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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第9話 紳士的に沈めると言われた件


 「キラキラの囮屋」

 俺たちのチームについたあだ名だ。クッソダサい—―

 誰が言い始めたのか知らないが、レグルスの運送ギルド内で妙に広まっていた。囮依頼をS評価でこなし、赤牙の巡洋艦を沈めた話が尾ひれをつけて伝わったらしい。

 「あのキラキラした艦が囮をやると、宙賊が全部そっちに行く」

 「護衛の黒い艦が化け物みたいに強い」

 「もう1隻の地味なやつが何かヤバい電子戦をやるらしい」

 概ね正確だが、「キラキラの囮屋」という呼び名は気に入らない。俺はキラキラしたくてキラキラしてるわけじゃなし、くそだせぇだろ!

「いいじゃない。分かりやすくて」

 リーネはどうでもよさそうだった。

「俺は嫌だ。『地味なやつ』って呼ばれてるほうだろ、お前」

「地味なのは事実よ。ヘルメティカは目立つ必要がないの」

「俺の船は『黒い艦』だろ。悪くないな」

 ガルドは満足げだった。こいつは単純ばかだから助かる。

* * *

 そんな折、エルデン通商連合から新たな依頼が入った。


【特殊依頼 Bランク】

 依頼主:エルデン通商連合

 内容:VIP旅客輸送+囮航行の複合依頼

 詳細:通商連合の重要商人1名をカリスト・コロニーまで輸送。

    同時に、別ルートの貨物船団の安全通過を支援する囮航行を実施。

 条件:VIPの安全を最優先とすること

 報酬:8000クレド


 8000クレド。

 もう肉串で数えるのはやめた。やめたが、計算はした。4000本だ。やめてない。

 旅客輸送と囮のセット。メーディアの2大得意分野が合体した依頼だ。断る理由がない。

* * *

 VIPの商人は、ルッツという中年の男だった。

 恰幅がよく、笑い声が大きく、やたらとテンションが高い。金持ち特有の人当たりの良さというか、世界中の全員と友達になれると思っているタイプだ。

 メーディアに乗艦した瞬間、目を輝かせた。

「おお! これは! 素晴らしい!」

 赤絨毯を踏みしめ、シャンデリアを見上げ、ステンドグラスに感嘆し、玉座を見つけて歓声を上げた。

「こんな船は見たことがない! いや、船じゃない。動く美術館だ!」

 宮殿と言ってほしかったが、美術館も悪くない。

「写真を撮ってもいいかね!」

「どうぞ」

 ルッツが端末を取り出して、艦橋の装飾を片っ端から撮影し始めた。シャンデリア、玉座、ステンドグラス。角度を変えて何枚も。

 そして、整備ロボを見つけた。

「おお、これは! 可愛らしいな! ちょっと君、こっちを向いてくれ」

 ロボにカメラを向けるルッツ。

 ロボは完全に無視して廊下の絨毯のシワを直していた。

「こっちだ、こっち。ほら、カメラだよ」

 無視。

「ポーズを取ってくれないかね? アームを上げるとか」

 無視。絨毯のシワが直ると、キュルキュルと去っていった。

「……愛想のないロボだな」

「喋らないし、愛想もないです。仕事だけは完璧ですが」

「仕事人か! それもまたいい!」

 ルッツはやたらとポジティブだった。ポジティブなの馬鹿なのか…まぁ、嫌いじゃない。

* * *

 3艦編隊で出航。メーディアにVIPを乗せ、ガルドとリーネが随伴する。

 航路はカリスト・コロニーまで約7時間。前回の食材輸送と同じルートだが、今回は囮を兼ねている。メーディアがキラキラ光りながら航行することで、赤牙の目をこちらに引きつけ、別ルートの貨物船団を通す。

