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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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第24話 アドバイスですわ(指導)


 シャルロッテのバイト、3回目。

 だいぶ慣れてきた。

 というか、慣れすぎている。3回目とは思えないほど自然にメーディアの中を動いている。荷物の置き場所を覚え、客室のセッティング手順を把握し、ロボとの連携が日に日に滑らかになっていく。

 リーネが通信越しに言った。

「あの子とロボ、もう阿吽の呼吸ね」

「3回目だぞ。早すぎないか」

「使用人の動きに合わせるのが体に染みついてるんでしょう。ロボは使用人みたいなものだから、相性がいいのよ」

 元お嬢様のスキルが、こんなところで発揮されている。世の中、何が役に立つか分からない。

* * *

 定期便の準備中。出航2時間前。

 食堂で、シャルロッテがテーブルセッティングの確認をしていた。

 ロボが並べた銀の食器、白いクロス、一輪挿し。いつも通りの完璧なセッティング。俺から見れば何の問題もない。

 だが、シャルロッテの目は違ったらしい。

「あの……少しよろしいですか」

 ロボの横にしゃがんで、ナプキンを手に取った。

「この折り方、とても綺麗なんですけれど、角がほんの少しだけ揃っていませんわ。こう、ここを合わせて、もう一度折り直すと……」

 実演した。ロボが折ったナプキンと、シャルロッテが折り直したナプキン。

 俺には違いが分からなかった。だが、リーネに写真を送ったら「確かに違う。シャルロッテのほうが角が揃ってる」と返ってきた。0.5ミリの差だそうだ。0.5ミリて。

 ロボがシャルロッテの手元を凝視していた。センサーのレンズがズームインしている。

 そして、次のナプキンを手に取り、シャルロッテと同じ折り方で折り直した。

 完コピだ。

「まあ、すごい。すぐに覚えましたのね」

 シャルロッテがロボを褒めた。ロボは答えない。だがアームの動きが少し速くなった気がする。褒められて嬉しかったのか。機械が嬉しいとかあるのか。

「あと、お花の位置なんですけれど。もう少し右にずらすと、お客様の視線がテーブル全体に流れますわ」

 ロボが花瓶を少し右にずらした。

「それと、フォークの角度を……」

 俺は操縦席から食堂の様子をモニターで見ていた。

「ケイト、あれ指導してるわよね」

 リーネが通信で言った。

「指導だな」

 後でシャルロッテに聞いた。「ロボに指導してたのか」と。

「指導なんてとんでもございません。ちょっとしたアドバイスですわ」

 完全に指導だった。しかもロボが素直に全部受け入れている。ロボが外部の人間の指示を聞くのは珍しい。俺の「シャンデリアより客を守れ」は無視するくせに。

* * *

 出航。カリスト定期便。今回はヘルムート夫妻と新規1組の3組6名。

 シャルロッテの接客が前回よりさらにスムーズになっていた。客の好みを覚えている。ヘルムート氏の紅茶が濃いめなこと、マルタ夫人が花を左側に置くと喜ぶこと。前回1度見ただけで記憶している。

