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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第七〇話 神を作った日 教団長視点

私は、特別な人間ではなかった。


名も、地位も、力もない。


ただの記録係だった。


王都の片隅。


役所の地下。


帳簿を整え、数字を写すだけの人生。


そこに書かれていた。


削除された支援金。


存在しない復興費。


消えた食料。


そして。


飢えた地区の報告。


凍死者の数。


孤児の増加。


上に提出しても、何も変わらなかった。


「現実的ではない」


「優先順位がある」


「仕方がない」


仕方がない。


便利な言葉だ。


あの日も、仕方がない日だった。


暴動が起きた。


治安部隊が鎮圧。


火が広がり、街が燃えた。


その夜。


私は見た。


黒い影が、王都の塔を覆うのを。


悲鳴。


崩壊。


混乱。


だが同時に。


誰も触れられなかった“上”が、崩れた。


王族の館が炎に包まれ。


貴族が逃げ惑い。


守られていた者たちが、初めて恐怖を知った。


私は、震えていた。


恐怖ではない。


「変わる」


初めて、そう思った。


彼は破壊者だった。


否定はしない。


多くが死んだ。


罪もある。


だが。


腐敗は、止まった。


私の机の上の帳簿は、白紙になった。


不正が消えた。


消えざるを得なくなった。


“影の王”。


誰かがそう呼んだ。


私は笑った。


王ではない。


神だ、と。


神とは、善ではない。


神とは、裁きだ。


私は集めた。


失った者。


怒りを抱える者。


置き去りにされた者。


最初は三人。


地下室。


灯りは一本の蝋燭。


「彼は正しいのか?」


と問われた。


私は答えた。


「正しさではない」


「必要だった」


沈黙の後。


頷きが生まれた。


それが“静影教”の始まり。


我々は武器を持たない。


持つのは言葉。


「強き者が導く」


弱さが搾取されるなら。


強さが支配する方が、まだ公平だ。


そう信じた。


だが、彼は否定した。


“俺は正しくない”


予想はしていた。


神は、自分を神とは言わない。


むしろ、それが証明になる。


信徒は増えている。


静かに。


確実に。


暴力は望まない。


だが、必要なら選択する。


神は拒絶する。


だが人は、神を求める。


私は知っている。


秩序は、空白を嫌う。


王が消えた。


貴族は弱体化。


民は不安。


空白には、何かが座る。


それが彼であるべきだ。


夜。


私は一人で祈る。


「影の王よ」


「あなたが拒絶しても」


「我々は進む」


蝋燭の炎が揺れる。


影が壁に伸びる。


私は、自分の力をまだ使わない。


使う時は、最後だ。


神が本当に人間のままでいられるか。


それとも。


人が神を作りきるか。

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