 航行3時間。ルッツはメーディアの食堂でロボの淹れた紅茶を飲みながらご機嫌だった。

「いい船旅だ。紅茶の味が少し薄いが、雰囲気でカバーできる」

 茶葉のランクを上げたばかりなのだが、VIPの舌には足りなかったらしい。


 その時、リーネから通信が入った。

 声のトーンが、いつもと違った。

「ケイト。問題が起きたわ」

「赤牙か」

「赤牙じゃない。別の反応。単艦。だけど――」

 リーネが言葉を切った。珍しい。この女が言い淀むのは初めて見た。

「通信を傍受した。暗号化が赤牙とは別のプロトコル。軍用に近い。復号に時間がかかったけど、内容が分かった」

「何て書いてある」

「『白い艦を確認。契約を履行する』」

 契約。

 赤牙の通信なら「攻撃」「略奪」という言葉が出る。「契約」という言葉を使うのは、別の種類の人間だ。

「傭兵か」

「そう。赤牙に雇われた傭兵だと思う。私たちを潰すために」

* * *

 モニターに映った艦影は、今まで見たどの艦とも違った。

 全長120メートル前後。メーディアよりひと回り大きい。流線型だが、鋭角的なシルエット。灰青色の装甲にオレンジのラインが走っている。

 武装が多い。砲塔が6基見える。ミサイルポッドもある。センサー類も充実している。速そうで、硬そうで、強そうだ。

 何より、動きが違う。

 接近の仕方に無駄がない。こちらの進路を読んで、最適な角度から近づいてきている。宙賊の雑な突撃とは格が違う。

「リーネ、あの艦の情報は」

「データベースに一致あり。傭兵艦『グラオザーム』。艦長ヴェルナー。この宙域では名の知れた賞金稼ぎよ。戦闘実績多数。撃沈記録も多数」

「強いのか」

「強いわ。ガルドのヴァナルガンドと正面からやりあえるクラス」

 ガルドの通信が入った。

「聞こえてる。面白え」

「面白がるな。VIPが乗ってるんだ」


 通信パネルが点滅した。グラオザームからだ。

 開く。

「初めまして。傭兵艦グラオザームのヴェルナーと申します」

 丁寧な声だった。低く、落ち着いていて、知性を感じさせる。宙賊の粗暴さとは正反対だ。

「お仕事の最中に割り込んで申し訳ない。ですが、あなたの艦を沈めるのが今日の私の仕事でしてね」

 丁寧に殺害予告をされた。

「……仕事なら仕方ないんだろうが、1つ聞いていいか」

「どうぞ」

「交渉の余地は」

「残念ながら。契約は契約ですので。ただ、乗客には危害を加えません。あなた方の艦を行動不能にした後、乗客は脱出ポッドで回収されるよう手配します」

「紳士的だな」

「仕事ですから」

 通信を切った。

「ガルド、リーネ」

「聞こえてる」

「聞こえてるわ」

「VIPの安全が最優先だ。戦闘は――避ける」

 ガルドが不満そうな音を出した。

「逃げるのか?」

「あの艦とヴァナルガンドが正面からやりあえるって、リーネが言っただろ。やりあえる程度ってことは、勝てる保証がないってことだ。VIPを乗せた状態でその賭けはできない」

