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Happy Wedding -誓いと願い-

 青埼十字孤児院の隣、あの日、言羽さんの生まれた場所で私達は結婚式をあげる事になった。

「式には絶対呼んでね」と言っていた舞子さんは世界を飛び回っている。

 結婚を私の両親に承諾してもらうために、言羽さんは頭を下げに行ったが二つ返事でオッケーだった……。まぁ、もはや、全国的に有名な作家さんなので気持ちが分からなくも無いけれど……なんだか納得いかなかった。

 そして今。私は真白なウエディングドレスに身を包んでいる。

 青埼十字孤児院の一室を準備室としてお借りしている。

 なんだかすごく緊張してきた。

 はぁ……と一つ溜息。なんだかこういう堅苦しいのは似合わない気がする。

「慧さーん、そろそろ時間ですよー」

 守ちゃんの声だ。色々お手伝いをしてくれている。

「わ、慧さん……すごく綺麗」

 守ちゃんはまさしく絶句している。

「何か、恥ずかしいよ」

 私は照れ笑い。

「もう、せっかくの機会なんですから、そんな事言わないで喜びましょうよ」

「あはは、そうなんだけど、何だか私らしくないと言うか……」

「あの舞台に立った時の、美羽お姉ちゃんも同じ気持ちだったんじゃないですかね?」

 守ちゃんが言う。あの舞台の時の真黒な美羽お姉ちゃん……

「そっか……。そうかもね」

「守ちゃん。ありがとう」

 私は、守ちゃんと共に孤児院から教会へ向かう。

 教会の前、入り口の所でお父さんが待っていた。

 私達は身内で些細な結婚式を選んだ。私は、式は無くても良いと思っていたのだが言羽さんがやっておこうと言うのでやる事にした。

「お父さん、右足からね」

 お父さんと軽く腕を組み打ち合わせをする。

 守ちゃんが扉を開け、中と確認を取る。ブーケを胸元に持ちゆっくり歩き出す。

 入り口でお父さんがお辞儀。それに続いて私もお辞儀をする。

 ゆっくり顔を上げる。そこには孤児院の子供達と美羽さんと関わった人達。美羽さんの両親までお祝いに来てくれた。

 ゆっくり、一人、一人の顔を見てゆく。

 足、震えている。緊張で手の平が汗ばんでいる。

 一番愛おしい人はまだ先、一段上から私を見守っている。

 ベール越しに見る教会の景色はあの時と違い、賑やかで華やかだった。

 でも、神様なんて信じていない私がこんな所に居て良いのだろうか?

 少しずつ、言羽さんが近付いて来る。白のタキシードに身を包んだ言羽さんはいつもと雰囲気が違って、格好良かった。

 お父さんが、私を言羽さんに託す。でも、これもなんだか違う気がする。

「綺麗だ……」

 言羽さんが耳元で囁く。それは、ものすごく嬉しかった。

 少しの拍手が鳴った後、神父さんがゆっくり口を開く。

「賛美歌斉唱」

「へ?」

 私はそんなのがある事を聞いていなかったのでびっくりしてしまう。

 教会の別の扉から優さんがアコースティックギターを抱えて、出て来た。

 アルペジオの穏やかな旋律が荘厳な教会に響く。

 長椅子に座っていた全員が立ち上がり優さんと共に歌う。

 下手っぴな子供達の声。川崎先生の美声、恥ずかしそうなお父さんの声、無難に歌うカオルさん、一所懸命な守ちゃん、渋く低い声の加山さん、優しく見守る様に歌うお母さん……

 沢山の歌声が集まって、ぐちゃぐちゃな歌が響く。ハーモニーとはとても呼べないけれど、私にはこれくらいが丁度良い気がした。

 やばい。もう目頭が熱くなっている。

 最後は手拍子の後、優さんの綺麗な歌声で終わる。

「それでは誓いの言葉の前に、一言お二人にお伝えします」

 神父さんの声が教会に響く。

「教会結婚という形を模して居ますが。あなた達は、神様に誓うより、認めて欲しい相手が居ますね?」

 突然の神父さんの問いかけ、確かに居るけれど良いのだろうか?