「お紅茶、濃いめでございますね。こちらにお花を」

「あら、覚えてくれたの? 嬉しいわ」

 マルタ夫人が目を細めた。シャルロッテの記憶力というか、人を見る力は本物だ。

 俺がヘルムート氏の紅茶の好みを覚えたのは4回目だった。負けた。


 航行は順調。ガルドの筋トレは今日も快調で、3セット目で「暇だ」と通信してきた。いつものことだ。

 リーネはセンサーデータの解析中。赤牙の残党がどうなっているか、定期的にチェックしているらしい。仕事が早いというか、仕事を止めないというか。

 平穏な航行。客はくつろぎ、ロボはサービスし、シャルロッテが気を配り、俺は操縦席でぼんやりしている。

 ぼんやり。

 定期便の往路は、最近これが一番多い。操縦以外にやることがない。こいつは真っ直ぐ飛ぶだけなら手がかからない。航路の微調整はリーネがやるし、護衛はガルドがいる。

 ……暇だ。

 ガルドの気持ちが少し分かってきた。これはよくない傾向だ。

* * *

 航行4時間目。客が客室で休んでいる時間帯。

 シャルロッテが艦内を歩いていた。仕事はひと段落しているが、じっとしていられない性格らしい。

 俺は操縦席で端末を触っていたが、モニターの隅にシャルロッテの姿が映った。第2デッキの中央区画を歩いている。

 あの辺りには、会議室と――

 衣装部屋がある。

 メーディアの調査で見つけた47室のうちの1つ。式典用の衣装が何着もクローゼットに掛かっている部屋だ。俺は1回見て「乗員全員分のおめかし衣装」と呆れて、それきり近づいていない。

 モニターの中で、シャルロッテが衣装部屋の前で足を止めた。ドアが半開きになっている。

 入った。


 数秒後。

 通信が入った。シャルロッテからではない。艦内のセンサーが検知した異常。

 異常の内容:「第2デッキ衣装室にて、乗員の心拍数が上昇」。

 心拍数が上昇。

 何事だ。

 急いで見に行った。

* * *

 衣装部屋のドアを開けた。

 シャルロッテが立ち尽くしていた。

 両手で口を押さえて、目を見開いている。心拍数が上がるわけだ。興奮している。

 壁一面のクローゼットが開いていた。中に掛かっている式典用の衣装が、照明の下で静かに光っている。白を基調に、金と銀の刺繍が入ったドレス。軍服型の礼装。ローブ。マント。

