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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第8話 囮、始めました


紅茶の茶葉を変えた。

 レグルスの市場で一番安いやつから、2番目に安いやつに。ランクアップだ。

 メーディアの食堂で3人分の紅茶を淹れる。ロボに任せてもいいが、最近は自分で淹れるようにしている。ロボが淹れると温度と分量は完璧だが、味気ない。人間が淹れたほうが、なぜか美味い。たぶん気のせいだが、気のせいでいい。

 ガルドがカップを受け取り、一口飲んだ。

「……変えたか?」

「茶葉。ちょっといいやつにした」

「分かるもんだな」

「分かるだろ。お前が分かることに驚いてるよ」

「うるせえ」

 リーネがカップに口をつけた。しばし沈黙。

「……前より美味しいわね」

 2回目の「美味しい」だ。1回目はカリスト・コロニーの食材を使った時。今回は茶葉だけの変更で「美味しい」を引き出した。成長だ。

「肉のランクも上げろ」

 ガルドが言った。

「収入が安定したら考える」

「安定してるだろ。カリストのリピートが月3件入ってる」

 確かに。カリスト・コロニーからの定期依頼がつくようになって、チームの収入は安定してきた。高級食材輸送とVIP旅客を中心に、月の稼ぎは1万クレド前後。3人で割っても、1人3000クレド以上。

 肉串1500本分。

 まだ肉串で数えている自分に気づいて、そろそろやめようと思った。思っただけで、やめない。

* * *

 その日、運送ギルドの掲示板にいつもと毛色の違う依頼が出た。


【特殊依頼 Bランク推奨】

 依頼主:エルデン通商連合

 内容:囮輸送

 詳細:ダミーの高級貨物コンテナを積載し、指定ルートを目立つ形で航行。

    宙賊勢力の注意を引きつけ、本命の輸送船団の安全な通過を支援する。

 条件:視認性の高い艦であること。回避能力に自信があること。

    護衛戦力を自前で確保できること。

 想定リスク:赤牙との接触がほぼ確実

 報酬:5000クレド


 5000クレド。

 肉串2500本分。

 やめろ。肉串で数えるな。

 だが、金額以上に目を引いたのは、依頼の条件だ。

 「視認性の高い艦」。「目立つ形で航行」。「宙賊の注意を引きつける」。

 ――これ、こいつのための依頼じゃないか。

 プリンセス・メーディア。視認性300パーセント。宇宙空間をキラキラ光りながら航行する純白の宮殿。今まで散々足を引っ張ってきたあのスキルが、ここに来て最大の武器になる。

