「え? もう、終わっちゃったんです?」
私達が素直に頷くと、手を横に振りながら笑みを浮かべている。
「いやいや……さすがの貴方達でも、そりゃいくら何でも……ねぇ?」
その時、強いノックの音が響いた。
「伯爵! ご報告に参りました!」
それに、伯爵は大きな声で答える。
「あっ、どうぞ入っちゃって下さい~」
すると一人の騎士が、敬礼しながら飛び込むように入って来て報告した。
「お待たせ致しました! 盗賊団の護送が完了致しました!」
「あらまっ!」
そのまま伯爵は、目を大きくしたまま固まっていた。
騎士の話によれば、これから奴等の処分を決める為の取調べ等をするそうだ。
それには色々と伯爵の指示が必要らしく、そのまま騎士に連行されるように
連れられて行ってしまった。
まぁ本当は公爵なのだから、それも致し方ない。
そのまま部屋で一時間ほど待っていると、伯爵が戻って来て私に聞いてくる。
「あの、ちょっと確認しておきたい事があるんですけど宜しいです?」
それに頷きながら答えた。
「えぇ、構いませんが何でしょう?」
すると伯爵は、気味が悪いほどの笑みを浮かべてニヤけながら私に聞いてきた。
「あのですね? 盗賊の親分がですね? 俺のコレクションは、どこにやったんだ~!
って騒いでるんですよ~? 貴方達、何か知りません?」
この人……ワザと言ってるな。
私もワザとらしく、首を傾げながら答えた。
「さぁ? どうしちゃったんでしょうね~?」
それに反応するように、手の平をこちらに向けてから下に落とすと話を続けた。
「ですよね~? それじゃ、盗品は行方不明って事で処理しちゃいますね~?」
部屋を出て行こうかと言う時に、伯爵はふと立ち止まって人差し指を立てた。
「あっ、そうそう……その盗品の中には、魔力を宿した物が数点あるらしいですよ?
何でも、それには目印を付けて置いたって言うんですよね~?
良く確認したほうがイイですよね~?」
ほう……それは、良い情報を。
私達は、再び馬車を預かって貰っている厩舎に来た。
また馬を世話していた人が、こちらに駆け寄ってくる。
「あれっ、お忘れ物ですか?」
それに手を振りながら答えた。
「いや、ちょっと荷物の整理です。しばらく馬車を表に出しますが宜しいですか?」
「あっ! どうぞ、どうぞ……」
私に手の平を差し向けると、また小走りで馬の方に戻って行った。
荷物を適当に積んでしまったので、皆が乗れるスペースが無い。
ひとまず皆には歩いてもらって、馬車をゆっくりと進ませる。
庭全体に芝生が綺麗に敷かれていて、馬も歩きやすそうだ。
激しく広い庭の真ん中辺りまで来たので、馬車を止めて周りに見渡しながら降りてみる。
近くに誰も居ない事を確認すると、積んでおいた武具を整理しながら見繕い始めた。
「まさか、これが目印か?」
剣の柄には『まけん』と書いた札がぶら下がっている。
いやいや……子供じゃないんだから。
良く見ると、他にも札が付いた物がある。
杖や腕輪なども目印が付いていた。
大雑把に振り分けてみると、剣は長い物が5本、短い物が3本。
杖は5本あって、腕輪やアクセサリーのような物にも札が付いている。
中には武器なのか道具なのか、使い道の解らない物もいくつか混ざっている。
それ等の用途不明な品を指差して、皆に聞いてみた。
「この辺りのって、何に使うか解るか?」
どうやら皆も知らないようで首を傾げている。
う~ん……謎だ。
だからと言って、盗賊の親分に聞く訳にも行かないしな~……
まぁ、そのうち調べてみるとするか。
何とか分類し終わると、細かい物も全部合わせて36個もあった。
だが、これ等が本物かどうかは非常に怪しい……
まずは解る物から実験をしてみよう。
とりあえず、適当に一本の剣を手にしてみる。
「さて……ちょっと、やってみるよ」
皆が頷いくのを確認して、おもむろに剣を引き抜くと誰も居ない方向に振りかざした。
その瞬間に、雷のような光りが前方に散った。
「おぉ! コレ本物じゃん!」
皆も、おもわず歓声を上げた。
引き続き違う剣も振ってみるが、炎やら氷やら色々出てくるので
剣に関してはどれも本物のようだ。
だが、私がコジュウ塔で貰ったこの剣の様に白い閃光が出る物は無いようだ。
何か違う属性なのだろうか?
さて次は、杖の実験だ。
「なぁ、コレの使い方知ってるか?」
何かの映画で見たような上の部分が歪に太くなった木製の杖を
遥子に差し出しながら聞いてみると、それを受け取りながら答えた。
「うん、魔法書に書いてあったわ。確か魔力を注入して、こうすると……」
その時、杖の先端に真っ赤な光りが現れた。
「危ない! それ向こう!」
私が叫ぶと、遥子が慌てたように杖を誰も居ない方向に翳す。
真っ赤な光りは、空に向かって一直線に吹っ飛んで行った。
それは消える事無く、いつまでも果てしない青空を目指している。
私は、その光りの軌道を追いながら呟いた。
「これは、ヤバイな……」
しばらく間を置いて、遥子も空を見つめながら呟いた。
「そうね……」