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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第38話 センスなし

 

 ギルドへ定期便の完了報告に出向いた時のことだ。

 いつもの窓口で、いつもの職員に書類を渡し、判を押してもらって終わり。そのはずだった。


「ケイトさん、少しお時間よろしいですか」


 職員が処理済みの書類を脇へよけ、カウンターの下から別の資料を取り出してきた。


「最近、4隻の編隊で活動されていますよね。そろそろ『旅団登録』をされてはいかがでしょうか」

「旅団?」

「はい。個人の艦長が複数で固定のチームを組んでいる場合、旅団として正式にギルドへ登録することで、いくつか大きなメリットがあるんです」


 職員は手元の資料を広げ、ペン先で項目を指し示した。


「まず、信用評価がチーム単位になります。個人の評価ではなくチーム全体の実績が反映されるため、評価が安定しやすくなります」


 個人評価のままだと、俺が過去にやらかしたマイナスがそのまま俺のランクに直結する。だがチーム評価になれば、ガルドやリーネの堅実な実績で俺のマイナスが薄まる計算だ。信用ランクの低下警告が出て首の皮一枚で繋がっている今の状況を考えれば、これはとてつもなく大きい。


「次に、旅団向けの大型依頼に入札できるようになります。複数拠点への同時輸送や長期の護衛契約、VIPの団体輸送など、個人では到底受けられない規模の仕事ですね」

「……ちなみに、報酬は」

「個人向けの依頼の倍以上になるのが一般的です」

 倍以上。悪魔の囁きかと思った。

「登録の条件は?」

「3隻以上の編隊を組んでいること。全艦の艦長がギルドに登録済みであること。そして、旅団名を届け出ること。以上です。登録費用などは一切かかりません」

 費用ゼロ。条件はすでに満たしている。やらない理由を探す方が難しい。

「……前向きに検討します」

「ぜひ。ケイトさんのチームなら、旅団向けの依頼も十分にこなせるはずですよ」


 * * *


 メーディアの食堂。いつもの4人での会議だ。


「旅団登録の話を持ちかけられた。どう思う」

 俺の言葉に、ガルドが串焼きの肉を噛みちぎりながら眉を寄せた。

「旅団って何だ」

「チームをギルドに正式登録する制度だそうだ。信用評価がチーム単位になって、大型依頼にも入札できるようになる」

 なんでそんな基本的なことも知らないんだ、この脳筋は。

「要するに、金が増えるのか?」

「依頼の規模が跳ね上がるからな。順調にいけば増える」

「じゃあやればいいだろ」

 判断が早すぎる。金が増えるならやる、それ以外の思考回路が存在しないらしい。

 リーネが手元の端末から目を離さずに口を開いた。

「合理的ね。信用ランクの回復にも直結するわ。今のうちの最大の弱点は、あんたの個人評価が全体の足を引っ張ってることだから、チーム評価に切り替えれば数字上の見栄えは劇的に改善する。やらない理由がないわ」


 ……もっと早くその制度を教えてほしかったが、このコミュ障に他人の世話を焼く義理はないから仕方ない。


「シャルロッテはどうだ」

「わたくしも賛成ですわ。旅団として動けるのなら、輸送依頼の幅もずっと広がりますし」

 満場一致。話が早くて助かる。

「よし、じゃあ登録する方向で進める。ただ、問題が1つだけある」

「何だ」

「旅団名を決めなきゃいけないらしい」


 * * *


 旅団名。

 チームの看板であり、ギルドに届け出られ、依頼書に記載され、同業者たちの間で噂される時に呼ばれる名前だ。

 適当に決めていいものではない。


「誰か、いい案はあるか」


 ガルドが即座に挙手した。


「鉄拳旅団」

「却下」

「おい、まだ理由を聞いてないだろ!」

「字面と響きだけで十分にダサいから理由は要らない」

「じゃあ……漆黒の牙」

「さらにダサくなったぞ」

「どこがだよ!」

「全部だ」


 ガルドのネーミングセンスは中学生で止まっているらしい。


「リーネは何かあるか?」

「わたしは名前に興味ないわ。システムとして機能すれば記号でも何でもいい」

「そう言わずに、お前が決めてくれよ」

「……『データ分析旅団』」

「それは名前じゃなくてただの業務説明だ」

「だから興味がないと言ったのよ」


 ため息をつきながら、最後に残った一人に視線を向ける。


「シャルロッテは?」


 彼女は顎に指を当て、少し考え込んでから微笑んだ。

『エトワール』はいかがでしょう。星の輝き、という意味ですわ」

 

