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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第八七話 善戦

地下深く。


古代神殿を改築した教団本部。


石壁には無数の魔法陣。


天井には青白い燐光。


静寂の中で、教団長は一人、玉座のような高座に座っていた。


報告が届く。


「北側監視影、消失」


「外縁結界、第三層まで破壊」


「影兵接触確認――」


教団長は目を閉じたまま、指先で肘掛けを叩く。


来たか。


彼は知っていた。


いつか来ると。


影の王ユウ。

光の王アレン。


かつて崇拝の対象とした男。


そして、その隣に立つ唯一の存在。


教団長はゆっくり立ち上がる。


「総員、第一陣展開」


広間の両脇で待機していた異能者たちが動く。


孤児だった者。

捨てられた者。

才能だけを持ち、行き場を失った者。


その全員が、この場所で生きる意味を得た。


教団長は静かに告げる。


「今日で終わる可能性が高い」


「だが――誇りを持て」


誰も逃げなかった。


一人の少女が問う。


「教団長。勝てますか」


教団長は少しだけ笑う。


「……善戦はできる」


その瞬間。


轟音。


地上階層が吹き飛ぶ。


石の天井が崩れる。


粉塵。


衝撃波。


悲鳴。


上から、影が落ちてきた。


ユウ。


黒い外套。


静かな目。


長いまつげ。


闇そのもののような存在感。


その隣に光が落ちる。


アレン。


白光を纏い、剣を肩に担いでいる。


教団長は思わず息を呑む。


圧が違う。


存在そのものが、戦場を支配していた。


ユウが一歩前へ出る。


「……終わらせに来た」


たった一言。


だが、その声だけで空気が凍る。


教団長は手を上げる。


「複製展開」


床に巨大魔法陣。


彼が見てきた全てを複製する能力。


炎。

雷。

結界。

召喚獣。

氷槍。

重力圧。


無数の術式が一斉に起動。


空間が埋まる。


だが。


アレンが剣を一振りした。


光が走る。


複製魔法がまとめて裂ける。


「……っ!」


教団長の背筋が凍る。


速い。


いや――


理解より先に壊される。


すぐに第二陣。


啓示の青年が前へ出る。


「右から影兵三十――次に上から影槍!」


予知に近い啓示。


教団員たちが対応する。


影兵を焼く。


封じる。


砕く。


善戦していた。


確かに。


ユウは一瞬、足を止めた。


だが次の瞬間。


影が増殖する。


十。


百。


千。


「……なっ」


床一面が黒に染まる。


影兵が壁からも天井からも湧く。


教団長は即座に複製する。


過去に見た巨大炎竜。


炎が地下を埋める。


影兵を焼く。


しかし。


ユウが片手を上げる。


炎の中から、さらに影が起き上がる。


焼けた影兵すら再構築。


「馬鹿な……!」


死んでも増える。


倒しても戻る。


教団長は初めて理解する。


これが、王。


崇拝の対象。


人ではない。


アレンが前線へ。


光の斬撃。


三人の幹部が一瞬で倒れる。


だが殺さない。


寸止め。


峰で意識だけ刈る。


教団長は叫ぶ。


「まだだ!!」


最後の複製。


一度だけ見た禁術。


巨大黒槍。


地下神殿すべてを貫く威力。


放つ。


だが。


ユウの大鎌が振られる。


黒槍ごと空間が裂けた。


「……っ」


一撃。


複製術式崩壊。


反動で教団長の腕が裂ける。


血が飛ぶ。


膝をつく。


それでも立つ。


まだ終わらない。


教団長は最後の魔法陣を起動。


自らの肉体強化。


複製限界突破。


拳を握る。


突進。


アレンへ。


だが途中で影が絡む。


足が止まる。


ユウの影。


動けない。


その隙にアレンの拳。


腹へ直撃。


肺の空気が全部抜ける。


吹き飛ぶ。


壁へ激突。


石壁が崩れる。


視界が揺れる。


立てない。


教団長は天井を見る。


崩れた石の向こうに光。


そして二人。


影と光。


並んで立っていた。


教団長は笑った。


苦しげに。


「……やはり……神ではなく……王だったか……」


ユウが近づく。


無表情。


だが目にわずかな哀しみ。


「終わりだ」


教団長は頷く。


「……ええ……だが……」


血を吐く。


「あなたを崇拝した者たちは……消えません」


「影に救われた者は……必ずまた現れる」


沈黙。


ユウは答えない。


アレンが静かに言う。


「だから俺たちが導く」


教団長は目を閉じた。


負けた。


完全に。


だが。


悪くない敗北だった。


最後に見たのが――


影と光だったから。


教団本部は静かに崩れていく。


終焉の夜。


そして地上では、夜明けが始まっていた。

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