第十八話 自治都市ウェルデンへその3
前回書き忘れがあって後で気づいてすぐに直したのだけど、タイミングの悪い人が結構いたようで、申し訳無いです。
「協力無用!俺一人で片付ける」
そう宣言し、黒沢明人は一人ブレードを肩にかけたてたまま、巨魔に近づいていった。
「こりゃ、真っ当な奴では対応できないと言いたいのでやすね」
ブロン・バーリエンスは呟いた。
「それって相手が強いってこと?」
馬車の中からリーナが訪ねて来た。本来なら逃げるところだが、あのデカさの一歩の距離は長い。案外機敏な可能性も否定できない。馬車での撤退は、非常に危険だと思われた。
「恐らくあっしらでは無理でやす」
「竜神人のブロンでも?」
「まあ、そういうことでやすな。大体あの大きさ、どう戦ったら良いのか想像もつきやせん。」
フェイは、その会話を馬車の上で聞いていた。
協力無用とは言ってたけど、イザとなったら目を潰すくらは手出しできる。
いざとなったら助太刀する覚悟で見守ることにした。
黒沢明人は、巨魔の5m手前で止まった。巨魔も黒沢明人に気づいて動きを止める。
4つの目が黒沢明人を直視する。
その一瞬後、黒沢明人のいた場所を風を切る轟音をたてて棍棒が通り過ぎた。速い!
黒沢明人は、それを上体を反らして躱した。
巨魔は、次の行動を起こそうとしてふと立ち止まった。棍棒の先ッポが森の方に飛んで行ったのだ。黒沢明人は回避と同時にブレードを振るっていたのだ。
役に立たないと判断したのだろう、巨魔は黒沢明人めがけて先の無くなった棍棒を投擲した。
黒沢明人は、それを平然と蹴り返した。元棍棒は巨魔の頭に当たって、勢いを持ったまま森の中へと飛んでい行った。巨魔の頭から赤い血がどくどくと流れ始めた。
黒沢明人は動きを止めなかった、棍棒を蹴り返した後、今度は素早く腹の下に潜り込み、右足に向けてブレードを一閃した、が勘だろうか頭脳だろうか、巨魔は後方に素早くジャンプしてそれを躱した。想像以上に敏捷だ。
しかし、黒沢明人の追撃は止まらない。巨魔が後方にジャンプした分、黒沢明人は巨魔に対して俊足で間合いを詰めていた。黒沢明人のラプラス・カリキュレーターが残像を見せる。ブレード真上に突出した。
ドンと音がし、黒沢明人の足が地面にめり込んだ。だが、巨魔の両手を組んだ叩き下ろした渾身の一撃は、黒沢明人を潰すことができなかった。その上、手の甲からブレードの先が突出している。その先端が一瞬で縦に振り落とされた、その瞬間、巨魔の指が飛び散った。
巨魔がぐおぉぉぉぉぉ、という叫びを漏らしながら腕をふる。大量の血が飛び散った。
黒沢明人は、駿足で巨魔の足元から出ると、今度はブレードを構え、巨魔の顔目掛けてジャンプした。
がこれは油断だった。無意識に巨魔を見くびっていたのだ。
巨魔は、血を飛び散らせながら顔目掛けて飛んでくる黒沢明人を剛腕で叩き落とした。
黒沢明人は地面に叩きつけられグフっと息を吐いた。
こんな一撃を喰らったのは人生で初めてだった。視界がブラックアウトしている。
どうする。黒沢明人は悩みながら立ち上がり、ブレードを巨魔がいるであろう方向に向けて構えた。
巨魔は、痛みに堪えて顔をしかめている。黒沢明人も結構な痛手を被ったハズだ。だが、油断できない。巨魔は、珍しく悩んだ。それが仇となった。黒沢明人が視界を取り戻したのだ。
黒沢明人は感嘆した。これほどの強さがあるとは…。
「巨魔よ、お前は強い。だがこれで終わりにしよう。余興はここまでだ」
相手が理解しているかどうかなんて考えていない。自分の取るべき行動を肯定したのだ。
黒沢明人は、ポケットからタングステンで作られた小さな槍のような物ををブレードの刃の裏にある溝に乗せ、一気に大量の電流を流し込んだ。電磁誘導によって押し出されたタングステンの矢は、一気に加速し音速を超え、巨魔目掛けて飛んでいった。空気との摩擦で発熱し、黄色い残像を残しながら巨魔の胸に吸い込まれた。バシャ、という音と共に巨魔の背が弾け飛んだ。
巨魔はゆっくりと前に倒れ込み、遂に動かぬ物になった。
黒沢明人は、服を叩き埃をはらって馬車に戻った。
「お疲れ様でやす、旦那」とブロンが迎えてくれた。
「「おかえりなさい」」と元気にハモッタのは、リーナとディート。
「アキト様、マッサージして差し上げますわ」とフェイ。もっともそんな時間は無いのだが…。
「いやはや、アキト様の強さは、人外にも程がありますなぁ」とセリヨン・ハーネスト。
それぞれが黒沢明人を気遣い、感謝した。
「まあ、なんだ。多少強かったな。ここのバケモンはあんな奴がごろごろいるのか?」
黒沢明人は、珍しく少し照れたように質問した。これは本来の姿かも知れない。
フェイは、首を傾げ。
代わってセリヨンが答えた。
「私は経験ありませんなぁ。正直驚いています。これは今後のことを考えないといけませんなぁ」
「あんなのがうようよしているのかなぁ?」リーナの何気ない言葉に黒沢明人を除いて、皆目を見開いた。
「そういえば、蠍、食べてましたよね」とフェイ。
「なるほど、アレが繁殖している可能性があるわけか…」
黒沢明人は、正直あまりあのクラスに出られると、支障が出ると考えていた。
「森を出るまで後3時間位かと、急ぎましょうか?」
「そうだな、無理にでも吹っ切ろう」
黒沢明人は、あまり自分のスペックを外部者に知られたくなかったので、とにかく一刻も早く森をを抜けたかった。
だが残り2時間というところで新たな魔獣に襲われた。
3つの目を持つ狼だ。それもかなりの数である。
幸い一頭一頭はそれほど強くなくただ数が異常に多い。黒沢明人は自分のブレードを使い、ブロンは戦斧を振るった。
二人は淡々と襲ってくる狼を殺した。
だが余りにも数が多い、フェイは自分の判断でブロンが殺しきれなかった狼に淡々と矢を放った。その腕は100発100中で全ての狼が額の目を打ち抜かれた。
黒沢明人が殺しきれなかった狼は、護衛兵が処理した。彼らはようやく十分な活躍をすることができ気分が高揚していた。
戦闘は1時間に及んだ。
黒沢明人とフェイ以外のブロンでさえ疲れを表情に出していた。
狼の群をなんとか撃退した一行は、休む間もなく馬車を走らせた。
幸いその後、魔獣が現れることは無かった。
そして橋が見え、フェイが言った。
「あの橋を超えると最後の森ティル・グラープスよ!」
ブロンがふぅと息を吐いた。
「流石に今日は疲れやしたぜ」