第四十五話 遅すぎた叫び
「……アレンは……泣いてました」
その言葉が落ちた瞬間。
ユウの中で、
何かが、軋んだ。
足音がする。
影の道を、
もう一人、歩いてくる。
光を背負った男。
アレンだった。
「……ユウ」
その声は、低く、重い。
影兵が、ざわめく。
だがユウは、
視線を逸らさない。
「……来ると思ってた」
同じ言葉。
だが今度は、
温度が違う。
アレンは、
リアナの隣に立つ。
「話がある」
短い言葉。
ユウは、笑う。
「王の首は、見ただろう」
「約束は守った」
「もう“話”は終わりだ」
「終わってない!」
アレンの声が、
初めて荒れた。
その瞬間。
ユウの中で、
抑えていたものが――
切れた。
「終わってない……?」
声が、低く沈む。
影が、足元から立ち上る。
「終わってないのは……
俺のほうだ」
風が、巻き起こる。
影がうねる。
数万の影兵が、
ざわめき、震える。
ユウの瞳が、
深い闇に染まる。
「王は、自分で首を差し出した?」
「潔い?」
「責任を取った?」
笑い声が、漏れる。
だがそれは、
冷たい。
「ふざけるな」
影が、爆ぜる。
地面がひび割れる。
リアナが息を呑む。
「俺が欲しかったのは……首じゃない」
ユウの声が、震える。
怒りで。
悔しさで。
「裁定の前に、あの玉座で――」
「間違っていたって……」
「一言でよかった……!」
空気が、重くなる。
「追放する前に」
「切り捨てる前に」
「俺の目を見て――」
拳が、震える。
「守れなかったって……言えばよかったんだ……!」
沈黙。
影の軍団が、波打つ。
「最後に首を差し出すなんて……」
「綺麗に終わろうとするな……!」
「全部、終わらせたあとで……!」
怒りは、王へ向いている。
だが同時に――
自分にも向いていた。
「俺は……!」
ユウの声が、裂ける。
「俺は……ずっと待ってた……!」
アレンの胸が、強く痛む。
「止めてくれるのを」
「殴ってくれるのを」
「違うって言ってくれるのを」
視線が、アレンを射抜く。
「お前でもよかったんだよ……!」
静寂。
影が、暴れる。
空が、暗く沈む。
だがユウは、涙を流さない。
「王の首なんて……どうでもいい……」
声が、急に落ちる。
「欲しかったのは……謝罪だった」
リアナが、そっと前へ出る。
だが、止められない。
アレンが、一歩、踏み出す。
「……遅かった」
その言葉に、ユウの影が、跳ねる。
「でも……俺は、今からでも――」
ユウが、叫ぶ。
「今さらかよッ!!」
影が、爆発する。
大地が裂け、
光が飲み込まれそうになる。
アレンは、光を展開し、
リアナを守る。
二人の力が、ぶつかる寸前。
ユウは、自分で、止めた。
影が、凍る。
荒い呼吸。
震える肩。
「……俺は……」
小さな声。
「許すつもりはない」
それは、王への言葉か。
世界への言葉か。
自分への言葉か。
分からない。
「……でも」
ユウは、二人を見る。
「壊す理由は……まだ消えてない」
怒りは、消えていない。
だが――奥底に、
別の感情が混ざり始めている。
アレンは、ゆっくり言う。
「……それでも」
「俺は、お前と話す」
影王と、光の英雄。
その距離は、今、最も近く、
最も遠い。




