第六九話
朝。
再建中の王都外れ。
瓦礫がまだ残る空き地。
ユウは腕を組んで立っている。
その前に、ルカ。
緊張で肩が上がっている。
「まず確認だ」
ユウが言う。
「お前の魔法は“弱風”だ」
ルカがむっとする。
「弱いって言うなよ」
レオンが横から淡々と。
「事実だ」
アレンが笑う。
「伸びしろだと思え」
ルカが歯を食いしばる。
「……どうすれば強くなる?」
ユウは、少しだけ考える。
そして言う。
「強くするな」
ルカが固まる。
「は?」
「風を強くする前に、扱えるようになれ」
ユウが足元の砂を指差す。
「吹かせてみろ」
ルカが集中する。
小さな風が起きる。
砂が舞う。
だが、ばらばら。
方向も安定しない。
ユウが首を振る。
「風は“押す”だけじゃない」
手をかざす。
影は使わない。
純粋な体術の動き。
「流れを作れ」
ルカが目を閉じる。
呼吸を整える。
風を“出す”のではなく。
“通す”。
今度は、一本の細い風が走る。
砂が一直線に動く。
アレンが口笛を吹く。
「いいじゃん」
ルカの目が少し輝く。
ユウが続ける。
「弱風は、悪くない」
「強風は破壊する」
「弱風は、操れる」
ユウが小石を空中に放る。
「落ちる前に止めろ」
ルカが焦る。
風を強く出す。
石が吹き飛ぶ。
レオンが即座に氷で止める。
「過剰だ」
ルカが悔しそうに唇を噛む。
ユウが言う。
「力むな」
「風は怒ると荒れる」
「落ち着け」
ルカが深呼吸。
今度は、そっと。
落ちる石の下に、薄い風の層を作る。
石が、ふわりと減速。
完全ではないが、衝撃が弱い。
リアナが微笑む。
「優しい風ですね」
ルカが、少し照れる。
ユウが真顔で言う。
「次は防御だ」
ユウが拳を振る。
本気ではない。
だが速い。
ルカが反射的に風を出す。
バラバラ。
拳が腹に入る。
「ぐっ……!」
アレンが眉を上げる。
「容赦ねぇな」
ユウは無表情。
「戦いは待ってくれない」
「面で出せ」
ルカが構える。
呼吸。
集中。
拳が来る。
今度は、薄い風の膜。
ユウの拳が、わずかに逸れる。
直撃はしない。
「いい」
ルカの目が見開く。
「弱風は“削る”」
ユウが説明する。
「強い攻撃を真正面から止めるな」
「軌道をずらせ」
レオンが補足する。
「風は流体だ。角度を意識しろ」
ルカが何度も試す。
何度も殴られる。
何度も倒れる。
だが。
立つ。
夕方。
ルカは汗だくで立っている。
最後の課題。
「守れ」
リアナが前に出る。
「え?」
ユウが小石を高速で投げる。
ルカが反応。
風の膜。
石がリアナの前で、ふわりと逸れる。
静寂。
リアナが微笑む。
「ありがとうございます」
ルカの胸が熱くなる。
壊すためではない。
守れた。
ユウが小さく言う。
「それが力だ」
ルカの目が、初めて迷いなく前を向く。
アレンが肩を叩く。
「次は俺な」
レオンが冷静に言う。
「基礎百回だ」
ルカが絶望する。
「えぇ……」
笑いが起きる。
影は静かだ。
風は、優しい。
ユウは空を見上げる。
(これが、俺の償いか)
壊した未来の代わりに。
育てる未来。
小さな風が、王都を抜ける。
今度は、穏やかに。




