谷津の怒り
文化祭前日です。
ついに谷津が怒ります。
文化祭前日となりました今日、いつものように電車に乗って登校中の岡品谷津。
昨日は念入りにシャンプーしてスッキリとした模様。
そしてこれまたいつものように途中で野御丸仁と合流。
「今日お前は点呼どこ?」
仁が谷津に聞いた。
文化祭の準備のために、自分のクラスを他の団体に貸していて使えないクラスが多数ある。そのため、点呼は教室ではなく各クラスごとに定めた場所で行う。
「俺は自分のクラス。店も自分のクラスで出すからな」
谷津が答えた。
「ズルいぞ!俺なんか職員トイレ前の廊下だぞ!」
「あ、俺去年そこだったわ…」
点呼する場所は、何も部屋でなくても構わない。
廊下でやるクラスも多い。
そして学校に到着。
谷津は仁と別れ、自分のクラスに向かった。
「ほ~。何かいろいろ装飾してるな」
クラスの壁一面中にレンガをイメージしたダンボールが貼り付けられている。
とりあえず点呼が始まるまでクラスにいた松田亮輔と話して過ごした。
「あのエロゲの体験版やったんだけどさ~」
亮輔が繰り出した。
「やったの?というか体験版あるの?」
「あるよ。やったけどあんまり絵が好きじゃないな~」
「あ?ロリは嫌いか?」
「いやそうじゃなくて…」
「や~いロリコン!」
「おらっ!」
「グブゥ…」
蹴りを喰らった。
「こんなことしてたらこいつが壊れちまうよ」
そう言ってカバンから何かを取り出した。
「これは一体?」
「見てわかんない?」
「えっと…抜け殻…」
亮輔が取り出したのはザリガニの抜け殻。
しかし色が赤くない。青い。
「青い…」
「これはうちのフロリダハマーのハマちゃんの抜け殻だ!ホントは白が欲しかったが青しか売ってなかった。丁度良く昨日脱皮したんだ」
フロリダハマーとはザリガニの一種で、白いのと青いのがいるらしい。
「何に使うの?」
「うちの生物部でザリガニ釣りやるから飾ろうかと」
「それてそんな立派なケースに入れてるのか~」
「いや、ケースは100均」
亮輔は生物部員。
何故かこの学校は科学部と生物部がある。
生物が科学の中に含まれていないのは何故だろう…。
いろいろ話しているうちに点呼が終わった。
谷津は化学室へと向かった。
化学室には、既にみんな集まっていた。
仁以外は。
「仁は?」
谷津が仁と同じクラスの文雄に聞いた。
「クラスの方やってる」
今日もかよ…。
「じゃあ一年生はビラ貼り行ってきて!貼った場所覚えといてね。剥がし忘れるとこっぴどく怒られるから」
一年生にビラを貼りに行かせた。
既にかなりのビラが貼られていて、目につきそうな場所はあまり無いように思えたけど…。
「今日は実際に実験をやりますので、担当の物をやってください」
聖が言った。
「先輩!ガムテープ!」
達也がガムテープを求めてきた。
「バッグの中にあるから!出していいよ!」
谷津のバッグを漁る達也。
「ありました」
そう言って「おいでやす科学部」を貼りに行った。
聖が指示を出した10分後、谷津担当のダイラタンシーは呆気なく完成した。
「出来たぜ!芳春殴ってみ」
「おりゃ!」
「痛っ!?俺じゃねー!ダイラをだ!」
「間違えちったぜ」
「有り得ない間違いだな」
「そりゃ!」
ダイラタンシーを叩いた芳春。
「お!いいんじゃねーか?」
ダイラタンシー完成。
仕事終了の谷津。
しかし、落ち着くことはできなかった。
「それぇい!」
「ちょっ!」
頭に冷たい感触。
「今日は何した?またイチゴ…」
「違う!ダイラタンシーだ!」
文雄に頭にダイラタンシー乗せられた…。
力が入れば固体と言っても、普段は液体である。
「わー!谷津そんな白い液体頭からかけて何やってんの?」
「変な言い方すんな!くそう!油断した!落ちねーよこれ…」