「し、シャルロッテ? 大丈夫か?」

「大丈夫ですわ。大丈夫ですわ大丈夫ですわ大丈夫ですわ」

 3回言った。大丈夫じゃない。

「あの、ケイトさん。これは。この衣装は」

「式典用の衣装だな。こいつが式典艦だった頃の。俺は着ないから放置してたけど」

「放置!?」

 声が裏返った。初めて聞いた。お嬢様が声を裏返すことあるんだ。

「放置って……ケイトさん、これ、分かっていらっしゃいます? このレースの編み方」

 ドレスの袖を持ち上げてきた。繊細なレースが縫い込まれている。確かにきれいだが、俺にはレースの良し悪しが分からない。

「アルデナ織りですわ。今の時代、この技法で織れる職人はもうほとんどいません。博物館レベルの品ですわよ」

「博物館……」

「この刺繍も。銀糸の二重編み。一着仕上げるのに職人が半年かかる手法です。それがここに何着も……」

 シャルロッテの目がキラキラしていた。メーディアのオーラに負けないくらい。

「俺にはレースの価値は分からないけど、すごいものだってことは分かった」

「すごいどころの話じゃございません。この衣装1着で、わたくしの船が3隻買えますわ」

「3隻……」

 あのボロ船が3隻。1着で。

 こいつ、こんなところにも金がかかっているのか。衣装にまで。どこまで豪華なんだ。そしてどうせ、この衣装も持ち出し不可なんだろう。

「これも外せないのかな……」

「外すなんてとんでもない! 保存状態が完璧ですわ。クローゼットの湿度管理がしっかりしているおかげです」

 俺が「外したい」と言ったのを「外すなんてもったいない」と解釈された。温度差がすごい。

* * *

 シャルロッテが衣装を1着1着チェックし始めた。もはや止められない。目が完全にプロのそれだ。素材を触り、縫製を確かめ、染色の状態を見ている。

 ある1着の前で、手が止まった。

 白いドレス。他のものより装飾が控えめだが、生地が違う。光の当たり方で色が変わる。角度によって銀にも、淡い青にも見える。

「……これは」

 シャルロッテの声が小さくなった。

「どうした?」

「エテルナシルク。天然の宇宙蚕から採れる絹。もう材料の蚕自体がほとんど残っていない……こんなところに、まだあったなんて」

 指先でそっと生地に触れた。大事なものに触るときの手つきだった。

「昔、母が着ていたドレスが、この素材でした」

 声がさらに小さくなった。

「舞踏会の夜に。父がエスコートして、わたくしは階段の上から見ていました。キラキラしていて、世界で一番きれいだと思いました」

 ドレスの生地を撫でている。指先が、生地の感触を確かめるように、ゆっくり動いている。

「わたくしも、いつか着るのだと思っていたんですけれど」

 言いかけて、やめた。

 笑顔に戻した。いつもの、きれいなお嬢様の笑顔。

「昔の話ですわ。すみません、つまらないことを」

「つまらなくないよ」

 自然に出た。考えて言ったんじゃない。ただ、つまらなくないと思ったから言った。

「……ありがとうございます」

 シャルロッテがドレスから手を離した。

* * *

 空気が少し重くなりかけた、その時。

 キュルキュルキュル。

 衣装部屋の入り口に、整備ロボが1体現れた。いつの間に来たんだ。

 ロボがクローゼットの前まで進み、ドレスの1着を取り出した。白と金のドレス。さっきシャルロッテが触れていたエテルナシルクのではなく、もう少しカジュアルな1着。

 ロボが、そのドレスをシャルロッテに差し出した。

 無言で。

 まるで、「着てみろ」と言っているように。

「え?」

「おい、勝手に……」

 ロボは引っ込めない。アームを伸ばしたまま、シャルロッテの前で静止している。

「わ、わたくし、そんな……仕事中ですし……」

 ロボが微動だにしない。ドレスを差し出したまま。

 シャルロッテが俺を見た。助けを求める目。

「……止められないと思う。こいつら、こうなると動かないから」

「でも……」

「当ててみるだけなら別にいいんじゃないか。鏡もあるし」

 何を言ってるんだ俺は。


 シャルロッテがおずおずとドレスを受け取った。

 着替えたわけじゃない。作業着の上からドレスを前に当てて、壁際の全身鏡の前に立った。

 鏡に映る姿。くたびれた作業着の上に、白と金の式典用ドレスが重なっている。ちぐはぐだ。

 だが、シャルロッテの顔は、ちぐはぐじゃなかった。

 鏡を見た瞬間、表情がぱっと変わった。

 目が輝いた。口元が緩んだ。背筋がさらに伸びた。

 ドレスが似合う顔だった。着ていなくても、当てているだけで。彼女は、こういう服を着るために育てられた人間なのだと分かる顔だった。

「…………似合いますかしら」

 小さい声で聞いてきた。鏡から目を離さずに。

 似合うかと聞かれても。

 俺にドレスの良し悪しは分からない。ファッションセンスもない。この世界に来てからずっとデフォルトコスチュームの白い軍服を着回している人間だ。

 だが。

「……似合ってると思うよ」

 嘘じゃない。

 シャルロッテの顔がさらに緩んだ。嬉しそうだった。何ヶ月分の嬉しさを全部出しているみたいな顔だった。


