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第一話 最強の兵士

黒沢明人は職業軍人であり、士官候補生でもあった。この戦線から後方へ移動すれば准尉への昇格が約束されていた。後方と言っても一時のことである。准尉に昇格後、準備をして特殊任務につく予定になっていた。

西暦2080年、宇宙大航海の出発地火星で起こった地球政府と火星政府の内紛が原因の戦争は、すでに2年に及んでいた。開戦時、多くの職業軍人が遂に栄誉を与えられる機会を得たことに大いに歓喜している中、明人は複雑な気分だった。つまりは人を殺す機会と権利を待っていたという訳だ。まあ軍人だし、それが仕事なのだから別段否定をするつもりは無い、どういう経緯で入ったにしろ結局は、自分もその口なのだ、黒沢明人は早々に思索を断ち切っていた。

黒沢明人は、普通の10桁の識別番号とは別にA1というコードネームが与えられていた。それは第一被験者を意味していた。黒沢明人は、DNAが一般人とほんの少し異なり、2038の遺伝情報を色濃く受け継いでいた。2038は地生命のDNA干渉していたという仮説がある。何れにしても、それは鍵であり、彼は2038の残した遺産のかなりのレベルを操る能力を持つことを意味していた。彼の様な選ばれた民とも言える存在は、今解っているだけで世界で100人といない。そして軍人としての存在は彼だけである。また、2038の遺産を操れる能力以外に潜在的能力を持つことが多い。内容は様々らしいが黒沢明人は、電子を操る能力を有していた。


黒沢明人の所属する第12歩兵師団所属前衛第211部隊所属1番隊フォックストロット1、12人編成特殊強襲部隊は敵車輌部隊を視認できる距離にまで近づいていた。彼らのヘルメットにつけられたレーザーから座標が特定されロックオンされていく、マイクに向かってリオ・カールネン中尉が「オールグリーン」と呟いた。

リオ・カールネンは、黒沢明人に無線を通して囁いた。

「敵将兵は見えるか?」

「全装甲車をスキャンしたのだが、見当たらないようだ…」

「そうか…。よし作成続行だ。やぶ蛇になったらとっとと逃げるぞ。ならなくても逃げるがな、各員撤収準備」

リオ・カールネンはそういうと、マイクに向かって呟いた。

「放て」

刹那、敵部隊が閃光に包まれた。

戦車や装甲車が黄色く輝きどろどろと溶けていっている。衛星軌道で待機していたバトルシップからの高出力レーザーによる攻撃である。

4km以上離れているのに熱を感じる程の熱量だ。

リオ・カールネンを筆頭に部隊はすぐさま現場から移動を開始した。5km先のピックアップポイントまで迅速に移動しなければならない。

しかし、不運というべきか、予想外と言うべき事態が起こった。振り返った黒沢明人が地中から次々と戦車と装甲車があらわれたのを目視したのだ。事前に調べた情報と違う。新しく現れた敵軍は兵装も近代的だった。高さ1.5mの低車高に加えて、3連レールガン。後方には、100m機関砲3門。恐らくX線、光学レーダーも装備しているだろう。

黒沢明人はリオ・カールネンを見た。リオ・カールネンは悩まなかった。

「撤収急げ!体力有る限り走れ!」

黒沢明人には、敵車両隊後方から数発のミサイルが衛星軌道上にあるバトルシップに向かって飛んでいくのが見えた。

進軍の途中、何箇所かに隠れ場を確認しあっていたのだが、今回のミッションは、やぶ蛇にも程がある。バトルシップからの支援は恐らく使えない。このままではすぐにも追いつかれる…。

リオ・カーネルンは悩んだ。残念ながら我々の持っている武器では、戦車は疎か装甲車も止められない。捕虜になるのは誰一人望んでいなかった。だが我々にはA1が付いているのだ。それは幸運以外の何ものでも無かった。

リオ・カールネンが走りながら叫んだ。

「明人、何か手は無いか?」

黒澤明人は、ちらっと空を見て、少し悩んだ後、言葉を紡いだ。

「ここは俺ひとりで大丈夫だ」

「すまん、恐らくお前にしかやれない、我が軍最強の兵士のお前にしかな。頼むぞ。すぐに増援が来る。我々もお前を見捨てない」

リオ・カールネンや他の仲間達は、黒沢明人のヘルメットを軽く叩き、生きて後方で会おうと誓い合った。

精鋭の彼らがA1に希望を託したのだ。彼らは知っていた黒沢明人が普通の人間と余りにも違うということを。

A1の能力の凄まじさを。


黒沢明人は酸素マスクを外し、バックパックを落とした。

10年以上前からテラフォーミングを行っている最中だが、酸素マスクを外しては普通だったら1分と掛からず死亡してもおかしくない。だが明人の顔に苦悶の表情が無い。肺と気道に痛みが走るが、バックパックを捨てたのは機動性を考慮したのだ。

そして、バックパックに覆われていた背中にブレードの鞘(にしては反りが無いが)が姿を現した。

少しの間を置いて黒沢明人は危機を感じた、警笛が頭脳に響く。敵戦車が主砲であるレールガンを放ったのだ。距離10kmで誤差10センチの主砲だが、当然人に向けて撃つものでは無い。しかし、この不毛で過酷な大地で生命維持装置を外して平然としている黒沢明人に何か不気味なものを感じたのだろう。


