科学部に参加せよ!
我ら科学部!最終回!
高校生活最後の文化祭が舞台です。
谷津=作者ですので…。
それは文化祭3日前の水曜日の昼休みだった。
夏休みが終わったのは先々週。
それでもまだまだ暑い昼休みの教室。
一応、クーラーは入れてあるが節電云々であまり効いていない。
彼はいつものように友達と話していた。
「お前さ、あのエロゲーは確かに登場人物はお前好みのロリだけど…」
彼の友人が言った。
「あれは曲が気に入っただけ!そして好みでは無い!」
「嘘つけ!まぁ、何でもいいや。歌ってる人間はロリじゃないということは理解しとけ!」
「な、なんだって!?」
計り知れない衝撃を受けた彼は何気なく携帯を見た。振動した気がしたからである。
見るとメールが一通来ている。
ファントムバイブレーションじゃなかった。
メールを開いてみる。
そして…
差出人を見たとき、彼は全てを悟った…。
「ああ…今日からまた…」
彼はぽつりと呟いた。
「どうした?」
彼の友人が聞いた。
「…なんでもないぜ…」
彼は明らかに何でもある表情をしながら「何でもない」と呟いた。
放課後。
普段なら真っ直ぐ昇降口に向かう彼は、今日はいつもと逆の方向へ足早に歩いて行った。
階段を上がり二階。
薄暗い廊下の突き当たり、最も奥にある部屋を目指した。
彼は何度もここに来たことがある。
しかし、放課後に来るのは久しぶりだった。
彼は意を決して扉を開けた。
「おっ!何か来た!」
部屋に入るなり、ひとりの男が声をかけてきた。
男の名前は…。
野御丸 仁。
今この場所…化学室に俺がいるのはこいつの所為である。
「何かとはなんだ!帰っても良かったんだぞ!?」
「わー!谷津!帰るな!」
今帰ろうとした彼の名前は岡品 谷津。
伝説の科学部員である。
今はもう引退しているので過去の話ではあるが…。
今日谷津が化学室に呼び出されたのは、部活をやるためである。
3日後の文化祭に向けて準備をしなければならない。
しかし、人手が足りない。
そこで、「あいつなら来るだろう!」と仁が呼んだのだ。
「あれ?先輩…。何で来たんですか?」
今までの説明を全てぶち壊す質問をしてきたのは二年生の嘉村 達也。
面倒なので黙ってメールを見せた。
昼休みに届いたメール。
達也はそれを読み上げた。
「そうそう!イヌミミ少女の尻尾モフモフして『きゃん!』とか言わせてな~!こう…サキッポからだんだんと付け根の方に手を…。って何ですかこれ…?変態なんですか?」
何を言ってるんだこいつは…。
携帯の画面見て理解した。
「あっ!やべっ!これ昨日送信したやつ……こっちだ!」
慌てて画面を変えた。
深夜だと変なメールとか送っちゃうことあるよね?
「…送信って…。それ打ったの先輩なんですか…?というかそもそも何の話を?」
「興味持たなくていいよ!いいから!こっち!」
今度はちゃんと画面を確認して達也に渡した。
「やーい!やーい!谷津め!今日から文化祭の準備をする!化学室に来やがれってんだ!お前に拒否権は………ジャジャジャン!無いよ~!………暇なんですか?あの人は…」
呆れた目をしている達也。
「きっと暇なんだよ…」
さて、来たはいいが…何をしよう?
因みに、谷津以外も三年生は来ている。
仁が呼びかけたのであろう。
「部長~!部長~!」
谷津が今の科学部の部長である鴨川 聖を呼んだ。
「はい、何でしょう?」
返事をする聖。
「なんかこう…役割分担というか…係決めとかやらない?当日の担当も含めてさ」
「役割はもう決まってます。先輩はダイラタンシーです」
「またか~…」
去年の担当もダイラタンシーでした。
「あっ!他の先輩方も自分がやりたい担当を選んで下さいね!」
あれ?さっき「役割はもう決まってます」って言わなかったっけ?
勝手に決められた…。
何故選択肢が無いんだ…。
嘆く谷津であった。
まぁ、特にやりたいの無いからダイラタンシーでも良かったというのが本音ではあるが。
ここで今年の出し物を紹介しよう!
一つ目!
ダイラタンシー!
言わずと知れた片栗粉を使ったダイラタント流体!
二つ目!
スライム!