 3秒後。

 我に返った。

「な、なんてことを! 仕事中にこんな……!」

 ドレスを慌ててハンガーに戻そうとした。

 袖がハンガーのフックに引っかかった。

「あっ」

 引っ張った。余計に絡まった。

「ちょ、ちょっと、取れない……!」

 地が全開だった。

 お嬢様が衣装部屋でハンガーと格闘している。白と金のドレスに腕が絡まって、クルクル回っている。

「落ち着け」

「落ち着いてますわ!」

 落ち着いてない。顔が真っ赤だ。耳まで赤い。

 ロボが近づいてきて、器用にドレスの袖をハンガーから外した。ロボのアームの精密動作が、こういう時に役に立つ。

「あ、ありがとうございます……」

 ロボに礼を言うシャルロッテ。息が上がっている。髪が乱れている。

 ガルドの通信が入った。

「何やってんだお前ら。心拍数の異常を2回検知してんだが」

「衣装部屋で大騒ぎしてるわ」

 リーネまで参戦した。モニターで見ていたな。

「大騒ぎなんてしてません! ちょっとした……ちょっとした事故ですわ!」

「事故って」

「事故ですわ!」

 事故で押し通した。お嬢様の意地だ。

* * *

 衣装部屋の騒動を収拾し、定期便は何事もなかったかのように進んだ。

 シャルロッテは顔の赤みが引くまで20分かかった。その間、客の前には出られなかったので、俺がロボと一緒に紅茶を出した。俺の接客は雑だが、ロボがカバーしてくれた。

 ヘルムート夫人が「シャルロッテさんは?」と聞いてきた時、「少し休憩中です」と答えた。嘘は言ってない。顔の赤みを引かせる休憩だ。


 カリスト・コロニーに到着。客を送り届けた。

 ヘルムート夫妻が降り際に言った。

「今日も素晴らしい旅でした。シャルロッテさん、また次もいてくれると嬉しいわ」

「はい、ぜひ。ありがとうございます」

 シャルロッテが深くお辞儀した。きれいなお辞儀。顔の赤みはもう引いている。プロだ。

 チップが弾んだ。シャルロッテがいる便は、チップが明らかに増えている。接客の力だ。ロボにはできない、人間の接客。

 これで「人手は足りてる」は、だんだん嘘じゃなくなってきている。シャルロッテがいることで、明確に売上が上がっている。

* * *

 帰路。客を降ろした後のメーディアの食堂。

 4人でテーブルを囲む。ロボが紅茶を淹れた。

 シャルロッテが少し静かだった。

 紅茶のカップを両手で包んで、シャンデリアの光を見上げている。

「どうした?」

「いえ……」

 少し間があった。

「あのドレス、本当にきれいでしたわ」

「ああ。俺には価値が分からないけど、きれいなのは分かった」

「エテルナシルクのほうは、本当に特別なんです。あの光沢は、他のどんな素材でも出せません。母のドレスと、同じ輝きでした」

 お母さんの話は、それ以上掘り下げなかった。シャルロッテも掘り下げなかった。

 ただ、紅茶を一口飲んで、小さく言った。

「ありがとうございます」

「何が?」

「あの部屋を、見せていただいて。あの衣装が、ちゃんと残っていて。嬉しかったんです」

 見せたっていうか、勝手に入っただけだけど。そしてロボが勝手にドレスを出しただけだけど。

 だが、そういうことじゃないんだろう。

 あの衣装が「ある」こと。きれいな状態で保管されていること。それ自体が、シャルロッテにとっては意味のあることだったのだ。

 失った世界の欠片が、ここにまだ残っていた。それが嬉しかった。


 ガルドが肉を噛みながら言った。

「お前ら、今日衣装部屋で何があったんだ。心拍数2回上がってたぞ」

「何もないわ」

「事故ですわ」

 シャルロッテと同時に否定した。ハモった。

 ガルドが首を傾げた。リーネは知ってるくせに黙って紅茶を飲んでいた。

* * *

 夜。シャルロッテが帰った後。

 1人でメーディアの艦橋にいた。

 操縦席に座って、天井のシャンデリアを見上げる。

 こいつの装飾は、俺にとってはずっと「維持費の塊」だった。きれいなのは認める。認めるが、金がかかる。外せない。重い。

 だが、今日、衣装部屋で見たシャルロッテの顔を思い出す。

 ドレスに触れた時の指先。エテルナシルクの話をした時の声。鏡の前で「似合いますかしら」と聞いた時の目。

 彼女が触ると、こいつの装飾が全部「誰かの思い出」になる。

 レースの編み方に、失われた技法を見る。ドレスの素材に、母親の背中を見る。シャンデリアの光に、失った屋敷の灯りを見る。

 俺が「外せない呪い」だと思っていたものが、彼女にとっては「まだ残っている奇跡」だった。

 同じものなのに。

 見る人が変われば、呪いが奇跡になる。


「……こいつは、よく分からん船だな」

 呟いた。

 シャンデリアの光が、いつも通り艦橋を照らしている。

 維持費の塊。外せない装飾。離れられない宮殿。

 だが、誰かにとっては、失った世界への扉。

 こいつの価値は、俺が思っていたよりも、ずっと複雑らしい。


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