「……分かった」

 ガルドが引いた。この男がすんなり引くのは珍しい。VIPの安全を優先するという判断に、一応の理解を示してくれたのだろう。

「だが、単純に逃げても追いつかれるわ。あの艦、足が速い。メーディアの最高速度と同等か、それ以上」

 リーネの分析。逃げるだけでは駄目だ。

 頭を回す。ゲーム知識を総動員する。

 この宙域の地形。ナビゲーションマップを頭の中に広げる。ゲーム時代、このあたりは何度も飛んだ。何かなかったか。何か――

「……あった」

* * *

「方位310に、廃棄ステーションの残骸がある。ここから20分」

「残骸?」

「ゲーム……いや、聞いた話だ。かつての採掘ステーションが事故で放棄されて、今はデブリの塊になってる。構造体の残骸が入り組んでいて、大型艦は入れない」

 リーネが即座にデータベースを引いた。

「……あるわ。旧マグナ採掘ステーション。約15年前に閉鎖。現在は航行危険宙域に指定。確かに残骸が大量に漂っている」

「そこに逃げ込む。メーディアは小型だから残骸の隙間を縫える。グラオザームはメーディアより大きい。入ってくるなら機動力が落ちる」

「前に小惑星帯で逃げた時と同じ作戦か」

 ガルドが言った。あの話、したんだったか。覚えてたらしい。

「似てるが、今回は仲間がいる。ガルド、殿を頼めるか」

「殿は得意だ。足止めすればいいんだな」

「沈めなくていい。時間を稼いでくれ。リーネ、残骸宙域の詳細データを出してくれ。入れるルートを探す」

「もうやってるわ」

 速い。この女は速い。


 針路変更。全速。

 メーディアがプリンセス・オーラを全開にして、残骸宙域に向かって駆ける。後方でグラオザームが追ってくる。

 その間に、ヴァナルガンドが反転。追手に向かって主砲を放った。

 バフ込みの火力。だが、グラオザームは赤牙の哨戒艦とは違う。

 ヴェルナーが冷静に回避した。砲弾が灰青色の装甲をかすめる。直撃ではない。

「……やるな」

 ガルドの声に、初めて感心の色が混じっていた。

 グラオザームが反撃。ガルドのシールドに着弾。火花が散る。

「ガルド!」

「問題ねえ。だが、こいつは確かに強い。長くは持たせられんぞ」

「10分でいい。10分だけ稼いでくれ」

「了解」

* * *

 残骸宙域が見えた。

 宇宙空間に浮かぶ、巨大な鉄の墓場。かつてステーションだったものが、バラバラに分解されて漂っている。居住ブロック、採掘アーム、ソーラーパネルの骨格、配管の束。数え切れない残骸が、ゆっくりと回転しながら闇の中に佇んでいる。

 小惑星帯より厄介だ。自然の岩と違って、残骸は形が不規則で、突起や尖った部分が多い。引っかかれば船体が裂ける。

「ケイト、進入ルート見つけた。方位315、仰角マイナス8。居住ブロックの残骸の間に幅40メートルの通路がある。メーディアならギリギリ通れる」

「幅40でギリギリって……メーディアの全幅は?」

「フィン込みで32メートル」

「8メートルしか余裕がないのか」

「文句を言う暇があったら操縦桿を握りなさい」

 正論だった。


 突入。

 居住ブロックの残骸が両側に迫る。壁面にはまだ窓枠が残っていて、暗い穴がこちらを見つめている。不気味だ。

 メーディアの純白の船体が、残骸の隙間を滑るように進む。プリンセス・オーラの金色の光が、錆びた鉄骨を照らし出す。

 廃墟にキラキラの宮殿が侵入していく絵面は、シュールを通り越して不気味ですらある。

「右に配管の束。下を通る」

「了解」

 リーネの指示に従って操縦する。上、下、左、右。残骸の隙間を縫っていく。小惑星帯の時と同じだが、障害物の密度が段違いだ。

 背後を確認。グラオザームが残骸宙域に入ってきた。

 だが、案の定、速度が落ちている。メーディアより大きい艦体が、残骸の隙間をくぐるのに苦労している。ヴェルナーの腕は確かだが、物理的なサイズ差は技術では埋められない。