今年は改良を加えキタンサンガムを使い伸びるものに!
三つ目!
結晶・ケミカルガーデンの展示!
化学が生み出す不思議な形!神秘の光景を見よ!
四つ目!
色が変わる液体!
酸化・還元反応はただ錆びたり錆びを取ったりするだけではない!色まで変える!
五つ目!
綿菓子作り!
綿菓子は砂糖の状態変化を上手く使ったお菓子なのだ!
六つ目!
カルメ焼き作り!
カルメ焼きが膨らむのも実は化学!
七つ目!
家庭で出来る化学実験!
オキシドールにレバーを入れるとどうなるか?人参にオキシドールを入れるとどうなるか?うがい薬にレモン汁を入れるとどうなるか?
八つ目!
液体窒素実演!
色々なものを凍らせよう!食品からゴムまでなんでも凍らせます!
以上!
今年は多いね…。
「でさ、誰が保菌検査やったの?」
谷津が聖に聞いた。
調理するには検便をして生徒会に届け出る必要がある。
「やってませんよ?」
「へ?」
案の定だよ!
どうすんの?
「大丈夫です!綿菓子やカルメ焼きは調理ではなく実験の一つとしてやるので!」
なんと…。
ルールの盲点を突いていらっしゃる…。
「じゃあ大丈夫か~」
言い逃れの手があるなら問題ない!
そしてもう一つ気になることが谷津にはあった。
「今年のM-1誰が出るの?」
M-1といえば谷津を二年に渡り苦しめた最強の特設ステージ企画である。
今年の犠牲者には哀れみを持ってジュースの一本でも奢ってやろう(勿論80円のやつ。120円のペットボトルは当然だが90円の自販機もダメ。)。
「今年から出たい人だけ出れば良くなりましたので…」
「へぇ~。で、犠牲者は誰?」
「今年は誰も出ませんよ!この部活に希望者なんていませんから」
横から達也が割り込んだ。
「…は?今年は誰も出ないの?」
「だからそう言ってるじゃないですか!」
「去年までの俺の働きは…」
「一年遅く産まれるべきでしたね」
何故だ!何故引退した年から制度が変わるんだ!
どうせなら去年から希望者のみにすれば良かったじゃないか!
ふずぁけんぬぁー!
生徒会への怒りに震える谷津であった。
「誰かビラ書いて下さい!今年は3種類作りますので」
聖が言った。
「先輩書けますか?」
聖が谷津に聞いた。
「…俺はさ、生物の授業でニワトリの脳の断面図をスケッチしたんだよ。そしたら見事な北海道を描いてしまったんだ…。それでもいいなら…」
「…黒岩先輩、お願いできますか?」
聖がビラを書くように頼んだのは黒岩 陽一。元科学部員。谷津と同じく仁に呼び出されたのだ。
「何書いてもいい?」
「実験内容と場所と液体窒素の実演時間を書いて戴ければ何でもいいですよ。人目を引くのがいいです」
そして聖はこう付け加えた。
「常識の範囲内で、人前に張り出せるものをお願いします」
「何故R-18を書こうとしているとわかった?」
「…黒岩先輩なので…」
「…普通の書くよ」
「お願いします」
奴が言う「普通」ってなんだ?
黒岩をよく知っている谷津は少々不安であった。
1時間後…
「書けたぜ!」と自信有りげに持ってきた。
因みに、谷津はこの1時間でスライムに使うホウ砂水溶液を作ってました。
ビラに書いてあったのは確かに展示内容と化学室の場所と液体窒素の実演時間。
しかし、その横に紙の半分を埋める大きな絵。
何かのキャラクターと思われる少女の絵である。
「自信作だぜ!」
だ、そうです。
「なんじゃこりゃ?」
確かに人目は引く。
常識の範囲内……かは微妙…。萌えキャラだしな…。
「これは魔法少女だ!このキャラは魔法少女リリカルな…」
何かを語る黒岩。
というかうち、科学部…。
魔法なんて非科学的な物の代表ではないか!
いや待てよ…。
これは逆に…。
「よし!採用!まぁ、俺は『はじ○てのおいしゃさん』の浅倉姉妹辺りを希望したいんだがな~」
「お?採用?珍しいな。谷津なのに。浅倉?それを知らん」
谷津は今までは片っ端から不真面目なものは削除してきた。
萌えキャラ=不真面目=削除
これは谷津の鉄則であった。
しかし今は違う。
長い長い夏休みに彼は自宅に引きこもり毎日ネットの海をさまよっていた結果だろう。「はじめ○のおいしゃさん」もその影響。
夏休みに彼は大きく変わったのだ!
