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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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20/26

第20話 新航路、キラキラでお届けします


 平和だった。

 恐ろしいほど、平和だった。

 赤牙が壊滅してから2週間。カリスト航路は嘘みたいに静かになった。センサーに怪しい反応が出ない。通信に不審な暗号が流れない。リーネの傍受画面が真っ白だ。

 ガルドの筋トレが8セットに到達した。

「暇すぎて体がおかしくなりそうだ」

「護衛中に8セットやるほうがおかしいだろ」

「何もねえんだからしょうがねえだろ。敵が来ないなら体を動かすしかない」

 脳筋の暇つぶしが限界に達しつつある。これ以上筋トレのセット数が増えたら、操縦桿を握り潰すかもしれない。

* * *

 ギルドから正式に「カリスト航路安全宣言」が出た。

 大げさな名前だが、要するに「この航路はもう安全です。護衛なしで通れます」というお知らせだ。

 レグルスの運送屋たちは大喜びだった。今まで護衛をつけないと通れなかった航路が、フリーパスになったのだ。燃料代の安い直行ルートが使える。護衛費が浮く。効率が上がる。

 みんな喜んでいる。

 みんな喜んでいるのだが。

「ケイトさん、今月の護衛依頼、キャンセルが3件入ってます」

「……だよな」

 航路が安全になったら、護衛がいらなくなる。当たり前だ。自分で安全にしたんだから。

 護衛依頼が激減した。先月は週6件来ていたのが、今週は1件。来週の予約はゼロ。

「これ、自分で自分の首絞めてないか」

 リーネが紅茶を飲みながら言った。

「航路を安全にすれば護衛がいらなくなる。護衛がいらなくなれば護衛の仕事がなくなる。因果応報ね」

「因果応報って、いいことした結果だぞ」

「いいことをして失業する。世の中って難しいわ」

 ガルドが筋トレしながら通信で言った。

「俺たち、平和を勝ち取った結果、暇になったってことか」

「そういうことだ」

「……皮肉だな」

 皮肉だ。宙賊を叩いて英雄になって、その結果として仕事がなくなる。なろう系の主人公ならここで国から褒賞をもらって悠々自適だが、俺たちは運送屋だ。稼がないと飯が食えない。

 こいつの維持費は、平和だろうが戦時だろうが容赦なくかかる。

* * *

 だが、悪い話ばかりではなかった。

 護衛は減ったが、定期便は逆に増えた。

 航路が安全になったことで、今まで「カリストに行きたいけど宙賊が怖い」と思っていた富裕層が動き出したのだ。レグルスとカリストを行き来する人間が増えた。旅行需要が一気に膨らんだ。

 その中で「どうせ乗るならあのキラキラの船で」という客が、驚くほどいた。

 予約が止まらない。

 月2往復だった定期便を、月3往復に増やした。それでも満室が続いた。月4往復にした。それでもだ。

「嬉しい悲鳴ってやつだな」

「悲鳴は悲鳴よ。スケジュールがきつい」

 リーネの言う通り、月4往復はメーディアの運航としてはかなり詰まっている。整備の時間も取りにくい。ロボたちがフルサービスモードをぶん回し続けている。

 だが、収入は安定した。定期便の報酬とチップだけで月20000クレドを超えるようになった。護衛がなくても、こいつの内装が稼いでくれる。

 嫌味なくらい優秀な客船だ。戦艦としてはどうしようもないのに、客を運ぶと途端に輝く。こいつの設計者は、最初からこうなることを分かっていたんじゃないかとすら思う。

 分かってなかっただろうけど。シャンデリアに41.7パーセントの積載を使う人間に、そんな先見の明があるわけがない。

* * *

 カリスト定期便。もはや恒例となった満室便。

 ヘルムート夫妻は今回も乗っていた。3回目……いや、もう何回目か数えていない。完全にこいつの常連だ。

 食後の紅茶の時間。ヘルムート氏がいつもの穏やかな声で言った。

「ケイトくん。1つ、提案がある」

「何でしょう」

「カリスト以外の航路にも、定期便を広げてみないか」

 紅茶のカップを置いた。

「カリスト以外……というと」

「ノヴァ・セレーネだ。あそこにも富裕層のコミュニティがある。カリストより規模は大きい。私の知人も何人かいてね。『ヘルムートが乗ってるあのキラキラの船、うちにも来てほしい』と言われているんだ」