「距離が開いてる。いいぞ……」

* * *

「ケイト。面白いものを見つけた」

 リーネの声。いつもの冷静さに、わずかな興奮が混じっている。リーネが興奮するのは珍しい。データに関わる時だけだ。

「何だ」

「この廃棄ステーション、防衛システムの一部がまだ生きてる」

「は?」

「電力供給が完全に途絶えてない。非常用のリアクターが低出力で稼働し続けてる。で、そこに接続されてる対デブリ用の防衛砲台がいくつか残ってるの」

「防衛砲台って……撃てるのか」

「そのままじゃ無理。でも、私が外部からシステムにアクセスできれば、起動させられるかもしれない」

 ハッキング。軍用グレードの通信機器を持ち歩く女の本領だ。

「やれるか」

「やるわ。メーディアのセンサーを使わせて。ステーションの残骸のネットワークに接続する」

「好きにしろ」

 リーネが端末を叩く音が通信越しに聞こえた。指が早い。

 30秒。

「……侵入完了。防衛システムのコントロールを掌握。砲台は6基生存、うち射角的にグラオザームを捉えられるのが3基」

「威力は」

「対デブリ用だから、大したことない。直撃しても装甲艦の相手には……あ」

「あ?」

「メーディアの主砲と同程度ね」

「……豆鉄砲が3つ増えるのか」

「効きはしないけど、進路を妨害することはできる。前方から撃たれたら、避けるか止まるかしかない」

「十分だ。やれ」


 リーネが防衛砲台を起動させた。

 残骸の中に隠れていた3基の砲台が、15年ぶりに目を覚ます。錆びた旋回軸がぎこちなく動き、砲身がグラオザームの方向を向いた。

 発射。

 弱々しいビームが3条、グラオザームの進路を塞ぐように飛んだ。

 威力はメーディアの豆鉄砲並みだ。当たっても傷はつかない。だが、グラオザームの進路上に3方向からビームが飛んでくる。

 ヴェルナーは回避した。当然だ。どんなに弱くても、未知の攻撃に突っ込む傭兵はいない。ビームの発射源を確認し、脅威度を判定するまで前進はできない。

 その間に、メーディアはさらに奥へ。距離が開く。

* * *

 通信が入った。グラオザームから。

「……なるほど。廃棄ステーションの防衛システムを利用しましたか。考えましたね」

 ヴェルナーの声に、怒りはなかった。むしろ感心している。

「これ以上の追跡は効率が悪い。今日のところは撤退します」

「助かる」

「ただし」

 声のトーンが変わった。温度が下がった。

「覚えておいてください。契約は継続中です。赤牙はあなた方の排除を望んでいる。今日逃げられても、次がある」

「…………」

「それと、1つ。あなたの操縦は見事でした。あの艦であの機動は、並の腕じゃない。次にお会いする時が楽しみです」

 通信が切れた。

 モニターの中で、グラオザームが残骸宙域から離脱していく。灰青色の艦体がゆっくりと旋回し、来た方向へ戻っていった。

 不敵だった。

 敗北を認めた上で、次を宣言して去っていく。プロの傭兵だ。仕事を失敗しても、感情的にはならない。次の機会を待つだけ。

「ガルド、無事か」

「無事だ。シールドは半分削られたがな。あの野郎、腕はいい」

「リーネ」

「こっちも無事。……ケイト、あの傭兵、また来るわよ」

「分かってる」

* * *

 カリスト・コロニーに到着。VIPのルッツを無事に送り届けた。

 ルッツは終始ご機嫌だった。残骸宙域を駆け抜ける間も「なんと刺激的な船旅だ!」と楽しんでいた。VIPとしての肝が据わっているのか、単に楽天的なのかは分からない。

「ケイトくん、次もぜひ君の船で頼むよ。こんなに面白い旅は初めてだ」

「面白さは保証しますが、命は保証しかねますよ」

「ハハハ! それがいいんじゃないか!」

 金持ちの感覚はよく分からない。


【運送ギルド レグルス支部 依頼完了通知】

 対象:ケイト/プリンセス・メーディア(編隊代表)

 依頼内容:VIP旅客輸送+囮航行

 輸送評価:A(VIP安全・囮任務達成・本命船団通過確認)

 特記事項:航行中に傭兵艦の攻撃を受けるも回避に成功。VIPへの被害なし

 報酬:8000クレド


 8000クレド。チーム過去最高をまた更新した。

 だが、今回は素直に喜べなかった。

* * *

 メーディアの食堂。3人でいつものテーブルを囲んでいる。

 整備ロボのセッティングは完璧だ。白いクロス、銀の食器、一輪挿し。蝋燭はもう出てこない。学習済みだ。

 だが、空気が重かった。

「赤牙が傭兵を雇ってきた、ということは」

 リーネが紅茶のカップを両手で包みながら言った。

「私たちのことを、本気で排除しにきてるのよ。囮依頼で赤牙の稼ぎを邪魔してるんだから、当然と言えば当然だけど」

「ヴェルナーは強かった。正直、正面からやって勝てる相手じゃない」

 ガルドが珍しく認めた。正面からの戦闘力で相手を認めるのは、ガルドにとっては最大級の評価だ。

「今日は逃げられた。だが、次はどうなるか分からない。リーネの言う通り、また来る」

 俺は紅茶を飲んだ。前より美味い茶葉。だが、今は味がよく分からなかった。

「……俺たちは強くなってない」

 呟いた。

「稼ぎは増えた。評判も上がった。でも、チームの戦力そのものは大して変わっていない。ガルドが強い。リーネが賢い。俺が逃げる。それだけだ」

「それだけで今日まで生き延びてきたんだろ」

「今日まではな。赤牙が本気を出してきたら、逃げるだけじゃ足りなくなる」

 テーブルの上の紅茶が、シャンデリアの光を反射している。

 優雅な生活を目指すと言った。宮殿にふさわしい暮らしをすると言った。

 だが、宮殿に住むなら、宮殿を守る力が要る。

「考えよう。3人で」

 ガルドとリーネが頷いた。

 答えはまだない。だが、1人で悩まなくていい。それだけで、紅茶が少し美味くなった気がした。


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