第八四話 祝
王都屋敷、夜。
月明かりが庭を淡く照らす。
影の軍団は周囲を巡回中。
ユウは静かに歩く。
手には小さな箱――中には影を象った小さな紋章。
メルは気づかず、庭の花に目を向けている。
「……メル」
振り返るメル。
「はい……ユウさん?」
声が少し震えている。
ユウは影を軽く膨らませ、周囲の光をほんの少し遮る。
黒く深い瞳が、月明かりに光る。
「俺は……もう、守るだけじゃ足りない」
メルの胸が高鳴る。
「……?」
ユウは少し口を歪め、むぅ、と短く唇を尖らせる。
「お前を、俺のそばに置きたい」
影の軍団が静かに周囲を囲む。
周りには誰もいない。月だけが二人を見守る。
「……ユウさん……」
メルは顔を赤らめ、目を大きくする。
ユウは小さな箱を差し出す。
影の紋章が箱の中で光り、黒く渦巻くように揺れる。
「……メル。俺と、影の王として、そして――人として、共に歩んでほしい」
「結婚してほしい」
メルは息を詰め、手を口に当てる。
涙が、ぽろりと零れる。
「……はい……もちろん……!」
ユウはむぅ、と口元を歪める。
影の軍団が静かに後ろで影を揺らし、祝福するように光と闇が混ざる。
ユウが影の紋章を指先で小さく浮かせ、二人の手に結びつける。
「……これで、俺たちは……」
メルが微笑み、目を潤ませる。
「……永遠に、一緒ですね」
夜風に、二人の影が重なる。
王都の夜は静かに、しかし力強く、二人の未来を照らしていた。