 ノヴァ・セレーネ。ゲーム知識では、レグルスから中距離の商業ステーション。カリストより大きく、人口も多い。富裕層もいるが、商人や企業関係者が中心だ。

「距離は」

「レグルスから約10時間。カリストよりは遠いが、航路は確立されている」

 10時間。カリストの7時間より長い。だが、不可能ではない。

「リーネ、ノヴァ・セレーネ航路の安全状況は」

 リーネがすでに端末を開いていた。この女は話が出た瞬間に調べ始める。

「赤牙は壊滅したけど、ノヴァ・セレーネ方面には別の小規模宙賊がいるわ。レッドファングほどの組織力はないけど、散発的な略奪は報告されてる」

「レッドファング?」

「赤牙の正式名称よ。レッドファング宙賊団。今さらだけど」

 今さらだった。ずっと「赤牙」で通してた。正式名称があったのか。

「で、小規模宙賊の脅威度は」

「低い。うちの編隊なら問題にならないレベル。ただし、ゼロではない」

「ガルドが暴れる機会があるってことか」

 通信の向こうで、ガルドの声が弾んだ。

「おう。やっと仕事が来たか」

「まだ決まってないぞ」

「決まったろ。お前の顔見りゃ分かる」

 通信で顔は見えないはずだが、こいつの勘は妙に鋭い。

* * *

「やる。ノヴァ・セレーネ航路を開拓する」

 メーディアの食堂で宣言した。いつものテーブル。白いクロスに銀の食器。シャンデリアの下で、新しい航路の話をしている。

「赤牙がいなくなった今がチャンスだ。新航路を押さえれば、カリスト一本に頼る必要がなくなる。収入源を分散させる」

「経営者みたいなこと言うわね」

「運送屋は経営者だろ。小さいけど」

「まあ、理には適ってる。カリスト依存から脱却するのは健全よ」

 ガルドが肉を噛みながら手を挙げた。

「で、いつ行くんだ」

「来週。まずは試験航行だ。客は乗せない。航路の安全確認と、ノヴァ・セレーネでの営業」

「営業って何するんだ」

「ドッキングベイに入って、こいつを見せるだけだ。営業は勝手に終わる」

「……確かに。こいつが入港するだけで広告になるな」

 悔しいが、その通りだ。メーディアの最強の営業ツールは、メーディア自身だ。入港するだけで目立つ。見た人間が「何あの船」と言う。噂が広がる。客が来る。

 こいつの視認性300パーセントが、営業力300パーセントに変換される。

 最初から分かっていれば、営業のために造られた艦だと思っただろう。実際は式典のために造られた艦なのだが。

* * *

 1週間後。ノヴァ・セレーネへの試験航行。

 3艦編隊がレグルスを出港した。メーディア、ヴァナルガンド、ヘルメティカ。いつもの顔ぶれだ。

 だが、航路が違う。

 カリスト航路は、もう見慣れた星の並びだった。どの星の横を通るか、どのあたりで宙域が変わるか、全部覚えている。

 ノヴァ・セレーネ航路は、初めてだ。

 星の配置が違う。宇宙の色が違う。カリスト方面は青白い星が多かったが、こちらは橙色の星が点在している。暖かい色の宇宙だ。

 ゲーム時代の記憶と照らし合わせる。ゲームではノヴァ・セレーネは中盤の交易拠点だった。何度か立ち寄ったことがある。だが、画面越しの景色と、窓越しの景色は全く別物だ。