「今の時代『萌え』はかなりの経済効果をもたらす!それを上手く利用すれば大量の顧客獲得も夢ではない!」
谷津流萌えキャラ合法化理論。
「先輩、余ったスペースに絵書いて下さいよ」
達也の方のビラも完成した模様。
達也作のは絵がなく文章だけ。
その空きスペースに絵が欲しいというわけ。
「文雄~!ちょっと来て~!」
谷津が呼んだのは佐島 文雄。
元科学部員三年。
「絵描いて!」
「おっしゃ任せろ!」
威勢のいい返事をする文雄。
「で、何描くの?」
決まってなかったのかい!?
文雄はいつも適当な男である。
「ええと…。とりあえず科学部っぽいもの…。ビーカーとかは?」
目に入ったのがビーカーだったので…。
「わかった。フラスコ描く」
ビーカーは!?
文雄の指示で谷津がフラスコを取り出す。
選択肢その1
丸底フラスコ。
その2
三角フラスコ。
…。
三角でいけ!
「え?普通フラスコと言えば丸でしょ!」
文句言われた。
それでも三角フラスコ描く辺りいい奴だ。
5分後…
三角フラスコの完成。
何故かフラスコに吹き出しが書かれた。
吹き出しの中の台詞に思わず突っ込んだ谷津。
その台詞とは…。
『I am a Biikaa!』
「これフラスコ!ビーカーの綴り雑!」
そして三種類目のビラ。
少女の顔がデカく描かれ、その周辺に文字が書かれているもの。
聖部長作。
因みに少女は部長のオリキャラ。
今年の科学部のビラは初の「萌え」押しとなりました。
しかし、このビラがアダとなることに彼らはまだ気付いていなかった。
「よし!あとはこれをしんこさんに渡してコピーしてもらおう!」
しんこさんとは、科学部顧問である。
佐藤 幸子というおばちゃん先生である。
ニックネームは「しんこさん」
谷津は、しんこさんを探す旅に出た。
一年生に頼んだら「え~、嫌です」って言われたから本人が動くしかなかった。
谷津はまず化学室から最も近くいる可能性が高い理科準備室を訪ねた。
いない…。
次に職員室を訪ねた。
いない…。
絶望で息が詰まりながらも、なんとか化学室に戻った谷津。
そこで目にした信じられない光景。
しんこさんいるじゃん!
谷津が職員室に行っている間に化学室に来たらしい。
俺は何故職員室まで行ったんだ…?
そう思った谷津であった。
「先生…このビラをコピーしてください。全部100枚ずつお願いします」
「へー。この絵は私か?」
しんこさんが黒岩が描いた絵を見て言った。
「いや、違います。描いたのは黒岩ですけど」
「そうかい。コピーしてくる!」
コピーしに行った。
俺は机にだら~んとしていた。
疲れた…。
そんなとき…。
「喰らえ!」
「!?」
突然謎の液体を頭に吹きかけられた。
犯人は文雄。
「…何した?」
「じゃーん!おりゃー!」
さらにかけてきた。
「何だよそれ!」
「ワックス…みたいなものだ!」
既に普通に使う量の4倍は喰らった。
「…はぁ、はぁ。どこから持ってきた?」
避けるのに必死で息が上がっている谷津。
「仁のバッグの中」
ああ…。それ仁のか…。え?
「おい!勝手にバッグ漁るなよ!」
ワックス使ったことよりそっちが嫌な様子。
何が入ってるんだよ?
「谷津!頭貸して!髪型を整える!」
もう何でもいいや。
そう言って強引に谷津の髪型をいじくりだした文雄。
「できた!」
文雄が叫んだ!
文雄作・谷津のオールバック。
「…どう?」
「微妙」
やったのは貴様だろー!
結局、4倍の量のワックスを頭に付けたまま帰宅した。
電車乗りたくね~…。
こうして文化祭3日前の部活は終わった。
明日は午後は全て文化祭準備。
ある程度の覚悟が必要だと悟った谷津であった。
ははは~作者自信の性格が夏休み中に変わりました~。
次回は文化祭2日前です。
1話につき1日で進む予定です。
まあ、例外は…あると思いますけど…。