 囮。

 ゲーム時代、メーディアの唯一にして最大の実用的な使い道だった。敵のヘイトを集めて味方に火力を出させる。あの頃は「仕方なく囮をやっていた」が、今は違う。

 金がもらえる囮だ。

「いいな、これ」

 呟いた。隣でガルドが掲示板を覗き込んでいる。

「赤牙との接触がほぼ確実、って書いてあるぞ」

「見える。見えてるが」

「面白え。やろう」

 即答だった。ガルドは戦闘の匂いがすると目が変わる。さっきまで紅茶を上品に飲んでいた男と同一人物とは思えない。

 リーネに通信を入れた。ヘルメティカで航路データの分析中だったらしい。

「囮輸送の依頼。5000クレド。赤牙との接触ほぼ確実。どう思う」

 3秒の沈黙。

「リスクは計算できるわ。赤牙の哨戒パターンは過去のデータから予測可能。迎撃態勢を組めば、やれる」

「つまり」

「やれるわ」

 全員一致。

 ギルドの窓口で依頼を受諾した。職員がメーディアの視認性データを見て、珍しく笑顔を浮かべた。

「視認性300パーセント……。囮にはうってつけですね」

「初めて褒められた気がする。このスキル」

* * *

 メーディアの食堂で作戦会議。

 テーブルの上にリーネが航路マップを投影した。端末から出るホログラフィック表示だ。軍用グレードの機器はこういう時に便利だ。

「指定ルートはここ。レグルスからヴェルド星系を経由してカリスト方面に向かう主要航路よ。赤牙が頻繁に張っている宙域を、わざと通過する」

「わざと、ね」

「あなたの得意分野でしょう。目立つのは」

「得意っていうか、消せないんだが」

「結果は同じよ」

 作戦はこうだ。

 メーディアがプリンセス・オーラ全開で囮ルートを堂々と航行する。ダミーの高級貨物コンテナを積んで、いかにも「金持ちの船が荷物を運んでます」という空気を出す。

「空気っていうか、こいつは存在するだけでそういう空気出てるだろ」

「否定しないわ」

 ガルドのヴァナルガンドは、メーディアのセンサー範囲外ギリギリに待機。赤牙がメーディアに食いついた瞬間、死角から奇襲をかける。

 リーネのヘルメティカは、メーディアの後方に隠れる形で追随。赤牙の通信を傍受・解析し、敵の動きをリアルタイムでチームに共有する。

「メーディアのバフ範囲は50キロ。ガルドが奇襲に入る時、バフが届く位置に俺が移動する」

「つまり、お前は敵に追われながら俺のほうに寄って来るのか」

「そうなる」

「逃げてるんだか寄って来てるんだか分からんな」

「両方だ」

 リーネが眼鏡を押し上げた。

「1つ注意点。囮である以上、メーディアが撃沈されたら作戦失敗よ。生き残ることが最優先」

「分かってる。死ぬ気はない」

「あと、シャンデリアも壊さないでね。修理費が報酬から消えるわ」

「お前もシャンデリアの心配するのか」

「経済的な観点よ」

* * *

 作戦開始。

 メーディアがレグルスを出港し、指定ルートに入った。プリンセス・オーラを最大出力で展開。金色の粒子を盛大に撒き散らしながら、堂々と航行する。

 ダミーの貨物コンテナ5基を積載。中身は空っぽだが、外見は本物の高級貨物と見分けがつかない。

 純白の宮殿が、高級貨物を積んで主要航路をキラキラ光りながら進んでいる。

 宙賊から見たら、これ以上の獲物はない。

「さあ、食いつけ」

 操縦桿を軽く握る。心臓が速い。だが、3話前のあの宙賊との初遭遇の時とは違う。今は仲間がいる。作戦がある。

 そして、ゲーム時代に何100回と繰り返した「囮」の経験がある。


 航行開始から1時間22分。

 リーネの声が入った。

「通信傍受。赤牙の暗号通信をキャッチ。……復号完了。内容は『白い船を確認。高級貨物を積載している模様。接近して確認する』」

「来たか」

「方位070、距離85キロ。接近中。速度から推定して接触まで約8分」

「ガルド、聞こえてるか」

「聞こえてる。待機中。合図で出る」

 8分。8分間、俺は宇宙で一番目立つ囮になる。

「リーネ、敵の数は」

「現時点で2……いえ、待って」

 リーネの声に、わずかな緊張が走った。

「追加の通信あり。復号中……。本隊への増援要請。哨戒艦だけでなく、巡洋艦の派遣を要請してる」

「巡洋艦?」

「メーディアが派手すぎたのよ。高額の獲物だと判断して、確実に仕留めるために戦力を増やしてる」

 褒められてるのか、これ。

「最終的な戦力予測は?」

「哨戒艦4隻、巡洋艦1隻。……想定の1.5倍ね」

「聞いてないんだが!?」

「赤牙があなたの船を過大評価したのよ。光り輝く宮殿が高級貨物を積んで航行してたら、そりゃ本気で来るわ」

「こいつの見た目のせいか!」

「今さらでしょう」

 今さらだった。

* * *

 敵影、視認。

 モニターに映る4つの小さな影と、1つの大きな影。哨戒艦4隻が先行し、後方に巡洋艦が控えている。

 巡洋艦はヴォルフ級だ。転生初日に追いかけてきたのと同型。あの時は1対1で逃げるのが精一杯だった。今は哨戒艦4隻のおまけ付き。

 だが、今は1人じゃない。

「リーネ、哨戒艦の射程に入るまで?」

「2分」

「ガルド、2分後に来い。方位250から。巡洋艦の死角になる」

「了解」

 2分。ゲーム時代なら瞬きの間だが、リアルの2分は長い。


 哨戒艦がビームを撃ってきた。

 4隻同時。ビームの雨が宇宙空間を走る。

 操縦桿を倒す。メーディアが横転。ビームの隙間を縫って回避する。

「1発目は右前方、2発目は修正射で左、3発目は上……」

 ゲーム知識が頭を走る。哨戒艦の射撃パターンは単調だ。ヴォルフ級と違って、生身の人間のランダム性が少ない。練度が低いのだろう。おかげで、ゲームのパターンがそこそこ通用する。

