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姫プレイネタ戦艦で殺伐宇宙世界来てしまったんですが!!??  作者: 御蔭


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12/26

第12話 メーディア、影分身の術


 18500クレド。

 あと6500で、機雷投射機に届く。

 定期便と囮依頼の二刀流が軌道に乗り、貯蓄は順調に増えていた。あと2ヶ月もあれば届く計算だ。

 だが、2ヶ月を待つ必要がなくなる依頼が、ギルドの掲示板に出た。


【特殊依頼 Bランク】

 依頼主:ゾルダ商会

 内容:囮輸送

 詳細:高額貨物の輸送ルートを秘匿するため、囮艦による陽動を実施。

    指定航路を視認性の高い艦で航行し、宙賊の注意を引きつけること。

 報酬:10000クレド


 10000クレド。

 これ1回で目標を超える。

「美味すぎないか」

 ガルドが掲示板を見ながら言った。美味すぎる。俺もそう思う。

 リーネに調査を依頼した。

* * *

 翌日。メーディアの食堂で報告を受ける。

「ゾルダ商会。登記上は存在する。中規模の貿易商。ただし、実態が掴みにくい。取引先の情報が少なくて、表向きの活動と規模が一致してない」

「つまり怪しい」

「怪しいわね。ただ、依頼内容自体は前回の囮依頼と同じ形式よ。ギルドを通してるから、最低限の保証はある」

「罠の可能性は」

「否定できない。でも、確定もできない」

 ガルドが肉を噛みながら言った。

「金がいいなら受けろ。罠だったら殴って帰ればいい」

「殴って帰れるかどうかが問題だろ」

「殴れなかったことあるか?」

「ヴェルナーの時」

「あれは殴り合いの前に逃げただろ。殴ってない」

 屁理屈だ。だが、ガルドの言いたいことは分かる。慎重になりすぎて機会を逃すのも問題だ。

「……受ける。ただし、警戒は最大で。リーネ、センサーの走査範囲を最大にして、通信傍受も常時。少しでもおかしかったら即撤退」

「了解」

「あと、通信ブイ射出装置。あれ、使える状態か?」

 リーネが眼鏡を押し上げた。

「応急だけど、偽信号発信器への換装は終わってる。ブイは6基。1回の射出で6つの偽目標を生成できる」

「保険があるのは心強い。よし、行くぞ」

* * *

 3艦編隊で出発。

 指定されたルートは、レグルスから辺境方面に向かう中距離航路。赤牙の活動域の端をかすめるルートだ。前回の囮依頼と似た構成だが、距離がやや長い。

 メーディアがプリンセス・オーラを全開にして先頭を航行する。キラキラ光る純白の宮殿が、宇宙の闇を往く。

 いい加減このキラキラにも慣れた。慣れたというか、諦めた。こいつに乗る以上、地味に生きるという選択肢は最初からない。どこまでも目立つ。勝手に目立つ。こいつの数少ない取り柄だ。取り柄というか、呪いだが。