「頭白いよ?何これ?」
「何って…片栗粉…」
他の実験も次々と成功して行った。
(ダイラタンシーは後味が悪い谷津だったが…)
しかし…。
綿菓子だけがどうしても上手くいかない。
「う~ん…。やっぱり缶がぶれちゃうんですよね…」
因みに、この綿菓子製造機は聖の手作り。
モーターは家にあるものをハンダで溶接して使ってるらしい。
砂糖を入れるところは空き缶。
それの表面をあぶって穴を開けたものを使う。
炙るのは中の塗料を落とすためらしい。
「綿菓子は缶がぶれないで回らないと成功しないんですよ…。これだとどうしてもぶれちゃう…。火力も足りないのかな…」
火力は明らかに足りないと思われる。
聖がガスバーナーは衛生的な問題で使いたくないらしい。(去年はこれでマシュマロあぶって食べたけど…)
で、今使ってるのはエタノールをかけた脱脂綿。
アルコールランプと同じくらいの火力らしい。
「いいや!今日帰って作り直してきます!」
聖のやる気は凄いものがある。
本番は明日なのに諦めないらしい。
仕事が無くなった谷津は、黒板を装飾することにした。
「ん~…。まずは上半分に液体窒素の実演時間と実験内容書いて…」
問題は下半分。
「誰か絵書ける?」
谷津が全体に聞いた。
「書けるぜ!」
立候補したのは黒岩。
「俺が書いてやるよ!別に出番が欲しかったわけじゃないぜ!」
わけわからないことをいいながら黒板に絵を描いた黒岩。
…男の…顔?
なんだこれ?
そして台詞が書かれた。
「僕と契約して科学部員になってよ!」
と書かれていた。
やべー…。元ネタが分からない…。
突っ込みにくい…。
「…しないっ!」
谷津はそう叫んで黒板を消した。
「文雄!描くぞ!」
文雄を呼んだ。
「何掻くの?」
「ちょっ!字が違う!そういう小説しかできないようなボケ止めて!突っ込みにくいから!」
「で、何を?」
「科学部っぽいもの」
「じゃあ谷津の似顔絵を!」
「俺は科学部の顔なの?」
「うん」
そう言って書き出した。
「待て~い!描くなー!」
結局、「科学部」と大きく書いて色チョークで回り派手にして終了。
トイレに行こうと化学室を出た谷津は驚いた。
化学室に向かう唯一の廊下の入口に、吹奏楽部がでっかい門を作っていた。
しかも、ビニールテープをヒラヒラさせていて、奥にある化学室はまるで見えない。
そもそも、門の所為でエラい入りにくい。
「…邪魔……」
さらに悪いことに、二つある教室の出入口の、奥を入口、手前を出口にしている。
奥が出口ならば、まだ奥があるのでこっちまで来たかもしれないが、手前出口では明らかに大半の人は引き返す。
「…嫌がらせだ…」
廊下には沢山の風船を装飾している。
これも科学部にとっては邪魔だった。
谷津はトイレから出ると化学準備室へ。
ここには沢山の薬品が置いてある。
谷津は、その中から一番新しい薬品を取り出した。
文化祭で使う予定で買った薬品。
その名は「リモネン」。
発砲スチロールを効率良く運ぶために有効だとされる薬品。
谷津はそれを持って化学室へ。
純水でかなり薄めて霧吹きの中に入れた。
そして吹奏楽部の装飾した風船に吹きかけた。
勿論吹奏楽部員に見つからないように素早くである。
「谷津どこ行ってたの?」
文雄が聞いた。
「ちょっとね~」
と笑顔で答えた谷津だった。
今日の部活はこれで終了。
早く終わった理由は聖が早く帰って綿菓子製造機を作りたいから。
明日がとても楽しみな谷津だった。
「谷津、なんか嬉しそうだな。いいことでもあったか?」
帰りに文雄に聞かれた。
「やっぱやられたらやり返すのが常だよね!」
頭の上に?を沢山浮かべた文雄。
今日は髪の毛を白くして電車に乗る谷津だった。
吹奏楽部ホント邪魔!
化学室見えないんですけど!
せめてあのヒラヒラさえ無ければ…