第五十一話 蒼銀の槍
森の奥。
夜。
氷冠騎士団の索敵網の外縁。
そこに、ひとりの女がいた。
蒼い長髪。
腰まで届く髪は、戦闘用に高く結われている。
鋭い琥珀色の瞳。
身に纏うのは、軽装の蒼銀鎧。
背には、細身の長槍。
名は――ミレイア・ヴァルン。
元・南方遊撃騎士団副隊長。
槍術の天才。
“蒼槍のミレイア”と呼ばれた。
彼女は単独で動いていた。
王都壊滅の報を受け、
独断で影王を追っている。
「氷冠騎士団が鈍いなら、私が刺す」
冷たい決意。
森の奥。
影が、揺れる。
ユウが、現れる。
黒衣。
大鎌。
揺れる瞳。
「……あれ?」
首を傾げる。
「また氷じゃない」
少しだけ、つまらなそうに。
ミレイアは、即座に構える。
槍が低く沈む。
無駄がない。
「影王、ユウ」
名を断言する。
「名乗らなくていいよ」
ユウは大鎌を肩に担ぐ。
「どうせ、影になる」
瞬間。
ミレイアが踏み込む。
速い。
空気を裂く蒼閃。
喉を狙う一撃。
ガギンッ!!
大鎌の柄で受け止める。
衝撃波が森を震わせる。
「……へぇ」
ユウの目が、少しだけ楽しげに細まる。
連撃。
槍が雨のように突き出される。
心臓、喉、眼、膝。
すべて急所。
ユウは、半歩だけ動く。
全部、紙一重で避ける。
「ちゃんと強いじゃん」
ミレイアの目が、揺れる。
この男は、見ているだけで対応している。
「止まれ!」
彼女が叫ぶ。
槍が地面に突き刺さる。
蒼い魔法陣が展開。
空間拘束陣。
影を縛る術式。
森の地面が光る。
ユウの足元を縛る光鎖。
「捕らえた」
だが。
ユウは、笑う。
「影を、縛る?」
次の瞬間。
ユウの体が、溶ける。
「影魔法・魔神の瘴気」
鎖は、空を縛る。
「な……」
背後。
影から、ユウが立ち上がる。
「惜しいね」
大鎌が、振り下ろされる。
ミレイアは、反射で槍を横に構える。
金属が砕ける。
蒼銀の槍が、真っ二つ。
衝撃で吹き飛ばされる。
木に叩きつけられる。
それでも立つ。
血を吐きながら。
「……まだ、だ」
突撃。
折れた槍の柄を握り、心臓を狙う。
ユウの目が、一瞬だけ変わる。
感情が、揺れる。
「……いいな」
今度は、正面から。
大鎌が横薙ぎに走る。
静寂。
ミレイアの胴が、裂ける。
膝をつく。
血が落ちる。
ユウが近づく。
「氷じゃないけど、当たりだ」
ミレイアが、睨む。
「……殺せ」
ユウは、少し考える。
「うん」
大鎌が、静かに振られる。
首が落ちる。
森が、沈む。
ユウが手を伸ばす。
影が、彼女の亡骸を包む。
黒い霧が立ち上る。
骨が鳴る。
影が染み込む。
数秒後。
立ち上がる。
蒼い長髪は、黒く染まり。
瞳は、金色に変わる。
肌は青白い。
蒼銀鎧は、黒蒼の影装へ。
折れた槍は、再構築される。
刃は、影の蒼光を帯びる。
影槍騎士・ミレイア。
ユウが満足げに見る。
「いい」
ミレイアが膝をつく。
「御命令を」
声は感情を失っている。
「氷のやつ、倒してきて」
「了解」
彼女の体が、霧のように散る。
影移動。
ユウは、大鎌を肩に担ぐ。
「これで、氷とも少し遊べるな」
森の奥。
氷冠騎士団の索敵陣に、
微細な歪みが走る。