上品だ。上品すぎる。


「俺たちの編隊に似合うと思うか? 宮殿と葬儀場と通信基地局とボロい軽トラの集まりだぞ」

「……確かに、少し品が良すぎるかもしれませんわね」

「では、『ノーブル・フリート』。高貴な艦隊、という意味ですけれど」

「こいつ(メーディア)以外に高貴な要素が1ミリもない」

「それもそうですわね……」


 シャルロッテの案はどれも美しすぎて、うちの編隊のポンコツな実態とのギャップがひどい。


「ケイトはどうなんだよ。お前が艦長なんだから、お前が決めろ」


 ガルドに痛いところを突かれた。


「俺もこういうセンスがない自覚はある」

「じゃあ全員ダメじゃねえか!」

「ああ、全員ダメだな」


 4人でテーブルを囲み、すっかり冷めかけた紅茶をすすりながら沈黙が落ちる。

 無駄に豪華なシャンデリアの光だけが、沈痛な空気の食堂を煌びやかに照らしていた。


「……もう、適当でいいか」

「適当って」

「覚えやすくて、短くて、俺たちっぽければ何でもいい。変に格好つける必要はない。どうせ仕事の腕で覚えてもらうんだから」


 俺の投げやりな言葉に、リーネが紅茶のカップを置いて提案した。


「じゃあ、各自1つずつ紙に書いて。くじ引きで決めましょう」

「くじ引き?」

「ええ。どうせ全員センスがないんだから、ここで議論しても時間の無駄よ。運に任せるのが一番合理的」


 暴論だが、反論の余地がなかった。全員のネーミングセンスが壊滅的なのは紛れもない事実だ。

 結局、4人がそれぞれ手元の紙に案を書き込み、小さく折り畳んでテーブルの中央に置いた。


「ロボ、1枚引いてくれ」


 機械が引けば完全に公平だ。

 休眠モードから復帰したロボが、ウィーンとアームを伸ばして1枚の紙をつまみ上げ、器用に広げた。


 * * *


 翌日。ギルドの窓口。

 なぜか4人全員でぞろぞろとやってきた。


「旅団登録をお願いします」

「ありがとうございます。では、旅団名をご記入ください」


 俺は無言で、昨夜ロボが引いたあの紙切れをカウンターに差し出した。

 職員はそれを受け取り、数秒間じっと見つめてから、確認するように口を開いた。


「……『プリンセスお護り隊』、ですか?」

「はい」

「プリンセス、お護り隊」

「はい」


 昨夜、ロボがその紙を開いた瞬間の俺の第一声はこうだった。


『誰だ、こんな頭の湧いたネーミングセンスの持ち主は』


 4人とも匿名で書いたため、誰の字かは分からないようになっている。ガルドは「俺じゃねえぞ!」と即座に否定し、リーネは無表情で紅茶をすすり、シャルロッテは口元に手を当てて上品に微笑んでいた。

 ……犯人は十中八九あの女だが、今さら追及しても仕方ない。くじで決めると合意したのは俺たち自身だ。


「プリンセスを守りたい」と「お護り隊」の掛け言葉。ふざけ倒しているように見えて、この無駄に豪華なプリンセスを守りたいという意志だけは一応込められている。

 嫌だが、一周回って悪くない名前なのかもしれない。たぶん。いや、やっぱり嫌だが。


「登録完了いたしました。本日より『プリンセスお護り隊』、正式に発足となります。おめでとうございます」

「……ありがとうございます」


 おめでとうございます、と満面の笑みで言われた。全くめでたい気分にはなれなかったが、手続きが無事に終わったことだけは喜ぶべきだろう。


 * * *


 登録から3日後。

 早くも旅団向けの依頼が舞い込んできた。


【旅団依頼 Aランク】

 依頼主:ノヴァ・セレーネ工業組合

 内容:3拠点への同時輸送(レグルス→カリスト→ノヴァ・セレーネ→レグルス)+全行程の護衛

 備考:各拠点で荷受けと荷卸しあり。旅団規模の編隊が必要。


 3拠点を巡回するルートに、全行程の護衛込み。

 確かに、個人の艦長が単独で受けられるような代物ではない。複数の船が連携して動かなければ絶対に回らないスケジュールだ。

 そして報酬の額面を見て息を呑んだ。今までの定期便の倍どころの騒ぎではない。


「……旅団の肩書きがついただけで、いきなりこんな依頼が来るのか」

「看板の力よ」

 

