第六七話 償い
夜。
焚き火は小さい。
笑い声はない。
ユウは一人、少し離れた場所に座っていた。
影は静かだ。
戦いのときのように荒れない。
だが、重い。
王都壊滅。
影の軍勢。
奪った命。
崩した国。
消えない。
「逃げないのか」
背後から声。
レオン。
ユウは振り向かない。
「逃げる?」
「今なら消えられるだろう」
氷の支配者は事実だけを言う。
ユウは小さく笑う。
「……できるな」
影魔法で、どこへでも。
誰にも見つからず。
沈黙。
「でも、逃げたら終わる」
レオンは何も言わない。
続きを待つ。
ユウが拳を握る。
「俺が壊した」
「俺が殺した」
「俺が滅ぼした」
声は震えていない。
ただ、重い。
「だから」
立ち上がる。
「俺が背負う」
翌日。
全員を前に、ユウは頭を下げた。
深く。
ざわめきが広がる。
氷冠騎士団の中には、王都に家族を持っていた者もいる。
怒りは消えていない。
ユウは言う。
「俺は裁かれて当然だ」
誰も遮らない。
「処刑でも、拘束でも、好きにしろ」
アレンが眉をひそめる。
だが口を出さない。
ユウは続ける。
「ただ」
顔を上げる。
涙はない。
「償わせてくれ」
「逃げない」
「隠れない」
「戦う」
レオンが問う。
「どうやってだ」
ユウは、空を見る。
「壊した分、守る」
具体的な罪の償い。
それは抽象ではない。
■ 王都再建の最前線に立つ
瓦礫の撤去。物資輸送。危険区域の浄化。
影魔法で夜通し作業。
■ 影軍の残滓の完全殲滅
自らの魔力の残滓を追い、根絶する。
逃げた影をすべて回収。
■ 他国からの賠償交渉に出向く
罵声を浴びる。石を投げられる。
それでも黙って受ける。
■ 戦争孤児の保護
最も嫌われる立場で、最も弱い者の前に立つ。
「英雄にはならない」
ユウは言う。
「俺は、加害者だ」
沈黙。
やがて。
氷冠騎士団の一人が言う。
「許さない」
ユウはうなずく。
「当然だ」
別の兵が言う。
「だが、働け」
ユウは即答する。
「命尽きるまで」
レオンが前に出る。
「処刑はしない」
ざわめき。
「監視下に置く」
「逃げれば、俺が斬る」
ユウが笑う。
「望むところだ」
アレンが肩を組む。
「サボったら殴る」
リアナが静かに言う。
「罪は消えません」
全員が彼女を見る。
「でも、赦しは積み重ねられます」
ユウの喉が詰まる。
「……時間、かかるよな」
レオンが答える。
「一生だろうな」
ユウは小さく笑う。
「長ぇな」
それでも。
逃げない。
その夜。
ユウは一人で瓦礫を運ぶ。
誰も見ていないところで。
影魔法で一瞬で終わらせることもできる。
だが、使わない。
手で運ぶ。
汗をかく。
痛みを感じる。
それが罰。
それが償い。
遠くから、レオンが見ている。
何も言わない。
アレンが隣に立つ。
「止めないのか」
「止めない」
氷の王は、静かに言う。
「背負うと決めた者は、強い」
焚き火の火が揺れる。
影は、静かに地面に落ちている。
逃げずに。
そこにある。