 頼りなく言羽さんを見上げる。彼は真直ぐ、迷わず声にした。

「はい」

 そっか、それで良いんだ。私も後に続く。

「はい」

 神父さんがそっと頷く。

「それでは汝、言羽は、この女、慧を妻とし、九月 美羽と死神の名の元にその健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

 結婚式の会場で美羽おねえちゃんと死神さんの名前を聞くなんて……。これは誓わないわけにはいかないや。

「誓います」

「誓います」

 私達は二人、誓い合う。

「二人に四葉の加護がありますように」

 神父さんは聖書の代わりに『白詰草』を持っていた。

 それに手を置いて祈る。

「それでは指輪を交換してください」

 神父さんがそれぞれに指輪を手渡してくれる。二人共、安っぽい四葉のクローバーのシルバーリング。

 言羽さんが私の左手をそっと取り指輪をはめてくれる。

 私も同じ様に言羽さんに指輪をはめる。

 美羽お姉ちゃんは、死神さんにプレゼントした首輪を願いのリングだと言ったそうだ。

 きっとこれも同じ。二人の願いのこもったリング。

「それでは誓いのキスを」

 いよいよだ……人前でキスなんてすごく恥ずかしい。

 言羽さんと向き合い少しかがむ。

 ゆっくりとベールがあがり、視界が鮮明になる。私はそっと目を瞑る。

 唇に暖かい感触が触れた。このキスに願いを込める。この人を支えられる人になりたいと。

 美羽お姉ちゃんと同じになれなくても、私にも出来る事をして行きたいと。

 そうして私達の結婚式は幕を閉じた。余談だがブーケを受け取ったのはカオルさんでも玲さんでも無く守ちゃんだった。あの二人はまだ当分結婚は、出来なさそうだ。

 

「ふぅ、やっぱりこっちの方が落ち着くなぁ」

 結婚式も無事に終わり、今は孤児院の方で子供達と遊んでいる。

「慧ねーちゃん綺麗だったよー!」

「私もお嫁さんになりたいなー」

 とか、子供達にまで、からかわれてしまったけれど。

「あ、慧さん! 居ないと思ったら何やっているんですかー!」

 守ちゃんが大きな声で呼んでいる。

「何って、子供達と遊んでいるんだよ?」

「もう! 主役なんだからゆっくりしていてくださいよ」

「そういうのはちょっとガラじゃ無いと言うか落ち着かないんだもん」

「もう……結婚式の日くらいもうちょっと女の子らしくしても良いと思うんだけどなぁ」

「あははは」

 苦笑い。

「あ、そうだ! 守ちゃん! あれ貸して」

 私は思いつきで話題を逸らす。

「あれ?」

「そう、アレ! 美羽お姉ちゃんの紙芝居!」

「もう、仕方ないですね」

 そう言って孤児院の方に戻っていった。

「みんなー、今日は私が『迷子のミウ』読んであげるね!」

 子供達に宣言する。美羽お姉ちゃんの様に……だけど美羽お姉ちゃんとは違う。

「はい、慧さん」

 戻って来た守ちゃんから紙芝居を受け取る。懐かしい様な、新しい様な、不思議な感じ。

「さ、始めるよー!」

 全部、頭の中に入っているけれど……美羽お姉ちゃんの手書きの文字が愛おしい。

「これは不思議な世界で迷子になった女の子のお話。それはそう、不思議の国のアリスの様に」

 私は一枚ページを捲る。自分の物語を進めるように。

 子供達の前で紙芝居を読み上げた後。

 言羽さんの約束だった『みんなでご飯』を実現した。大量の天ぷらは圧巻だったけれど、加山さんの揚げる天ぷらはやっぱり極上だった。


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