 急上昇。急降下。横スライド。スピンからの急制動。

 1発も当たらない。

 だが、巡洋艦が射程に入ったらそうはいかない。あの主砲は哨戒艦とは桁が違う。

 メーディアの小型レーザー砲を撃ち返す。律儀に。

 哨戒艦の1隻に命中。

 装甲表面がチカッと光った。

 以上。

「……やっぱ効かないなこれ」

 知ってた。知ってたけど撃つ。撃たないよりマシだ。たぶん。気持ちの問題だ。


 1分30秒経過。

 巡洋艦が砲塔を向けてきた。射程に入りつつある。

「リーネ!」

「分かってる。今やるわ」

 リーネの声が鋭くなった。

「赤牙の通信周波数に割り込む。……送信」

 電子戦。ヘルメティカの本領だ。

 リーネが赤牙の通信回線に偽の情報を流し込んだ。内容は「方位180より正体不明の艦隊が接近中。数、不明。退避を推奨」。

 赤牙の暗号形式を模倣した、完璧な偽造通信。

 効果は、即座に出た。

 哨戒艦の動きが乱れた。4隻がバラバラに旋回し始め、射撃が止まった。巡洋艦も砲塔の向きを変え、方位180を警戒し始めている。

「今よ」

 リーネの合図と同時に、メーディアの針路を変える。方位250。ガルドの待機位置に向かって突進する。

 逃げているように見える。実際、逃げている。だが同時に、ガルドのバフ範囲に入りに行っている。

* * *

 バフ範囲、到達。

 プリンセス・オーラが、遠くのヴァナルガンドに届く。

 通信。

「ガルド」

「見えてる」

 方位250。赤牙の艦隊が偽通信に気を取られている、まさにその方向の死角から。

 黒鉄の重装戦艦が、宇宙の闇から躍り出た。


 ヴァナルガンドの全砲門が火を噴いた。

 バフ込みの火力。攻撃力プラス15パーセント。

 前に哨戒艦相手であの火力を目の当たりにした時も驚いたが、今回はさらに上だ。狙いは巡洋艦。1番の脅威を最初に潰す。

 主砲4門の斉射が、ヴォルフ級巡洋艦の側面に直撃した。

 シールドが砕け、装甲が抉れ、内部から爆発の光が漏れる。

 2射目。

 巡洋艦が沈んだ。

 合計6秒。

 前回の哨戒艦2隻が40秒だったことを考えると、バフの効果はやはり異常だ。あるいはガルドの腕が上がっているのか。両方かもしれない。


 旗艦を失った哨戒艦4隻がパニックを起こした。

 偽の増援情報。死角からの奇襲。旗艦の撃沈。3つが同時に起こったのだ。冷静でいられるほうがおかしい。

 1隻、2隻と離脱していく。散り散りに逃げていく。

 残った2隻が踏みとどまろうとしたが、ガルドの3射目で1隻が被弾し、戦意を喪失。最後の1隻も反転離脱。

 戦闘終了。

 メーディアの被弾、ゼロ。ヴァナルガンドの被弾、ゼロ。ヘルメティカの被弾、ゼロ。

 完封だ。

* * *

「囮任務完了。本命の輸送船団は?」

「さっき通過完了の報告があったわ。赤牙の妨害なし。予定通り」

 リーネの報告に、肩の力が抜けた。

 操縦桿から手を離す。手のひらが汗でびっしょりだ。

「ケイト」

 ガルドの声。

「何だ」

「見事な囮だった。お前が引きつけてくれなきゃ、あの数は厄介だった」

「……そりゃどうも」

「あとお前の船、例の豆鉄砲撃ってただろ。光学カメラで見えたぞ」

「悪いか」

「いや。哨戒艦に当たってたのも見えた」

