第四八話 氷と光
それは、三年前。
北方辺境、氷嶺峡谷。
魔獣暴走の鎮圧戦。
吹雪の中、
二つの異質な力が並んでいた。
一人は、光を纏う青年。
アレン。
まだ「英雄」と呼ばれる前。
もう一人は、
氷の鎧をまとった騎士。
レオン・フロストハート。
すでに北方最強と名高かった。
「前衛は俺が持つ!」
アレンが叫ぶ。
光翼が広がる。
氷嶺狼の群れが、襲いかかる。
「……焦るな」
レオンの声は低い。
次の瞬間、
地面が凍る。
魔獣の足が止まり、
動きが鈍る。
アレンの光剣が、
正確に首を断つ。
連携は、完璧だった。
だが。
峡谷の奥から現れたのは、
想定外の“核”。
暴走源。
巨大な氷竜。
「下がれ!」
レオンが叫ぶ。
だが、アレンは前へ出る。
「俺が討つ!」
光が、爆ぜる。
氷竜の咆哮が、
峡谷を揺らす。
だが――
氷竜は、
倒れなかった。
レオンが、前へ出る。
氷の槍が、空に無数に展開する。
「退け」
短い命令。
「俺は退かない!」
アレンの声が、吹雪に消えない。
一瞬。
二人の視線が、ぶつかる。
レオンの目は、
冷たい。
だがその奥に、
確かな計算がある。
「光は、直線的すぎる」
「核は、凍らせて割る」
次の瞬間。
空間そのものが、凍結する。
時間が鈍る。
氷竜の動きが止まる。
「今だ」
レオンの声。
アレンが、
全力の光を叩き込む。
凍結した核が、砕ける。
戦いは終わった。
吹雪の中、
二人だけが立っている。
「……助かった」
アレンが言う。
素直に。
レオンは、短く答える。
「生き延びただけだ」
その夜。
野営地。
焚火の前。
「お前は、まっすぐすぎる」
レオンが言う。
「それは強みだが、
世界は直線ではない」
アレンは、火を見つめる。
「それでも、
曲げたくないものがある」
レオンは、少しだけ目を細める。
「理想か」
「信じるものです」
沈黙。
焚火が爆ぜる。
レオンが、ぽつりと言った。
「……守れなかったことはあるか」
アレンは、答えなかった。
レオンは、立ち上がる。
「いずれ、お前は選ぶ」
「守るか、切るか」
「その時には、迷うな」
吹雪が、二人の間を横切る。
現在。
ヴァルグレイア城、氷の訓練場。
レオンは、剣を振るう。
氷が砕け散る。
「……選ぶか」
呟き。
王都壊滅の報。
影王。
光の英雄。
レオンは、知っている。
アレンが、
守れなかった側に立っていることを。
「迷うな、と言ったのは私だ」
冷気が、強まる。
「ならば」
氷剣を握り直す。
「迷っているなら――私が斬る」
それは敵意か。
それとも、覚悟の共有か。
遠くで、
風が鳴る。
影と氷。
光を挟んで、
二つの王が、動き出そうとしている。




