第八二話 癒やしの涙
王都屋敷、午後。
メルは影魔法の訓練場で掃除をしていた。
ユウは静かに影を整え、影の軍団と共に任務準備中。
ふと、倉庫の片隅でユウの背を見てしまう。
傷だらけの体。
細かく刻まれた痕跡が、長い戦いを物語る。
メルの手が止まる。
胸が締め付けられる。
「……ユウさん……」
声にならない。
その場で固まるメル。
どうすればいいのか分からず、つい、アレンの元へ駆ける。
「アレン様……ユウさん……どうして……?」
アレンは眉をひそめ、メルの手を握る。
「落ち着け。ちゃんと話す」
庭に移動し、日差しを浴びながら、アレンは静かに説明する。
「ユウは影の王だ」
「俺や国のために、俺も戦ったけど……それ以上に自分の影と戦ってきた」
「……影と?」
メルの声が震える。
アレンは頷き、手を広げる。
「何度も、俺やユウ自身の敵と戦って、体中に傷を負ってきた。俺だってこの手で受けた傷は治せるが、ユウは……」
ユウが少し後ろで黙って立っている。
影の軍団の影が微かに揺れる。
「でも……私が……治療して……」
メルが呟く。
アレンは頷く。
「喜ぶさ」
メルは息を詰め、倉庫へ戻る。
小さく手をかざす。
光がユウの体を包む。
傷の痛みが和らいだ気がする。
ユウは小さく肩を落とす。
メルは堪えきれず、膝から崩れ落ちる。
泣きながら言う。
「……こんなに……傷だらけなのに……」
ユウは無言で、影を少しだけ揺らして答える。
その黒い瞳に、深い闇と感情の波。
アレンがそっとメルの肩に手を置く。
「泣くな。戦ってきた証だ」
ユウは少し首を傾げる。
むぅ、と照れたように顔を赤らめる。
影の王として、誰かに弱みを見せたことはほとんどない。
メルは顔をあげ、涙を拭きながら言う。
「……もう、無茶しないで……」
ユウは影を収め、短く答える。
「……ありがとう」