報告にあった兵士かも知れない。敵大将のグラーテン・ウイック大佐は、迷わず砲撃を指示した。だがレールガンによって撃ち出されたタングステン製の重く硬い弾というより短い槍は、明人にぶつかる寸前で何事もなかったように、カランと音を立てて地面に落ちた。

戦車に乗っていた敵兵員は瞠目した。主砲が効かない…。すぐさまグラーテン・ウイック大佐に報告を入れる。

「弾が弾かれました」

「何馬鹿なことを…。と言いたい所だが、現実のようだな…」

そうしている内に黒沢明人は、鞘から薬莢の無い弾を取り出し、奇妙な反りの無いブレードを抜き払った。

ブレードの上はもっと奇妙で、円形の溝が掘ってあった。

明人は、その穴に弾を1発装し、左手で支え右手を肩当たりに構えた。

「あいつは何をしようとしているんだ?」

戦車の操車手が疑問投げつけた。

その直後、光の矢が走り、遅れてガッという弾を受けた方の音がほぼ同時に響き、1両の戦車の内部で高温のプラズマが発生した。乗組員は全員即死だろう。

それを合図に戦車が次々無力化されていく。装甲車は、機銃を打ちまくりながら後方へと下がっていく。戦車はそれよりも速く後退していった、自分たちが敵なら戦車を狙う、そう判断したのだ。

これがA1である明人の能力だ。体に触れようとした危険な物質の質量を自由に操り、更に慣性すら操れるのだ。今も大量の弾が彼の周りにゴロゴロと落ちていく。

質量兵器に関して質量が0に近い物質は、エネルギー量もほぼ0である。つまり恐怖足りえないのだ。一旦質量0近くになり黒沢明人の装甲に弾き返された敵弾は元の質量を取り戻し、地面に落下する。実は明人の体内には高価で希少なミュークボックスが埋め込まれているのだ。本来なら巨大な宇宙船に搭載するしろものである。

そしてもう一つ、彼が本来持つ特殊能力である電気を操る能力である。明人は、ブレードの背に弾丸を置き高電圧をかけて世界最小のレールガンを実現したのだ。

諜報部から聞いていた。戦艦クラスの能力を持つ兵士のことを。彼らはそれをバトルシップクラスと呼んでいた。

「本当に存在していたとはな…」

敵司令官は、しかし冷静だった。

「しかし我々にもステルス攻撃衛星がある。いかな能力を持っていようとレーザーの光熱は避けられまい」

彼は、間もなく上空を通る衛星を待っていた。


敵は無尽蔵に弾を打ちながら下がっていく。

黒沢明人は悩んだ。

「さて、どこまでやるべきか…。引くべきか?

ん?…やはりと言うべきか、敵にも攻撃衛星があったのか」

そう呟いた瞬間のことだった。視界がホワイトアウトした。

熱線、それもかなりの高出力だな。しかし、黒沢明人にとっては驚異では無いのだろう、まるで他人事のように冷静だった。

黒沢明人の周囲がレーザー照射から0.1秒後に5000度に達した。地面がぐつぐつと煮えたぎる。

装甲服はもとより戦艦並みの耐圧耐熱構造をもっている黒沢明人の体をもってしても、髪は一瞬で燃え尽き、皮膚も溶け始め、肩の強化骨格の一部が露呈した。

しかし、直後、光のシャワーはベクトルを変え、敵陣営へ向けて放たれた。

重力場を作り空間をねじ曲げ、レーザーの軌道を無理やり曲げたのだ。

そして黒沢明人は敵司令官の位置を把握していた。つい先ほど無線内容からスキャンしていたのだ。

グラーテン・ウイック大佐は声を発する間も無く指令車ごと溶解した。

黒沢明人は、その場で立ったまま撤退する敵を見ていた。俺を殺すにはバトルシップが必要だろう。

実のところ黒沢明人は、敵の攻撃衛星の存在をしっていたうえに自身の2038の中型衛星を待機させていた。敵司令官を索敵したのは2038の衛星である。この衛星は、今のところ人類には破壊不可能であり発見することも不可能である。更に強力過ぎるレーザーをも搭載していた。

あらゆる意味で敵が彼を倒す方法などなかったのだ。

溶けかかった皮膚は、早くも再生を始めている。ノーメンテナンスと呼ばれる技術だ。あらゆる物を元の状態に戻す。これも明人に与えられた能力だが、これはもはや高価だが能力の差はあれ一般的な技術である。もっとも今回の場合、普通なら蒸発しているところなのだが…。

黒澤明人は、生命維持装置を回収すると、装備し回線を開いた。

「こちらフォックストロット1、黒沢明人。敵は退却を始めた模様。改修位置は…だ。回収を求む」

「こちら、エリーズ空軍基地、了解しました」

潜入、襲撃を得意とする特殊強襲部隊の活動が活発化している。そしてそれは良い結果を残している。しかし今回の場合はA1が入っていた為最悪の事態を免れたのだが、敵が特殊強襲部隊をターゲットに置いていた可能性のある事態も増えている。

それにしても一作目であるA1の能力の高さ。正しく化物である。A1でテストを行ないうまく行けばA2以降の量産型を開発することが地球政府の最終目標だが、技術者にとってはそんなことはどうでも良く、A1の能力アップが最重要課題だった。惜しみなく最先端技術が詰め込まれていく。というより技術者に玩具を与えたようなものである、という方が正しいか。彼らは遊び感覚で最強の兵器(兵士)を作り出したのである。実際のところ2038の遺産を自由に操れる者が余りにも少ない為、A2の開発には消極的でありA1に固執する理由もあった。

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