 航行1時間。静か。

 航行2時間。静か。

 航行3時間。

「……おかしい」

 リーネの声が通信に入った。

「食いつきが遅い。このルート、赤牙の哨戒範囲をかすめてるのに、接触がない。前回の囮任務では1時間半で反応があった」

「たまたま、じゃないのか」

「たまたま3時間も空くのは不自然よ。哨戒艦が1隻もセンサーに引っかからない。まるで……」

 リーネが言葉を切った。

「まるで、この宙域から意図的に引いてるみたい」

 背筋が冷たくなった。

「リーネ、全周走査。最大出力」

「もうやってる。……待って」

 3秒の沈黙。

「センサー反応。複数。方位――全方位」

* * *

 モニターが赤く染まった。

 センサーの画面に、次々と光点が出現する。

 前方。後方。左舷。右舷。上方。下方。

 どこを見ても、敵がいる。

「IFF照合――赤牙。哨戒艦8隻、巡洋艦3隻。……包囲されてる」

 リーネの声が平坦だった。平坦すぎた。本気で危険な時、この女は感情を消す。

「罠か」

「ええ。依頼そのものが罠だったのよ。囮航路に誘い出して、待ち伏せ。哨戒艦を引いてたのは、ここに集めてたから」

 リーネが11話のあの日言っていた「嵐の前の静けさ」。これのことだった。赤牙は数週間かけて戦力を集め、俺たちをこの宙域に誘い込んだ。

 そして、トドメ。

「追加のセンサー反応。方位180。単艦。IFF――」

 リーネの声が、一瞬詰まった。

「傭兵艦グラオザーム」


 通信パネルが点滅した。

 開く。

「お久しぶりです、ケイトさん」

 丁寧な声。低く、落ち着いていて、知性を感じさせる。

 ヴェルナーだ。

「前回は見事な逃走でした。廃棄ステーションの防衛システムを利用するとは、参りました」

「……褒められても嬉しくないな」

「今回は退路を塞がせていただきました。ご了承ください」

 通信が切れた。

 モニターを見る。グラオザームは退路側に位置している。前方は赤牙の艦隊。後方はグラオザーム。左右も赤牙。

 完全包囲だ。

* * *

「ケイト」

 ガルドの声。低い。戦闘態勢だ。

「状況は見てる。で、どうする」

「……考えてる。30秒くれ」

「30秒も悠長に待ってくれねえだろ、あいつら」

「20秒で考える」

 頭を回す。

 正面突破。ガルドのバフ込み火力で1点を抜く。だが、巡洋艦3隻が前方にいる。抜けるか? 抜けても、後方のグラオザームが追ってくる。

 逃走。どこに? 全方位が塞がれている。小惑星帯も廃棄ステーションも近くにない。

 電子戦。リーネの偽通信で混乱させる。前回はそれで切り抜けた。だが今回の相手は、前回それで騙された連中だ。同じ手は警戒している。

 ――待て。同じ手じゃない。

 今の俺たちには、前回にはなかったものがある。

「リーネ」

「何」

「通信ブイ射出装置。あれを使う」

「……今?」

「今だ。ブイ6基を全方位に射出。偽のメーディアを生成しろ。センサー上にこいつが10隻いるように見せる」

 リーネが1秒だけ黙った。そして。

「面白いわね。やる」

* * *

 メーディアの第4デッキ。通信ブイ射出装置が起動した。

 円筒形の装置から6本のアームが伸び、先端のカプセルが射出態勢に入る。リーネが遠隔でパラメータを調整している。

「各ブイにメーディアのセンサーシグネチャを複製。プリンセス・オーラの電磁パターンも模倣する。射出後、ブイはそれぞれ異なる方向に展開して、メーディアと同一の反応を出し続ける」

「要するに、こいつの分身が6体できる」

「本体と合わせて7体。さらに、各ブイが反射波を生成するから、センサーの種類によっては10以上の反応に見える」

「メーディアが10隻。この宇宙で最も嫌な光景だな」

「あなたが言う?」

「俺が一番嫌だよ。こいつが10隻もあったら地獄だ」


「射出準備完了。いつでも」

「ガルド、聞こえてるか」

「聞こえてる」

「ブイ射出と同時に、方位350に全力射撃。包囲の薄い部分をぶち抜く。そこから脱出する」

「方位350。巡洋艦1隻と哨戒艦2隻か。バフ込みなら抜ける」

「リーネ、合わせろ」

「了解。カウント。3、2、1――射出」


 メーディアの艦底から、6つのカプセルが放たれた。

 カプセルは宇宙空間に散開し、数秒後、起動した。

 プリンセス・オーラの電磁パターンを模倣した金色の光が、6つの点から同時に放たれる。センサー上に、メーディアと同一のシグネチャが7つ、そしてノイズを含めれば10以上の反応が一斉に出現した。