 リーネが当然のように言った。

 中身は昨日までと同じ4隻のポンコツ編隊だ。何も変わっていない。だが「旅団」という看板を掲げただけで、ギルドからの見え方が劇的に変わるのだ。


 * * *


 初の旅団任務が始まった。

 4艦編隊でレグルスを出発し、まずはカリストへ向かう。

 カリストの工場に工業素材を降ろし、代わりに精密部品を積み込む。ここでシャルロッテの輸送艇が真価を発揮した。

 彼女はメーディアの艦橋から端末を操作し、遠隔で自分の船のカーゴを開閉して見事な手際で積み替えをこなしていく。ガルドが周囲の宙域を警戒し、リーネが航路データと各所の通信を統括する。

 そして俺はメーディアで旅客の対応を……今回は旅客がいない。純粋な物資輸送と護衛の依頼だ。

 つまり、ピカピカ光って宙賊を引きつける囮要員である俺は、何も起きなければ究極に暇なのだ。


「ケイトさん、紅茶をお持ちしましょうか」

 手持ち無沙汰にしていると、シャルロッテが食堂から声をかけてきた。

「……旅客がいないのに接客されるのか」

「艦長もこの船の大切なお客様のうちですわ」

「俺は客じゃないぞ」

「でも、紅茶はお飲みになるでしょう?」

「……飲む」


 ほどなくして、完璧な温度の紅茶が出てきた。旅客がいない便でも、彼女の淹れる紅茶の質は一切変わらない。


 * * *


 カリストからノヴァ・セレーネへ。

 航行中、宙賊の反応はまったくなかった。拍子抜けするほど平穏だ。ガルドが暇を持て余して通信越しに筋トレの息遣いを響かせてくるのが鬱陶しい。

 ノヴァ・セレーネに到着し、精密部品を降ろして代わりに医薬品を積む。これを3拠点目のレグルスへ持ち帰る算段だ。

 積み替え作業は、1拠点目よりもさらに早くなっていた。シャルロッテがシステムに完全に慣れたらしい。

 リーネは各拠点の荷受けデータをリアルタイムで処理し、どの荷物がどこで積まれ、どこで降ろされたか、全行程のログを完璧に管理している。旅団として複雑な依頼を回すには、こういう裏方の情報処理が不可欠だ。リーネがいなければ絶対に破綻していた。