「きれいだな」

 呟いた。

「何が」

「星。こっちの航路、星の色が暖かい」

「ロマンチストね」

「そうじゃなくて……まあ、いいか」

 こいつの窓から見る景色が綺麗なのは、ステンドグラスの色が混じるからだ。橙色の星の光がステンドグラスを通ると、艦橋の床に暖色の光の模様が落ちる。

 余計な装飾のはずなのに、こういう時だけ妙に雰囲気がある。腹立つ。

* * *

 航行8時間目。リーネがセンサー反応を拾った。

「不審な反応が1つ。小型艦。距離300キロ。動きが哨戒パターンに似てる」

「宙賊か」

「たぶん。小規模な連中ね。1隻だけ」

 ガルドが通信で即座に言った。

「やるか」

「1隻にお前が出たらオーバーキルだろ」

「暇なんだ。やらせろ」

「……好きにしろ。ただし50キロ」

「分かってる」

 ヴァナルガンドが加速した。小型の哨戒艦に向かっていく。バフ圏内ギリギリで砲撃。1発。哨戒艦のシールドが吹き飛び、慌てて逃げていった。沈めてはいない。警告射撃だ。

「逃げたぞ」

「深追いしないでくれよ」

「しない。50キロだろ」

 ちゃんと戻ってきた。成長だ。

 リーネが傍受データを分析していた。

「あの哨戒艦、仲間に通信を飛ばしてるわ。内容は……『白い艦がいる。手を出すな』」

「手を出すな?」

「赤牙の壊滅は、この宙域の宙賊コミュニティに広まってるみたいね。白いキラキラの艦がいたら近づくな、という情報が出回ってる」

 こいつの悪評が、この航路にまで届いている。

 悪評……いや、抑止力か。こいつの存在自体が「近づいたらヤバい」というメッセージになっている。何もしなくても。光ってるだけで。

「こいつ、光ってるだけで宙賊を追い払ってるぞ」

「最高の護衛艦じゃない。撃たなくていいんだから」

「撃っても効かないしな」

「それはもう言わなくていいわ」

* * *

 航行10時間。ノヴァ・セレーネが見えた。

 でかい。

 カリスト・コロニーとは規模が違う。巨大なリング状の構造体がゆっくり回転していて、その表面に無数の灯りが瞬いている。ドッキングベイの数もレグルスの3倍はありそうだ。

「ノヴァ・セレーネ、入港許可を申請します」

 管制との通信を繋ぐ。

「プリンセス・メーディア、入港許可申請を受領。ドッキングベイ42に誘導します。なお、入港時の光量について――」

「エンジン稼働中は消せません。停泊すれば消えます」

「……了解です」

 このやり取り、何回目だろう。どこのステーションでも同じだ。入港するたびに光量の説明をするのが俺の人生になりつつある。


 ドッキングベイに入った。エンジンを停止。プリンセス・オーラが消える。

 だが、オーラが消えても、こいつの存在感は消えない。純白と金の艦体。ティアラ型の艦首装飾。フィンの薔薇のレリーフ。停泊してるだけでも、隣のベイの武骨な商船とは格が違う。

 案の定、周囲の反応。

「何あの船……」

「すげえ内装が見えるぞ。シャンデリアか?」

「あのティアラ、金メッキだろ。いくらすんだあれ」

 初めてのステーションでも、リアクションは同じだ。レグルスの時も、カリストの時もこうだった。こいつが入港すると、周囲が止まる。

 もう慣れた。慣れたが、慣れたくはなかった。

* * *

 ノヴァ・セレーネを歩く。

 カリストとは雰囲気が違った。カリストは「静かな高級住宅地」だったが、こちらは「活気のある商業都市」だ。人が多い。店が多い。看板が多い。エネルギーがある。

 商人の街だ。金が動く街。

 ギルドのノヴァ・セレーネ支部に顔を出した。Aランクの証書を見せると、対応が変わった。

「カリスト航路の封鎖突破の方ですか! 噂は聞いています。ノヴァ・セレーネへようこそ」

 噂がここまで届いている。ギルドのネットワークは広い。

「定期便の運航を検討しています。レグルス=ノヴァ・セレーネ間。VIP旅客輸送と高級貨物の同時運搬」

「それは素晴らしい。この航路にVIP向けの定期便はまだありません。需要はあると思いますよ」

 需要がある。これが聞きたかった。

 ギルドの掲示板を見ると、ノヴァ・セレーネ方面からレグルスに行きたいという旅客依頼がいくつか出ていた。だが、VIP対応の快適な艦がいないので、一般の商船で我慢している状況らしい。