「当たってたけど効いてなかっただろ」

「ああ。全然効いてなかった」

「分かってるなら言うなよ」

 リーネが通信に割り込んだ。

「でも撃ち続けたのは正解よ。赤牙からすれば、射撃してくる艦は脅威度が上がる。たとえダメージがゼロでも、撃ってくるという事実が敵の判断を鈍らせるの。囮としては理想的な行動」

「……そうなのか?」

「ええ。あなたの豆鉄砲は、戦術的には正しい豆鉄砲よ」

「褒められてるのか貶されてるのか分からない」

「褒めてるわ。たぶん」

* * *

 エルデン通商連合から依頼完了の確認通信が入った。


【運送ギルド レグルス支部 特殊依頼完了通知】

 対象:ケイト/プリンセス・メーディア(編隊代表)

 依頼内容:囮輸送(赤牙対策)

 評価:S(囮任務成功・本命船団の安全通過を確認・自艦被害ゼロ)

 特記事項:視認性を活かした効果的な陽動。赤牙巡洋艦の撃沈を確認。

      エルデン通商連合より継続依頼の打診あり

 報酬:5000クレド


 5000クレド。チーム過去最高の報酬。

 3人で分けて、まあ比率は後で相談するとして。

 また1つ、大きな実績がついた。しかもBランク推奨依頼をS評価でクリアだ。ランクアップも近い。


 メーディアの食堂。いつものテーブル。

 整備ロボがセッティングした。白いクロス、銀の食器、一輪挿し。蝋燭は――出てこなかった。

 学習した。4回目にしてようやく学習した。

 いや、見間違いかもしれない。ロボの1体が蝋燭を持って食堂の入り口まで来て、3人の顔を見て、くるりと引き返していった気がする。

 判断能力が育っているのか。それとも、3回怒られたから避けただけか。どちらにせよ、進歩だ。


 祝杯を上げた。酒はレグルスのやつだから不味い。だが、5000クレドの後に飲む不味い酒は、なぜか美味い。

「なあ、ケイト」

 ガルドが酒のグラスを傾けながら言った。

「お前の言う『優雅な生活』って、結局何なんだよ」

「何って……」

 考える。

 転生した日、メーディアの艦橋で途方に暮れていた。1人きりで、話し相手もなく、どこに行けばいいかも分からなかった。

 今、シャンデリアの下に3人いる。不味い酒と、そこそこの飯と、文句を言い合える相手がいる。

「……これだよ」

「は?」

「シャンデリアの下で飯食って、酒飲んで、仲間と馬鹿やって。たまにデカい仕事をこなして、ちょっとだけ贅沢する。それが優雅な生活だ」

「安い優雅だな」

「うるさい。まだ途中だ。いつかもっと高い茶葉買うし、もっといい肉焼くし、ロボにもっとまともな紅茶の淹れ方を教える」

「ロボに紅茶の淹れ方……」

 リーネがくすっと笑った。小さく、だが確かに。

「悪くない目標ね。壮大さのかけらもないけど」

「壮大じゃなくていいんだよ。俺は勇者じゃないし、こいつは戦艦じゃない。宮殿だ。宮殿にふさわしい暮らしをするだけだ」

 ガルドが鼻を鳴らした。リーネが眼鏡を拭いた。

 シャンデリアの光が、3人と、空になった皿と、不味い酒のグラスを照らしている。

 整備ロボがデザートの焼き菓子を持ってきた。3つの皿に、均等に。


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