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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第六八話 影の思想

王都再建は、少しずつ進んでいた。


瓦礫は片付き、仮設の住居が並ぶ。


人々の顔には、まだ硬さがある。


ユウは、今日も働いていた。


無言で、重い石材を運ぶ。


視線は刺さる。


罵声も飛ぶ。


だが、受け止める。


そのとき。


広場の中央で、騒ぎが起きた。


「どけ!!」


若い声。


荒い。


人垣が割れる。


ひとりの少年。


十七、八。


痩せた体。


目だけが、ぎらついている。


風が、彼の周囲に渦巻く。


だが弱い。


突風ではない。


そよ風に毛が生えた程度。


レオンが気づく。


「魔力持ちか」


少年が叫ぶ。


「影の王は正しかった!」


空気が凍る。


比喩ではなく。


本当に、レオンの冷気が漏れた。


ユウは、動かない。


ただ見る。


少年は続ける。


「国は腐ってた!」


「貴族は贅沢して、俺たちは捨てられた!」


「壊れて当然だった!」


弱い風が吹く。


瓦礫の砂埃が舞う。


「影は自由だ!」


「強い奴が正しいんだ!」


広場がざわつく。


怒号が飛ぶ。


「ふざけるな!」


「家族が死んだんだぞ!」


少年は歯を食いしばる。


「俺の家族だって死んだ!!」


沈黙。


「でも、あんたは立ち上がった!」


少年はユウを指差す。


「誰もできなかったことをやった!」


ユウは、目を伏せる。


「だから俺も強くなる!」


風が強まる。


だが、弱い。


本当に、弱い。


アレンが一歩出る。


「やめとけ」


少年が風を放つ。


小さな風刃。


アレンの足元に当たって、消える。


「俺はあんたみたいになる!」


ユウが、やっと口を開く。


「やめろ」


声は、低い。


「なんでだよ!」


「俺は正しいだろ!?」


ユウは、ゆっくり歩み寄る。


影は出さない。


何も使わない。


「俺は間違った」


少年の顔が歪む。


「嘘だ!」


「壊してスッとしただろ!?」


ユウの目が、静かに揺れる。


「スッとした」


正直に言う。


「楽しかった」


ざわめき。


「でもな」


一歩、近づく。


「残るんだよ」


胸を指す。


「ここに」


「消えねぇ」


少年の風が、弱まる。


「強さってのは」


ユウが言う。


「壊す力じゃない」


「壊した後、立ってる覚悟だ」


「お前、誰か守れるか?」


少年は言葉に詰まる。


「守るって……」


「今のお前の風、誰を守れる?」


弱い。


本当に、弱い風。


レオンが静かに言う。


「鍛えれば強くなる」


少年が顔を上げる。


「だが」


氷の王の声は冷たい。


「思想だけ強くなって、力が弱い者は一番危険だ」


アレンが肩をすくめる。


「まず体鍛えろ」


リアナが優しく言う。


「怒りは力になります」


「でも、方向を間違えると、あなたも壊れます」


少年の目から涙が落ちる。


「俺は……どうすればいいんだよ」


ユウは、しばらく考える。


そして。


「俺の監視役になれ」


全員が固まる。


「は?」


アレン。


「俺が逃げたら、風で止めろ」


少年が目を見開く。


「俺の背中、見てろ」


「壊すんじゃなく、守るやり方、教えてやる」


風が、止まる。


少年は、震えながら頷く。


「……俺、名前はルカだ」


「ユウだ」


短い握手。


風が、今度は優しく吹く。


影は、残る。


だが。


正しく向ければ、未来にもなる。


レオンが小さく呟く。


「面倒が増えたな」


アレンが笑う。


「教育係だな、影の王」


ユウがため息をつく。


「王やめろ」


広場に、少しだけ笑いが戻る。


だが。


レオンは気づいている。


思想は、火種だ。


一人で終わらない可能性もある。

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