第六二話 戦線
クレーターの中心。
白銀と黒が、溶け合う。
レオンは膝をつきかける。
だが、倒れない。
蒼の瞳は、まだ消えていない。
対するユウ。
再生は続いている。
だが、先ほどよりも遅い。
それでも。
ユウは笑う。
「そろそろ、見せてやるよ」
大鎌を地面に突き立てる。
影が、静かに広がる。
それは炎ではない。
霧でもない。
液体でもない。
“概念”。
レオンが感じ取る。
冷気が、わずかに歪む。
ユウが言う。
「影魔法」
地面に走る紋様。
黒い魔法陣。
だが、光らない。
吸い込む。
レオンが氷を展開。
だが。
凍らない。
影は、物質ではない。
“境界”。
ユウが腕を振る。
レオンの足元の影が、立ち上がる。
氷の支配圏内。
なのに。
影は、そこに“ある”。
光がある限り。
存在する。
黒い腕がレオンを掴む。
冷気が効かない。
凍らない。
「氷は止める力だ」
ユウが言う。
「影は、奪う力だ」
レオンの視界が暗くなる。
影が視覚を奪う。
音が消える。
影が聴覚を奪う。
感覚が削がれる。
レオンが歯を食いしばる。
氷冠が軋む。
支配を強める。
空間を凍結。
だが。
影は凍らない。
なぜなら。
それは“存在の裏側”。
ユウが消える。
否。
見えない。
背後。
影から現れる。
大鎌が振られる。
レオンが防ぐ。
だが、遅い。
肩が裂ける。
さらに。
別の影。
別方向から。
影魔法――《多重境界》。
影の中を移動する。
距離も、方向も無意味。
レオンが氷嵐を放つ。
広範囲殲滅。
森が再び白に染まる。
だが。
影は、残る。
ユウが両手を広げる。
影の軍勢が再び動き出す。
凍ったはずの残骸が、影に戻る。
再生。
複製。
奪取。
隠蔽。
影魔法は、戦場そのもの。
レオンが息を荒げる。
支配が、侵食される。
白が黒に削られる。
ユウが目の前に現れる。
至近距離。
「氷の支配者」
「影の中で、どこまで立てる?」
大鎌が振り下ろされる。
レオンが、咆哮する。
蒼の瞳が、さらに深く光る。
氷が、影に触れる。
凍らない。
だが。
“境界”が凍り始める。
ユウの目がわずかに開く。
影と光の狭間。
その“縁”を凍らせる。
影魔法を止めるには。
影そのものではなく。
境界を制する。
白銀の世界が、軋む。
氷の支配圏。
影の侵食域。
境界が、ひび割れている。
レオンの呼吸は荒い。
氷冠が砕けかけている。
蒼の瞳が揺らぐ。
ユウが、それを見た。
「限界だな」
静かに。
だが確信をもって。
大鎌を空へ掲げる。
影が、空を覆う。
森の残骸が浮く。
地面が、軋む。
「見せてやるよ」
影が一点に収束する。
黒い球体。
だが光を飲み込む。
音を吸い込む。
温度を奪う。
「影魔法奥義」
レオンが構える。
氷を総動員する。
だが、間に合わないと理解している。
ユウの声が、落ちる。
「――《黒界崩落》」
球体が、弾ける。
爆発ではない。
“消失”。
半径数百メートル。
地面が抉れ、空間が歪み、氷が砕け、森が蒸発する。
氷の支配圏が、吹き飛ぶ。
白が消える。
レオンが飲み込まれる。
衝撃。
重圧。
存在そのものが削られる感覚。
氷冠が砕ける。
蒼の瞳が暗くなる。
地面に叩きつけられる。
血を吐く。
動けない。
視界が滲む。
ユウが、ゆっくり歩いてくる。
影炎を纏いながら。
「楽しかったぞ」
大鎌が振り上がる。
止めを刺すために。
その瞬間。
光が、走った。
轟音。
ユウの身体が横へ吹き飛ぶ。
地面を滑る。
レオンの前に、立つ影。
否。
光。
アレン。
背中から光翼が広がる。
以前よりも大きく、鋭い。
「ここからは、俺だ」
レオンが薄く目を開く。
「……遅い」
かすれた声。
アレンが笑う。
「主役交代ってやつだ」
ユウが立ち上がる。
口元に血。
だが、笑っている。
「光か」
「氷は止める」
アレンが言う。
「影は奪う」
光剣を構える。
「じゃあ、俺は貫く」
踏み込む。
地面が爆ぜる。
光が一直線に走る。
ユウが影へ沈む。
だが。
アレンの剣が、影ごと貫く。
「……!」
ユウが目を見開く。
光が影の境界を焼く。
影移動が、一瞬遅れる。
アレンが連撃。
速い。
重い。
迷いがない。
レオンが見ている。
朦朧としながら。
だが、微かに笑う。
アレンは、成長している。
ユウが影炎を爆ぜさせる。
だが光が裂く。
黒と白が空中で激突する。
戦場は、再び揺れる。
だが今度は。
氷の代わりに、光。
レオンは、意識を失う直前。
思う。
(任せた)
影の王。
光の剣。




