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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
王の歩み
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第五四話 空白を食らう者

夜が、重い。


氷冠騎士団の野営地。


凍結結界は三重。


索敵は完全。


隙はない。


それでも。


レオンは、目を閉じたまま言う。


「……来る」


空気が、揺れない。


熱も、冷気も、魔力波もない。


ただ。


“薄くなる”。


森の奥。


黒い人影が、歩いてくる。


炎もない。


威圧もない。


武器もない。


痩身の男。


灰色の髪。


白い肌。


瞳は、空洞のような無色。


影がまとわりついているが、燃えも凍りもしない。


名を与えられている。


影虚えいきょ


元・大賢者の成れの果て。


魔法理論の極点に到達し、

「魔力を無に帰す術式」を完成させた男。


今は――影王の配下。


副官が叫ぶ。


「魔力反応、無し!?」


あり得ない。


存在しているのに、魔力が“観測できない”。


レオンが目を開ける。


「……吸収型か」


影虚が、止まる。


口元が、わずかに歪む。


「試してみろ、氷の王」


挑発でも怒りでもない。


ただの事実提示。


レオンは、一歩踏み出す。


冷気は出さない。


無拍。


影虚の足元が凍る――


はずだった。


パキン。


音が鳴らない。


凍らない。


地面が、そのまま。


影虚の足元に、黒い紋様が浮かぶ。


凍結魔力が、吸い込まれていく。


「……」


レオンの目が、わずかに細まる。


「魔法は、現象だ」


影虚が言う。


「現象は、魔力を伴う」


「魔力は、吸える」


瞬間。


影虚が手をかざす。


氷陣が、崩れる。


凍結結界が、吸われる。


騎士の身体強化魔法が、消える。


「団長!」


騎士の剣が振られる。


物理斬撃。


影虚の体を、すり抜ける。


半実体。


魔力で支えられた存在。


レオンが踏み込む。


今度は剣。


純粋な物理。


当たる。


だが。


吸われる。


剣に込めた微量魔力。


氷属性の残滓。


すべてが消える。


影虚が、掌を向ける。


「返す」


圧縮された魔力波が、爆ぜる。


氷騎士が吹き飛ぶ。


レオンが受け止める。


氷壁を出さず、斬撃で逸らす。


(魔法を使うほど、不利)


影虚が微笑む。


「成長したな」


「だから、楽しい」


レオンの胸中に、焦りはない。


恐怖もない。


(魔法が吸われるなら)


静かに、剣を構える。


冷気を出さない。


魔力を集めない。


無拍。


影虚の背後の空間が凍る。


吸収。


黒紋様が広がる。


だが。


レオンは、視線を動かさない。


次の瞬間。


パキン。


影虚の“影”が凍る。


「……?」


初めて、影虚の声に揺れ。


「魔法は吸える」


レオンが言う。


「だが」


「影は、お前の本体だろう」


凍結対象は、魔力ではない。


“存在の接続点”。


影と実体の境界。


影虚の足元が、白く染まる。


吸収が、遅れる。


「概念干渉……?」


レオンの目が、細く笑う。


「魔法ではない」


「結果だ」


無拍。


連続。


影虚の影が、砕け始める。


存在が、不安定になる。


だが。


影虚も笑う。


「いい」


両腕を広げる。


森中の残留魔力を吸い上げる。


炎精霊の残滓。


凍結の余波。


騎士の魔力。


すべてが、影虚へ。


膨張。


「ならば、魔力を使わず殺してみろ」


レオンの鼓動が、わずかに高鳴る。


(魔力を、使わず)


初めての領域。


だが。


口元が、わずかに上がる。


「面白い」


氷の王は、退かない。


影王は、遠くで見ている。

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