 こいつの出番だ。シャンデリアの下で紅茶を出せる艦は、この宙域にこいつしかいない。


 商業エリアを歩いていると、声をかけられた。

「あなた、あのキラキラの船の?」

 中年の女性。身なりがいい。商人か、企業関係者。

「ええ、まあ」

「ヘルムートさんから話は聞いてるわ。カリストまでの定期便を運航してるそうね。ノヴァ・セレーネにも来てくれるの?」

 ヘルムート氏の人脈、どこまで広がってるんだ。

「検討中です。需要があれば」

「あるわよ。私だけで3組は紹介できる。この街の商人は忙しいの。快適な船旅は需要が高いわ」

 3組。ノヴァ・セレーネに着いて30分で見込み客3組。

 こいつの営業力は、やはり異常だ。入港しただけで客が寄ってくる。

* * *

 レグルスに戻った。

 メーディアの食堂で、試験航行の結果を整理する。


【ノヴァ・セレーネ航路試験航行報告】

 航行時間:片道約10時間

 宙賊遭遇:1件(小型艦1隻。警告射撃で撤退)

 航路安全度:B(小規模宙賊あり。護衛推奨だが致命的リスクなし)

 旅客需要:高(ギルドおよび現地の反応から推定)

 見込み客:最低3組(ヘルムート氏の人脈経由)

 結論:開拓する価値あり


「いけるな」

「いけるわね。カリスト便とノヴァ・セレーネ便を交互に回せば、月の稼ぎは今の1.5倍になる」

「1.5倍……」

 今の月20000クレドが30000になる。こいつの維持費を引いても十分な余裕が出る。茶葉のランクをもう1つ上げられるかもしれない。

「紅茶のことを考えてるでしょう」

「考えてない」

「嘘つき」

 リーネに嘘がバレる回数が増えている。


 ガルドがいつもの肉にかぶりつきながら言った。

「新航路か。いいな。カリスト航路だけだと暇でどうしようもなかった」

「暇じゃなくなるぞ。2航路分の護衛をこなすんだから」

「望むところだ。筋トレ8セットの日々はもう勘弁だ」

「護衛が増えたら筋トレの時間が減るんだぞ。それはいいのか」

「…………」

 ガルドが黙った。本気で天秤にかけている。戦闘と筋トレの二択で悩む男。

「戦闘を取る。筋トレは寝る前にやる」

「いつやっても同じだろ」


 新しい航路。新しい客。新しい星の景色。

 カリストの青白い星から、ノヴァ・セレーネの橙色の星へ。

 こいつのキラキラが照らす範囲が、少しだけ広がった。

 優雅な生活の範囲が広がった、とも言える。

 もっとも、範囲が広がった分だけ、こいつの維持費がかかる宙域も広がったわけだが。

「次のノヴァ・セレーネ便、いつにする」

「来週。客を乗せて正式に運航する。ヘルムートさんの紹介の3組に連絡を入れる」

「了解」

「リーネ、航路のセンサーデータをまとめておいてくれ。次は客がいる。安全を最優先で」

「もうやってるわ」

 この女は本当に速い。


 シャンデリアの下で、3人が紅茶を飲んでいる。

 新しい航路の話。新しい客の話。新しい稼ぎの話。

 赤牙がいた頃は、生き延びることで精一杯だった。花道を覚え、機雷を積み、逃げ回りながら戦った。

 今は違う。

 今は、どこに行くかを自分で選べる。

 それは、たぶん、「優雅」の一部だ。

 行き先を選べること。仕事を選べること。誰と飯を食うか、選べること。

 全部、こいつに乗って、ここまで来たから選べるようになった。

 ……まあ、こいつに乗りたくて乗ったわけじゃないけど。しょうがなく乗ったんだけど。外せないし。

 でも、まあ。

 悪くない景色だ。新しい星が見える。


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