 赤牙の艦隊のセンサーが、一瞬で混乱した。

 さっきまで1隻だった標的が、突然10隻に増えた。どれが本物だ。全部キラキラしている。全部プリンセス・オーラを出している。全部メーディアに見える。

 通信が飛び交っているのが、リーネの傍受画面に映った。

「『何だこれは! 敵が増えた!』『馬鹿な、増援か!?』『10隻だと!? メーディアが10隻!?』」

「メーディアが10隻。想像しただけで吐き気がするな」

「同感だわ」

 リーネが珍しく笑った。

* * *

 混乱は15秒と続かない。プロの軍人なら偽目標を見抜くだろう。だが、赤牙は宙賊だ。訓練された軍とは錬度が違う。15秒が30秒に伸び、30秒が1分に伸びる。

 その1分で十分だった。

「ガルド、今だ!」

「おおおッ!」

 ヴァナルガンドが方位350に突進した。プリンセス・オーラのバフが乗った全砲門斉射。

 包囲の薄い部分。巡洋艦1隻と哨戒艦2隻。

 主砲4門の斉射が巡洋艦の正面シールドを叩き割った。2射目で装甲を抉る。3射目が機関部を貫通し、巡洋艦が爆散した。

 哨戒艦2隻がパニックを起こす。僚艦の巡洋艦が3発で沈んだのだ。偽目標の混乱もまだ続いている。2隻は散り散りに逃げた。

 穴が開いた。

「行くぞ! メーディア全速!」

 こいつのスラスターを全開にする。白い艦体が光を残して加速する。ヘルメティカがぴったりついてくる。

 包囲を突破した。


 だが、1隻だけ追ってくる艦があった。

 当然だ。

 グラオザーム。

 偽目標に一切騙されていない。ヴェルナーは最初から光学カメラで本体を追っていたのだろう。センサーに頼らず、目で見ていた。プロの傭兵だ。

「……来やがった」

 ガルドの通信。声が獰猛だ。

「ケイト。先に行け」

「ガルド?」

「あいつは俺が止める。お前とリーネは離脱しろ」

「馬鹿言うな。あいつと正面からやったら――」

「互角だろ? なら持ちこたえられる。お前らが安全圏に出るまで、時間を稼ぐ」

 ヴァナルガンドが反転した。黒鉄の重装戦艦が、灰青色の傭兵艦に向かって真正面から突っ込んでいく。

「……ガルド!」

「さっさと行け。シャンデリア野郎」

 こいつの悪口に俺が巻き込まれてる。だが、今は言い返してる場合じゃない。

「リーネ、離脱ルートを出せ」

「もう出してる。方位015、最寄りの安全宙域まで12分」

「行くぞ」

* * *

 メーディアとヘルメティカが全速で離脱する。

 背後のモニターに、ヴァナルガンドとグラオザームの戦闘が映っている。

 砲火の応酬。ビームが交差する。爆発の閃光。

 メーディアがガルドから離れていく。50キロのラインが近づく。

「ガルド、もうすぐバフ圏外に出るぞ」

「知ってる。さっさと行け。バフなしでもやれる」

 50キロを超えた瞬間、モニター上のヴァナルガンドの出力表示がわずかに下がった。15パーセントの上乗せが消える。

 だが、ガルドの戦い方は変わらなかった。

 互角だった。

 ガルドの火力はバフが切れた状態でも凄まじい。ヴェルナーの操艦技術もまた一級。2隻の艦が至近距離で撃ち合い、回避し、旋回し、また撃つ。

 殴り合い。純粋な殴り合いだ。

「ガルド、無事か」

「黙れ。集中してる」

 通信越しに、ガルドの荒い息が聞こえた。

 モニターの中で、ヴァナルガンドのシールドが赤く点滅している。限界が近い。

 だが、グラオザームも無傷ではない。ガルドの主砲が何発か食い込んでいる。

「ケイト、安全宙域まであと3分」

「ガルド、3分だ! 3分持ちこたえろ!」

「……知ってる!」


 3分間。

 永遠のような3分間だった。

 モニターの中で、ガルドのシールドが落ちた。装甲に直接ビームが当たる。火花。破片。ヴァナルガンドの左舷装甲が抉れているのが見える。

「ガルド!」

「まだだ!」

 ヴァナルガンドが最後の全砲門斉射を放った。至近距離からの全弾発射。グラオザームのシールドが震え、装甲に火花が散る。

 ヴェルナーが退いた。

 深追いしない。グラオザームが減速し、距離を取る。

