第五八話 黒き地平
数日後。
森の奥。
氷冠騎士団と辰輝隊は、共同で陣を張っていた。
緊張はある。
だが、崩れてはいない。
その中央。
開けた空間。
即席の演習場。
レオンとアレンが、向き合っている。
「本気ではやらん」
レオンが言う。
「分かってる」
アレンが笑う。
「死なれたら困る」
構え。
氷剣と光剣。
空気が張り詰める。
先に動いたのはアレン。
踏み込み、斬撃。
ギィン!!
氷が光を受け止める。
衝撃波が森を揺らす。
レオンは無拍で足元を凍らせる。
アレンは光翼で跳ぶ。
互角。
速さも、読みも、経験も。
リュシアが息を呑む。
「すご……」
リアナは静かに見守る。
アレンが連撃。
光の残像。
レオンが剣で逸らす。
そして――
無拍。
アレンの肩口が凍る。
「やっぱ速いな」
アレンが笑う。
「光もな」
レオンが短く返す。
その瞬間。
風が、止んだ。
森の音が、消える。
レオンの目が、動く。
アレンも、同時に感じ取る。
「……これは」
魔力。
だが、単体ではない。
圧。
質量。
底なしの、濁流。
リアナが息を呑む。
「禍々しい……」
地平線の向こう。
森の奥。
木々の隙間が、黒く染まる。
影。
一体、二体、ではない。
無数。
数百。
いや――
千。
さらにその奥。
地平が、揺れている。
「……何万だ」
副官が呟く。
空が、暗くなる。
鳥が落ちる。
草が枯れる。
影兵。
影騎士。
影獣。
そして――
蒼槍の影。
黒炎の残滓。
吸収型の歪み。
すべてが、並ぶ。
その中央。
空間が裂ける。
ユウが、現れる。
大鎌を肩に担ぎ。
「やっと、遊べるな」
声は、遠い。
だが、はっきり届く。
レオンの冷気が強まる。
アレンの光が増す。
リアナが祈りを始める。
辰輝隊が隊列を組む。
氷冠騎士団が盾を構える。
森が、黒い海に飲まれていく。
アレンが、低く言う。
「団長」
レオンが答える。
「分かっている」
「これは」
ユウが笑う。
「宣戦布告だ」
影の大軍が、一斉に踏み出す。
地面が揺れる。
森が軋む。
空が沈む。
レオンが剣を構える。
自然氷が地を這う。
アレンが光を掲げる。
空に道が走る。
リアナが結界を張る。
温かな光が広がる。
氷。
光。
聖。
それに対するは――
影。
そして、ユウ。
「来いよ、氷の王」
戦が、始まる。