 ノヴァ・セレーネからレグルスへの復路。

 航行開始から4時間が過ぎた頃、ようやくアラートが鳴った。


「センサーに反応。方位150、2隻よ」

「宙賊か?」

「たぶんね。正規の航路に対して不自然な角度で接近してきてる」

「ガルド」

「見えてる。やるか」

「やれ」


 メーディアが前に出て、無駄に豪華なオーラを放ちながら回避機動を取る。食いついてきたところを、死角からガルドが殴りつける。

 わずか1分。2隻ともあっけなく行動不能に陥った。

 その間、シャルロッテの輸送艇は後方の安全な距離で自動航行のまま待機していた。彼女の船は戦うた

めのものではない。これで正解だ。


「終わりだ」

「はやいですわね」

「まあ、いつもこんなもんだ」


 * * *


 レグルスへ帰還し、無事に医薬品を降ろして全行程が完了した。

 ギルドへ報告に向かうと、窓口の職員が笑顔で迎えてくれた。


「プリンセスお護り隊、初任務完了ですね。依頼主からの評価は……文句なしの『最高評価』です。おめでとうございます」


 最高評価。3拠点の巡回、全物資の無傷での輸送、そして護衛の完遂。全員が自分の役割をきっちりこなした結果だ。


「この評価を維持できれば、信用ランクの回復も時間の問題ですよ」

 信用ランク。低下警告が出てからというもの、ずっと俺の頭の片隅にこびりついていた重荷。その回復への道筋が、ようやくはっきりと見えた。


 ギルドを出る時、ふとロビーの電光掲示板に目をやると、新規登録旅団の紹介欄にうちの名前がデカデカと載っていた。

『プリンセスお護り隊』

 ……やっぱり、ものすごく恥ずかしい。


 * * *


 メーディアの食堂。いつもの4人。

 ロボが4人分のテーブルセッティングを済ませている。花が4つ、紅茶が4杯。


「旅団になっただけで、ここまで世界が変わるもんなのか」


 俺は紅茶をすすりながら、半ば呆れたように言った。


「変わるわよ。それが看板の力」


 リーネが端末を操作しながら答える。


「中身が同じポンコツでも、看板があるだけでギルドからの信用が変わる。依頼の質が変わり、報酬の桁が変わるのよ」

「看板、ねえ」

「この宙域で『プリンセスお護り隊』と言えば、あの無駄にキラキラした宮殿船と一緒に名前を覚えてもらえる。こいつのふざけた見た目が、初めて営業面で役に立ったってわけ」

「こいつの見た目が役に立つ日が来るとは思わなかったな」

 ガルドが肉を頬張りながら笑う。

「まあ、名前はクソダサいけどな」

「お前の『鉄拳旅団』も大概だけどな」

「鉄拳旅団のどこがダサいんだよ!」

「全部だって言ってるだろ」

「お前に美的感覚を期待した俺が間違いだったぜ……」


 ガルドがわざとらしく肩をすくめる。すかさずシャルロッテが彼のカップに紅茶を注ぎ足し、場を和ませた。この女のナチュラルな調停能力は地味に高い。


 シャルロッテがふふっと笑って言った。


「プリンセスお護り隊、わたくしは素敵な名前だと思いますわ。書いた方のセンスが光りますわね」

「……お前が書いたんじゃないのか?」

「くじ引きは匿名ですもの。誰が書いたかは分かりませんわ」

 完璧な笑顔で流された。絶対にこいつだ。

「お護りたい、ですものね。まるでプリンセスをお護りする騎士団みたいでロマンチックじゃありませんか」

「……頼むからやめてくれ」


 プリンセスをお護りする騎士団。名前に込められた痛々しい意味をわざわざ声に出されて、俺は頭を抱えた。本当にやめてくれ。

 ガルドが腹を抱えて大笑いし、リーネは肩を震わせて必死に笑いを堪えている。シャルロッテは相変わらず上品に微笑んでいた。

 俺だけが、まったく笑えなかった。


 * * *


 夜。メーディアの艦橋。

 一人でシートに座り、頭上のシャンデリアの光を見上げる。


 プリンセスお護り隊。

 名前のダサさはともかく、旅団としての初仕事は悪くなかった。3拠点の巡回を問題なくこなし、最高評価をもぎ取った。信用ランクの回復も現実味を帯びてきた。

 4隻の船。4人の艦長。

 半年前は俺1隻だけだった。そこにガルドが転がり込んできて2隻になり、リーネが加わって3隻になり、シャルロッテが来て4隻になった。

 こいつの放つ無駄な光が、少しずつ人を集めていった。

 ……いや、違うな。光が人を集めたんじゃない。光のせいで余計な面倒事が増えて、その面倒事を解決するためにどうしても人手が必要になって、結果として人が増えただけだ。

 順番が逆だ。


 まあ、どっちでもいい。

 結果として今、ここに4人いる。それで十分だ。

 明日も依頼が入っている。旅団としての2件目の仕事だ。

 やることは昨日までと何も変わらない。ピカピカ光って、逃げ回って、荷物を運んで、美味い紅茶を飲む。

 看板が変わっただけで、中身は同じだ。

 俺たちは、激ダサ運命共同体だ。



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― 新着の感想 ―
最初はエトワールとか言ってたのに面白ネームを付けるとは、なかなかやりますね……! 気取った名前よりも面白くてわかりやすいのがいいかも! 戦闘起動するたびに危険が訪れるシャンデリアがいつも心配なのだけど…
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