第五七話 安堵の凍土
夜。
焚火はまだ燃えている。
氷冠騎士団と辰輝隊は、警戒を続けながらも、わずかな安堵を共有していた。
アレンが湯を飲みながら、何気なく言う。
「そういえば」
レオンが横目で見る。
「今回は、聖女も来てる」
空気が一瞬止まる。
辰輝隊のリュシアが目を輝かせる。
「リアナ様!?」
レオンの眉が、わずかに動く。
「……誰だ」
アレンが、少しだけ誇らしげに笑う。
「聖女リアナ。浄化と再生の奇跡を扱える」
そこに現れる。
白銀の法衣。
長い金髪。
月光を受けて柔らかく輝く瞳。
静かで、芯のある佇まい。
聖女リアナ。
彼女が軽く会釈する。
「氷冠騎士団長様、お噂はかねがね」
声は澄んでいる。
冷たい空気に、温度を与えるような。
レオンは無言で見つめる。
アレンが、やや得意げに言う。
「彼女がいなければ、王都の生存者はもっと減ってた」
「結界も、浄化も、全部ひとりで持った」
レオンの目が、細くなる。
「自慢か」
アレンは少し笑う。
「まぁな」
リュシアが小声でガルムに言う。
「隊長、珍しくドヤってますね」
レオンがリアナを見る。
彼女は焚火の傍で、静かに祈っている。
その周囲だけ、空気が穏やかだ。
レオンの口から、ぽつり。
「……暖かいな」
リアナが顔を上げる。
「え?」
「その周囲」
アレンが笑う。
「無意識で加護出してるんだろうな」
その瞬間。
ひゅう、と冷たい風が吹く。
レオンの周囲の温度が、数度下がる。
リュシアが肩をすくめる。
「さ、寒っ……!」
アレンが眉をひそめる。
「団長?」
レオンは平然としている。
「……無意識だ」
だが、明らかに冷気が強い。
焚火が小さくなる。
リアナが、少しむっとする。
「わたくしが暖めると、凍らせるのですか?」
レオンが即答する。
「競っていない」
「でも寒いです」
辰輝隊の面々が頷く。
「寒いですね」
「急に零度切りましたよ」
アレンが苦笑する。
「張り合うなよ……」
レオンは視線を逸らす。
ほんのわずかに。
「張り合っていない」
だが、周囲はさらに冷える。
リアナが一歩前へ出る。
淡い光が広がる。
優しい温度。
凍土に春が差すような感覚。
氷と光。
せめぎ合う。
パキ……と霜が鳴る。
レオンの眉間に皺。
リアナの頬がふくらむ。
アレンが慌てて間に入る。
「はいそこまで!」
辰輝隊が笑いをこらえる。
氷冠騎士団は困惑顔。
リアナが小さく言う。
「寒いのは苦手なんです」
レオンが、低く返す。
「私は、暑いのが苦手だ」
沈黙。
アレンが、ため息混じりに笑う。
「……相性最悪かもしれないな」
だが。
焚火は、消えていない。
氷も、光も、拮抗している。
リアナがふと、真面目な顔になる。
「でも」
レオンを見る。
「あなたの氷は、優しいですね」
レオンが、わずかに目を開く。
「森を守る凍り方をしている」
静寂。
レオンは何も言わない。
だが冷気が、ほんの少し和らぐ。
アレンがにやりとする。
「ほら、自慢だろ?」
レオンが睨む。
「うるさい」
辰輝隊の笑い声。
氷冠騎士団の小さな安堵。
遠く。
影の空間。
ユウが小さく笑う。
「仲良しごっこか」
「いいよ」
影が、蠢く。
「壊しがいがある」




