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敵は、秀長  作者: 御厨つかさ


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1/8

序 闇夜



竹阿弥という。


何故、その名が歴史に残されているのかを知るものはいまはない。

歴史の風に吹き消えた幾つもの真実を微かにその名に潜ませて、

竹阿弥という名は残されている。


秀長という。


のちの世に、秀長という名で知られた人物があった。

世に有名な太閤殿下秀吉の弟として知られた真面目な御仁、あるいは、太閤秀吉が殆ど唯一その信頼を置いたといわれる人物の名は、地味ではあるが歴史の中に一応は消えずに留められている。

さて、その父は竹阿弥であるという。

いわゆる、秀吉とは異父兄弟であるという話だ。

実父は同じであるともいうが、歴史の闇に紛れてそれはいまだ定かではない。

故に、謎は残されている。


何故、秀長の父は竹阿弥として伝わっているのか、と―――――。


そう、単なる武士ともあるいは野にある人ともつかぬ奇妙な名だ。

武士階級に使えるおとぎ衆のようなものではなかったか、とは伝わっている。

しかし、秀吉の母が農村の出だとはっきりしているのとは別に、こちらの方は曖昧である。とにかくも、秀長の父が秀吉の父とは異なるともいわれており、その異なる父の名は竹阿弥という――本名というよりは、芸名であるような名を持つものである、とは一応知られてはいるのだ。

何故、ではそのような名を持つものが父であると伝わっているのか?

それに解答はない。

唯、単に父であるとして伝わる名であるというだけのことだ。

歴史の闇は深く、その闇に紛れて庶民であるものの出自など、いくらも消えていこうというものである。

故に、唯、名は伝わっている。

―――竹阿弥、と。

それが何故のことであるのか。


いまだ、確実な答えはみつかっていない。

その歴史の闇夜に消えた答えを、その解答を紐解くことはいまではもうむずかしい。

解答は、ない。

唯、闇が深く横たわるだけだ。

その闇の夜深くに。

少しばかり、垂れた糸。

つながりを探すには頼りなく、辿るにはすでに切れた糸。

ほんのすこし、闇夜に白くほそく糸を辿れば何処に着くのか。

誰も知りはしない物語の始まりを、闇夜に消えた物語を。

その始まりを、すこしばかり追ってみることとしよう。


何故、竹阿弥なのか。


なにゆえに、―――という謎は、いましばし待つこととして。

その解答を得る前に、歴史の闇にその糸を辿らざるを得なくなった者達の物語をすることとしよう。


それはまた、ひとつの謎にくるまった人物の誕生の物語でもある。

南光坊天海。

その正体は、徳川家の築いた幕府の始まりにしっかりと名を残しているというのに、最初から最後まで実に曖昧なものだ。それでいて、徳川家康公の遺された遺骸を弔う大事にまでその姿はみられてある。

その人物が誰であるのか。

それは、歴史の謎のひとつとして、幾つもの説が描かれてきた人物でもある。

さて、敵は秀長、――――。

その前に、ひとつその人物の誕生をみることとしよう。


小田原城攻めの後、戦のすでに決しようとした夜。

その夜に、はじまるのだ。

長き闘いを、秀長手づくりのサルと行わねばならなくなる闇夜の始まりは。

否、それ以前より確かに始まってはいたのかもしれないが。

それでも、その共闘が始まったのはその夜といえただろう。


徳川家康公と、滅んだ北条の主、北条氏政公。

二人が、闇夜に何を想い、いかにして共闘へと至ったか。

いまだ確実な敵の見えぬその夜に、ではいくとしよう。






短いですが、序です。

「敵は、秀長」

別件で資料を集めていましたが、

どうやら大河化というのは資料が集まる好機ですね

ぼちぼち、始まるかと思いますのでよろしくお願いいたします!



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