 通信が入った。

「……今日はここまでにしましょう。これ以上は、お互いに損害が大きい」

 ヴェルナーの声は冷静だった。殴り合いの直後だとは思えないほど。

「次は、もう少し手際よくやります。それでは」

 グラオザームが反転し、離脱していった。

* * *

 合流地点。

 ヴァナルガンドの状態を見て、俺は言葉を失った。

 左舷装甲がごっそり抉れている。砲塔の1基が破損。シールド発生装置もダメージを受けている。機関系は無事だが、このまま戦闘に出れば沈む。

 大破寸前だ。

「……ガルド」

「生きてるぞ。船も動く。帰れる」

「帰れるけど、この損傷は……」

「修理すりゃ直る。金はかかるがな」

 金。そう、金だ。

 今回の依頼は罠だった。報酬はない。ゼロ。

 それどころか、ヴァナルガンドの修理費がかかる。

 リーネが端末を叩いた。

「ヴァナルガンドの修理費、概算で4000から6000クレド」

 18500クレドの貯蓄から、5000前後が消える。

「……ふざけんなよ」

 誰に向かって言ったのか分からない。赤牙に対してか。ヴェルナーに対してか。それとも、こんな罠に引っかかった自分に対してか。

 たぶん全部だ。

* * *

 レグルスに帰還。ヴァナルガンドをドックに入れた。

 メーディアの食堂。3人でテーブルを囲む。

 整備ロボがいつも通りセッティングした。白いクロス。銀の食器。一輪挿し。

 その完璧な日常が、今日はどこか空々しかった。


「整理するわ」

 リーネが紅茶に手をつけずに言った。

「依頼自体が罠だった。ゾルダ商会は赤牙のフロントか、赤牙に買収された商会。ギルドを通した正規の依頼に見せかけて、私たちを指定宙域に誘い込んだ」

「ギルドは?」

「騙されてた側。ゾルダ商会の実態を見抜けなかった。ギルドには報告する。再発防止を求める」

「報酬は」

「当然ゼロ。依頼自体が虚偽だから」

 ガルドが低い声で言った。

「修理費で貯金が減る。機雷投射機がまた遠のいた」

「ああ。だが、全員生きてる。それは大きい」


 紅茶を飲む。味は、うまい茶葉を使ってるはずだが、今は何も感じない。

「1つだけ、収穫はある」

 リーネが言った。

「通信ブイ射出装置。あれは効いた。赤牙の艦隊を1分以上混乱させた。実戦で有効性が証明された」

「ブイの残りは?」

「ゼロ。6基全部使い切った。補充が必要。1基あたり500クレド、6基で3000」

 また金がかかる。

「でも、あれがなかったら今日は帰って来られなかった。投資する価値はある」

 その通りだ。通信ブイがなければ、あの包囲を破れなかった。こいつの無駄に豪華な式典中継設備が、今日俺たちの命を救った。

 ポンコツはポンコツだが、たまに予想外のことをする。腹立つくらいに。


 ガルドが立ち上がった。

「俺はドックに行く。ヴァナルガンドの修理の立ち会いだ」

「ガルド」

「あ?」

「……悪かった。あの依頼、受けるべきじゃなかった」

 ガルドが振り返った。いつもの荒っぽい顔。だが、怒りはなかった。

「てめえが謝ることじゃねえ。判断は全員でした。それに――」

 ガルドが肩を鳴らした。

「あいつと殴り合えたのは、悪くなかった。次は負けねえ」

 去っていった。

 リーネが紅茶を一口飲んだ。ようやく飲んだ。

「彼、強いわね。あの損傷でヴェルナーを足止めしたのは、普通じゃないわ」

「ああ」

「……赤牙が本気で来てる。次はもっと大きな仕掛けで来るかもしれない」

「分かってる」

 テーブルの上の紅茶を見つめる。

 18500から修理費を引いて、ブイの補充費を引いて。貯蓄がいくら残るか、計算したくなかった。

 だが、計算した。


【チーム口座残高(更新)】

 修理費概算:5000クレド

 ブイ補充費:3000クレド

 残高:10500クレド

 目標:25000クレド

 不足分:14500クレド

 肉串で数えたら7250本。

 笑えなかった。


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