第五話 影は蠢く
翌日。
アレンはユウと反対方向へ連れて行かれていた。
アレンは街の結界維持のため聖堂区へ行くらしい
ユウは――王都郊外の《魔獣死体保管庫》へ。
完全に扱いが違う。
(……僕、完全に“危険物扱い”だよね……?)
たくさんの護衛をつけられた。しかも屈強な脳筋20名だ。
扱いの差感じていると馬車が止まった。そこには見上げるほどの扉。
巨大な扉が開くと、冷たい空気が流れ込んできた。
巨大な石倉庫の中には、戦場で回収された魔獣の遺骸が整然と積まれている。
ここは兵士でも近づきたがらない場所だ。
「次がある、早くしろ」
リサに急かされる。
へいへい分かってますよ!
渋々奥まで進む。
しばらく進むと中央には、巨大な魔物の死骸が横たわっている。
黒紫の毛皮を持つ牙狼——冒険者でもパーティを組まなければ倒せない、そこそこ高位の魔獣。
「ひぇっ」
ユウが情けない声を上げる。
中学生くらいのガタイの彼には、どう見ても場違いな光景だった。
リサは冷静だったが、目だけが鋭く光っている。
「…………はぁ」
ユウはため息をつき、牙狼の死体を見下ろした。
——やるしかない。
胸の奥で、かすかに黒い熱がうねった。
「やってやんよ!」
ユウは手を前に出し、指先に意識を集中させた。
「出ておいで」
そう低くつぶやく。
その瞬間。
牙狼の死体の“影”が、ぼこり、と水面のように揺れた。
「っ……!」
リサが目を見開く。
影は生き物のように震え、黒い糸が細胞を引き裂くように死体へと絡みついた。
まるで、肉と魂の境界に手を突っ込んで、何かを“抜き取る”みたいだった。
ユウの周囲の空気がひんやりと凍りつく。
影の表面が裂け——
黒い狼のシルエットが、どろりと地面に流れ出す。
闇でできた体。
しかし四肢は確かにあり、動きも滑らかで、目の奥にはうっすらと赤い光を灯している。
ユウは額の汗を拭いた。
「ふぅ……今日けっこう疲れるな……テストでこれって、キツすぎるだろ……」
「ユウ、これをあと何体出せる?」
目を見開いて尋ねるリサ。
ユウはしばし考え——
「わかんないです。魔力切れとかは特に無いかな……」
「…………」
リサは、言葉を失った。
「じゃ、次もやります?」
ユウはそのまま、保管庫の奥の死体ひとつひとつに近づく。
巨大な角牛。
毒壺へび。
翼持つ猿の魔獣。
ユウが手をかざすたびに——“影”がするりと抜け落ちて、闇の兵がひとつ増えていく。
──ズズズズ。
音のような、気配のような黒の波が広間に満ちていく。
(……これほどの量を、少年ひとりが……?
しかも、制御の乱れすらない……?)
監査官としての経験が、警鐘を鳴らす。
これが敵国にいれば国家の脅威。
味方につければ戦局を揺らす最終兵器。
そんな存在が、今は汗をぬぐいながら、
「うわ、こいつ魔力めちゃ持ってかれる……!てか臭い……!近くで見るもんじゃないな……!」
と文句を言っているのだから、リアは現実感を失うしかなかった。
ここから頑張ります。




